第一話 日常
minaとの再会から一年。
春の目黒川でオレが告白をしてから、ついにオレ達は正式に付き合うことになった。
とはいっても、お互い忙しい。
minaは四月から事務所を移籍しても順調だ。
ラジオの冠番組を持ってパーソナリティーをすることが決まった。
メディアへの露出もさらに増え、充実した毎日を送っていた。
一方、オレもminaの事務所の再建騒動から、以前のような情熱を取り戻し、熱心に仕事に打ち込むようになった。そうなると平日は当然minaに会えなくなる。
さすがに、深夜に逢引きをするわけにもいかないしな。
minaは土日は仕事が多く、なかなか二人で会える日がなかった。
とはいえ、メールは毎日のようにしていた。電話もたまにした。
会えない以外は、付き合い始めたカップルと同じようなことをやっていたのだ。メールも今日は何をしたとか、早く会いたいとか、そんな内容だ。
変わった事といえば、
「いつまでも佐伯さん、じゃおかしいから」
とminaがオレの事を「カズくん」と呼ぶようになった。
ファンがますます増えた歌姫が、オレのためだけに甘い声でささやいてくれる。
なんだか照れる。
minaを独り占めしている気がしてうれしかった。
土日の時間を持て余すよりはと、オレはジムに通い始めた。ヒマな時間があるとminaの事を考えてしまいそうだし。
minaの前では少しでもいい自分でいたいからな。minaの周りの芸能人はカッコいい人も多いし。
そんな事をminaに電話で話すと、minaは
「私がカズくん以外の人に目が行くわけないよ。自分からアピールし続けて一年も待ったんだよ。初めて会った時からはもっと待った。私はカズくん一筋。だから安心してよ」
などと、うれしい事を言ってくれた。
オレの脳内では、桜が満開だ。
にぎやかな音楽が鳴り響いて、
飲めや歌えやの大騒ぎ。
まったくその辺のバカップルと一緒だな。
オレの周りの環境にも少し変化があった。
支店の主な面々には転勤がなかったが。
従姉妹の佳奈が大学に合格し、
東京にやってきた。
結構名の通った大学だった。
ちゃんと勉強してたんだな。
実は、佳奈が住むマンションを決める時にひと騒動あって。
佳奈は最初「カズ兄と一緒に住む」と言ってきかなかった。
どうせ、うちの親や佳奈の両親(オレから見て叔父叔母)が反対するだろうと思っていたが、母親は
「どうせ、和弘は一人でロクなもん食べてないから、佳奈がもしお世話をしてくれるなら助かるわ」
と全く反対しないし。
叔父さん叔母さんも
「東京は何かと物騒だから、和弘と一緒の方が安心だ」
などと言ってくる。
叔父さん叔母さん、貴方達はどれだけオレを信用しているのですか?
同居になんてなったら、オレが物騒になっちまうよ。
佳奈は正直可愛い。
目鼻立ちはおとなしめだが、雪国育ちで肌はピチピチで、万年雪のように白い。
手足もすらりと伸びて、地元でもタウン誌の表紙なんかに何回か載っていた。
いくら、兄妹同然に付き合ってきた従姉妹とはいえ、オレも男だ。
よからぬことにならない保証はない。
佳奈はそんな事は全く気にする様子はなく
「そのうち、伯母さんを伯母さんと呼ばなくなる日が来るかもしれないよ」
などと、うちの母親に言っていた。
「そうかい、うん、それも有りかもねえ……佳奈ちゃんなら私も安心だよ」
母親ものんきにそんな返事をしていた。
どういう意味だ。何かの暗号か? さっぱりわからん。
当然、minaのこともあるし。minaが本当に来るかは別として、彼女を家に呼ぶこともできんだろうが。
オレは大反対した。さずがにminaのことや、佳奈とどうにかなってしまうかも、なんてことは言えなかったが。
部屋が汚いとか、仕事で遅いから佳奈には迷惑をかける。とか。
結局、オレのマンションから一駅だけ離れた所に佳奈が住むことで落ち着いた。
オレは、自分にルールを課した。
佳奈をオレの部屋に上げることはしない。
いくら従姉妹とはいえ、そんなことが頻繁にあってはminaも気にするだろうし、年頃の男女が一緒の部屋にいては何が起こるかわからない。
佳奈は最初
「カズ兄の部屋に行きたいよーーそしたら料理も作ってあげるし、洗濯も掃除もしてあげるよ。カズ兄は座ってるだけでいいのに」
などと、頻繁に誘ってきたが、オレは忍の一字を貫いた。
ピチピチの女子大生、しかもつい一か月前まで高校生、がおねだりしてきてもだ。
これは絶対国防圏だ。
グアムも、サイパンも渡してはならない。
陥落すれば、本土が爆撃を受ける恐れがある。
佳奈はその代わり、タッパーに詰めてよく料理をオレに差し入れしてくれた。
慣れ親しんだ故郷の味だ。
あいつ、料理もうまいんだな。
というわけで、minaと会えない代わりに、土日は佳奈に会うことの方が多くなっていった。
始まりました。活動報告とかも使いながら楽しく書いていければと思っております。
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