脇役っていうレベルじゃねぇぞ!
芸能人のトーク番組を観て良く思う。面白い人生を送っているなと。そこで疑問に思った。
『一般人は、他人に聞かせて面白いと思う人生経験を、一体どれくらい持っているものなのだろうか?』
俺には無い。他人に聞かせて面白い人生経験なんか無い。もし、どんな人間にも、一つくらいは面白い人生経験があるだろうとか思っているヤツ、いたら俺の呪いをプレゼントしてあげよう。
そして俺の呪いにかかった女の子がいたら挙手してください。何が起こるかって? 彼氏ができます。拒否できません。それは呪いですから。
「あー、もう、呪いでいいから彼女が出来ないかなー」
むしろ『恋』って人類史上で最も偉大な呪いかもしれない。今ここに名言が生まれた瞬間だった。でも、それを他人に披露する勇気は俺には無い。言ったら鼻で笑われて死ぬ。俺のメンタルが死ぬ。
「もう知っているヤツがいるかも知れないが、今日から転校生が入るからみんなヨロシクなー」
彼女のいない現実に引き戻された。そうだった、今は朝のホームルームだった。この時間は毎回、担任のヒゲティ―チャーが支配する空間となる。ずっとヒゲティ―チャ―のターンだ。今まで一回も生徒のターンになったことは無い。
「ククク……、朝のホームルームでは、誰も俺に逆らうことはできないのだ」
とヒゲティ―チャ―が言った。しかし、俺の妄想内だったので現実には起こっていない発言だった。……もういい、やめよう。なんか段々苦しくなってきた。高校生にもなって夢想遊びしかやることないとか、なんか胸が痛む。この胸の痛みは、ひょっとして、変? これが変人になる痛みってことなのだろうか?
「おい、じゃあ、生田、クラスメートにお前を紹介するから入ってこい」
ヒゲ先生はそういって教室の外に向かって声をかけた。ガラガラと音を立てて引き戸が動いた。
岩の戸が開いて中からアマテラスが出てきたという神話を瞬時に思い出した俺は、なかなかのロマンチストだったと思う。
しかし、それぐらい衝撃があったのも、また事実だ。
女神だ。教室の戸を開けて入ってきた女の子は女神を名乗っても、神から天罰を受けることが無いだろう。
神ですら恋をしてしまいそうな美人がそこには立っていた。……なるほど。美人で国が崩壊してしまう理由が理解できたと思う。
腰まで届く黄金の髪は、あまりに正々堂々とした校則違反だったが、きっと教頭あたりが籠絡されていて、特別許可が出ているに違いない。
当然、そんな美人の登場に『いつも通りの日常』が太刀打ちできるわけが無かった。教室の平穏が崩壊した。
「誰だお前はッ!!」
ヒゲティーチャーが驚愕の表情で美人生徒を睨みつけた。良い質問だ。今すぐプロフィールの公開を要求する。特にBWHの情報は最重要だ。あと、住所。住所さえわかれば、俺はこの腐った世の中に理想郷を見出すことができる。
そこで違和感を覚えた。「誰だお前はッ!!」という発言は、見知らぬ人物に対する言葉だ。ヒゲ先生と美人生徒の間に、面識が無かったということがあり得るだろうか? いや、あり得ない。ここから導き出される答えは一つだった。
「……おい、謎のお嬢さん。生田はどうした? さっきまで廊下にいたハズだが」
「安心しろ。すでに始末してある。」
なるほど。生田はすでに始末されていた。金髪の美女は喋り続ける。
「なぁに、気にするな。すぐにお前らも生田のもとに送ってやろう」
そういって美女は血で濡れたロングソードを構えた。たぶん生田とかいう転校生の血液だった。セーラー服とロングソード。すげぇ組み合わせというか、これ、誰か早く警察に連絡しないと不味くない?
「……ここは健全な高校なんだがな。そんな物騒なものを振り回されたら迷惑だ」
「ふん、何が健全な高校だ。ここの全校生徒と教師が魔王軍によるモンスターで構成されていることは調査済みだ。人類の敵として、おとなしく勇者である私に滅ぼされるがいい」
「くそっ、もういい。茶番は終りだ! 全員本来の姿に戻れッ!!」
ヒゲ先生の号令によってクラスメート全員が魔物としての本性を露わにした。肌が変わったり角が生えたりと個人によって様々だ。俺も魔物としての本性を解放しようとした。しかし、できなかった。俺も魔物としての本性を解放しようとした。しかし、出来なかった。俺も……。
くそっ! 諦めるな! みんなに出来て俺だけが出来ないなんていうことがあるだろうか?
いや、無い! そうだ! 俺だけが出来ないなんて、そんなことが、あるわけ……。
「変身できない……だと……!?」
「おい! どうした村野! 早く変身しないとマズイぞ!」いつも何かある度に俺の心配をしてくれる裕次郎が、今回も俺のことを心配してくれた。そして、気付いてしまった。
「村野……お前、まさか……人間なのか?」
美女勇者を含めて全員の視線が俺に集まった。ヒゲが言った。
「馬鹿な! どうして人間が? 我らの本拠地にずっと忍び込んでいたというのか!?」
静寂が場を支配する。
衝撃の事実だったようだ。
それはそうだろう。まさか人間がずっとこの魔王軍の本拠地にいたなんて、誰が想像できただろうか?
俺は開き直って、そして笑ってみせた。
「ふははははは! そうだ! 今さら気付いたか! しかし、あえて言おう!」
そして俺は叫んだ。
「どうして俺はここにいるッ!?」
俺は普通に高校を受験して、合格して、そして学生生活を営んでいただけだ。なのになんだこれはッ!?
ふざけるんじゃねぇ! 無関係でしたっていうレベルじゃねぇぞ!!