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救いの剣士  作者: エン
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プロローグ

プロローグ

生まれながら魔石という鉱石を体内に秘め力を持つ魔物、力を持たず知恵と欲深さを持つ人間、多くの生物が生き死んでいくエリシオール大陸。

いつもと同じ日々が流れていく中、人々が賑わう一つの街、そんな中細い街道を息を切らしながら走っていく、ボロボロの薄い衣服を着ている10歳前後の少年。時折後ろから聞こえる怒号に何度も振り向き、誰も見当たらない背後の道を何かを怯え揺れ濁りかけた青い瞳は何度も移していた。後ろを気にするあまり前方不注意だったその少年は、鈍い音とともに何かぶつかってしまい、尻もちをついてしまう。痛みを堪えながら見上げるとそこには二人の人間が立っていた。


「大丈夫か?」


少年がぶつかり黒いローブを纏いそのフードがぶつかった衝撃で垂れ落ちてしまい顔を露出した女性が少年を見下ろしながら声をかけ、手を差し伸べた。


「すっ、すみません。」


慌てた様子の少年は反射的な謝罪とともに彼女の手を掴み起き上がると再び走り出そうとするも響き渡る怒号に足が止まり思わず振り向いてしまう。


「いい加減にしろ!このくそガキ!!」


鞭を片手に持ち目を血走らせ如何にもガラの悪そうな男が歩きながら向かってきていた。

青ざめながら少年は再び走ろうとするも恐怖からか体に力が入らず何もないことで躓き転んでしまう。先ほど手を差し伸べてくれた女性も今度は助けてはくれず少年を見ていた。


「さんざん、手間取らせやがってふざけんな!!」


ガラの悪い男が、女性の横を通り過ぎ少年に追いつくと容赦なく鞭を振り下して怒鳴り散らしている。

体を丸めて悲鳴を上げながら振り下される鞭の痛みに耐えている少年は、痛みで霞む瞳で女性の方を見た。

女性の視線は確かに少年を向けられていたが、その瞳には少年を助け出そうとする憐憫の情に満ちたものではなかった。しかし男に少年が鞭で打たれている、そんな状況に近くにいた町の人々が向ける無関心な傍観者の視線とは違うものでもあった。女性の瞳は少年の存在を確かに認識し、その状況を眺めていた。


「―っ!助けて!」


鞭で打たれ痛みで悲鳴を上げる中、心の底からただ一人少年を認識している女性に向かって少年は心の底から叫んだ。


「喚くな!」


助けを求めた少年にさらなる怒りを感じて再び鞭を振り下そうとするものの、その腕は突然動かなくなる。


「その子、奴隷だろ。いくらで売っている?」


腕を掴んでいる女性は、男を見上げながら静かに呟く。


「なんだ、お前は!邪魔をするな!」


怒りで冷静さを欠いている男は、自分の腕を掴んでいる女の手を振りほどこうとするも、ぴくりとも動かなかった。


「いくらで売っていると聞いているんだ?」


女の声が少し低くなり冷たく威圧的なものへと変わる。


「銀貨30だ」


抵抗を許さないその口調に気圧された男は、怪訝そうに定価の三倍の値段を伝えた。商売人としての心が、儲け話を見逃すことができなかった。


「頂くわ。契約は彼として。」


女性の後ろに立っており、同じ黒いローブを纏いフードを深く被り顔を隠している人物は、男の前に立ちローブから腕をだし貨幣が詰まっている布袋から銀貨を30枚あっさりと差し出す。男が手を伸ばすとすぐに引っ込めた。


「契約書は店だよ。ついてきな。」


その意図を理解した男はため息をつき銀貨を持つ人物と共に店へと戻り、姿が見えなくなる。


「商品を置いて契約をしに行くとは頭の悪い男だ。」


去っていた男を一瞥してつぶやき、少年の手を掴み抱き起しながら話しかける。


「立てるか?」


「大丈夫です。―っ!」


強がりを言うも少年の体は言うことを聞かず倒れ込み、女性が抱き支えた。


「あれだけ鞭で打たれたんだ、体中悲鳴を上げて当然だな。」


「・・・っ、助けていただいてありがとうございます。」


少年は頭に当たるローブ越しでも分かる女性の胸の感触に頬を赤らめ恥ずかしそうに見上げながらお礼を言う。


「私の名はユリア、君の名前は?」


ユリアと名乗った女性は柔らかな笑みを浮かべながら少年の名前を尋ねる。


「僕の名はエドです。ありがとうございます。ユリアさん。」


感謝の念を込めてもう一度お礼を言い、紅く美しい女性のその笑みに見惚れたエドという名の少年の青い瞳の濁りが薄れていく。偶然か必然か、買い取られた奴隷少年と紅の剣士の物語が始まっていく。


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