第5話
憲兵隊に少女を引き渡したのはいいが、ネロは上司から質問を受けていた。
取調室ではなく、普通の小さめの会議室だ。
本来であれば10人未満の人がこの部屋にはおり、会議をするはずだが、今はネロと上司の2人しかいない。
部屋の扉をバタンと閉じるとすぐに、直立して休めのかっこいをしているネロに聞く。
「ネロ、どうしてあの場で殺さなかった?」
「分かりません」
「わからないということはなかろう」
上司はさらに聞く。
「いいえ、本当に分からないのです。なぜ、あの様な行動をとったのか。ただ…」
「ただ?」
上司はすぐに聞きたいようで、続きを催促する。
ネロは、自身の胸を指差しながら上司に説明を試みた。
「ここがおかしかったのです。まるで別の自分がいるようで…そんな感覚でした」
「つまり、もう一人のネロが、少女を殺すなと命じたとでも?」
「そういうことになります」
上司は少し考えてから、ネロに命じる。
「今日はもう休め。少女については、後刻報告が出るだろう」
「はっ、お先に失礼します」
ネロは頭を下げて敬礼を行い、部屋から出た。
上司は一人、何か考えている。
「……出現したというのだろうかな。いや、それは考えすぎか」
思いを振り切るように、頭を左右に何往復か振り、上司も部屋から出た。