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三年後
私立の寧廉高校は偏差値60を超える県内でも有名な進学校だ。だが実は、そこに通う生徒は頭の良い生徒ばかりではなく、親のコネを使って入学した生徒も数人混ざっている。
そんなとんでも学校に学力で合格した者の中に赤木高行はいた。
入学して一週間は経つが、高行は誰とつるむでも無く、教室の隅でガラス越しに空を眺めていた。ここ数日この地域は春の嵐が訪れ、外では打ち付けるような雨が昼からずっと降り続いている。
それを見ているとだんだん億劫な気分になり、高行の口からは自然とため息が漏れた。
「おい、どうしたよ」
「⁉」
気が付くと唯一の友人の石谷裕がいつの間にか横に立ち、高行の顔を覗き込んでいた。
そして、高行が驚いて椅子から落ちそうになると裕は笑いながら高行の腕を引いて助けた。
「いきなり出てくるなよ!」
高行が裕を睨んで叫ぶと裕は尚笑って言った。
「いやー、珍しく放課後になってもいるからどうしたのかと思ってな、今日は探しに行かないのか?」
「こんなどしゃ降りの中を長時間自転車で走り回るとどうなる?」
「・・・事故るか、明日風邪ひいて欠席かのどっちかだな」
「そう、つまり今日動いても良い事無し!」
「へー、ちゃんと自分のことも考えてんだなぁ、えらいえらい」
――こいつは俺をなんだと・・・
内心少々腹を立てつつも高行は聞こえないふりをする。
裕の言う通り高行は毎日放課後に捜している人物がいる。
しかし、高行が捜している人物は、名前、年齢、性別、そして何処かの病院に入院しているという情報しか無いのだ。(しかも都道府県も不明)
そのため、高行は高校に入ってからというもの、毎日放課後になるとすぐ学校を抜け出し、あちこちの病院でその人物を探している。
そのせいで、勉強時間まで削っているため、高行の小テストの結果はあまり芳しくない。
それでも高行は彼女を探し出すと決めていた。すべては彼女との約束のために。
「まぁ、そんな高行に一つ朗報をやろう、喜べ」
「は?」
すると裕はニッと、意味深な笑いを浮かべた。
「お前の探してる子の名前が親父の病院のカルテに有った」
「本当か!」
高行は先程までの不機嫌を忘れて裕の話に飛び付いた。
「ああ、ここから走れば10分もかからない所に有る総合病院だ・・・・っておい!」
高行が荷物を持って席を立つのを見て、裕が慌てて止めた。
「なんだよ・・・・」
「なんだよ、じゃねーし、チャリどうすんだよ」
「置いてく」
即答だった。
「・・・わかったわかった、行ってこい。チャリは俺がお前のアパートに届けとくから」
呆れと苦笑が入り混じった表情で裕が答えるのを見て高行は「悪いな、助かる」と返すと急いで教室を出た。