第11話
「ということは、ネロたちも、こうやって変えられたと言うのか」
「ええ、ですか、肉体の変性は極めて危険ですので、ここで1%にまで人数は減ります」
アルファは、楽しそうに連隊長へ教える。
それが当然だという口調にも感じられるが、そのことを連隊長は指摘しなかった。
「変性が完了すると、起こします。まあ、だいたいは自然に起きるのを待つばかりですが」
研究室にはいくつかのベッドが置かれており、そこで起きることになるようだ。
「変性時、脳も同時に変わってしまうため、シナプスの回路はほぼ全てが組み換わることになります。そのため、生前の記憶を持つことは理論的にはあり得ません」
「…なるほど、出現は生前の記憶ということか」
「さすが連隊長。その通りです」
アルファはこっちへと手招きして壁際の一角にあるモニターへと案内する。
そこにあったキーボードとマウスを操作し、アルファは何らかの資料を見せる。
「“出現”と現在呼ばれている現象は、脳が生前の記憶を現在の体にあてはめて現状を理解しようとするために起こる現象だと、私は考えています。ここからはあくまでも仮説になりますが」
そう前置きをして、さらに資料を進める。
図形がいくつか表示されている。
「脳というのは複雑怪奇な代物です。何をきっかけとして以前の記憶が戻るかが分からない。しかし、強烈な体験というのはかなり深く刻まれているものです。トラウマ、PTSD、解離性障害。さまざまな精神的な障害を生前負っていた場合、同様の体験を再び体験することによって、再び同様の症状を呈するということが確認されています。トリガーとなる事柄は千差万別。何気ない会話がそうなると言う可能性もありますし……」
「ネロのように、殺そうと思った瞬間がトリガーとなる可能性もある」
「そう言うことです。おそらくネロは、生前の記憶を今回の出来事から戻すことになるでしょう。その時、おそらくですが彼は我々に牙をむくことになります」
なぜ、と連隊長がきくより先に、アルファが資料を見せた。
「ネロ・ケルビム、個体番号34-991。変性前の名前は北鷺翼士。北鷺一派と呼ばれる革命勢力の一団のトップだった男です」