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 チャイムの音が聞こえた。反射的に身体を起こし辺りを見回すと、すぐ傍に大輝が座っていることにようやく気付いた。つまり、一時間、何もせずに座っていただけとすれば、彼にしては随分忍耐がある。

 「・・・サボリ、だよ」

 気まずさから、少しおどけた調子で声を掛けると、彼は目を閉じ、鼻を鳴らした。

 「それを言うなら、お前も同罪だ。目をつけられても知らねえぞ」

 大輝の手が伸びたので、てっきり殴られるのかと思い身構えた。だが、彼の手は頭を通りすぎ、僕の腕を掴んだ。ずっと掌をコンクリートにつけていたのだろう、奇妙な冷たさと砂が皮膚に触れ、ぞくりと一度身体が震えた。

 「おい、バレる前に戻るぞ」

 一時間休んで気づかれないものだろうかと疑問に思ったが、話をややこしくしてしまいそうで、何も応えずに彼にひかれるまま、校舎の中へ戻った。

 それからすぐに教室に戻ったのだが、誰も何も気づかないまま、次の授業が始まった。そういうものだと思うと、ほんのわずかな寂しさと切なさと同時に、安堵感があった。注意されずに済んだからではなく、僕一人が消えたところで、だれも困りはしないことに対してだ。なら、不意に僕が死んだとしても、誰かが悲しむ姿を見なくて済む。いや、死んだ後のことなど分かるはずが無いのだが、傷つける人が少ない分は大いに結構なことだろう。

 昼になれば、さくらが弁当を持って僕の教室にやってきた。けれど、やはりのっぺりとした肌がそこに在るだけで、顔の形がわからない。

 世界が変わったわけじゃない、僕が変わったわけでもない。時間が経っただけなのだ、何も変わってはいないのに、時間だけが過ぎたのだ。きっと、佐藤の顔も見えなくなっていることだろう。年賀状のやり取りだけはしているが、実際はしばらく会っていない。

 友人だけでなく、親族でもそうなのだが、会わない期間が長くなると、話題にすること自体が億劫になる。そして次第に恐怖が心を支配し、拒絶するに至ってしまう。付き合い方の要領を得なくなる。親しげに声を掛けても良いのか、距離を置いてしまう方がよいのか、不安になる。向こうは本当のところ、僕のことなど鬱陶しいと思っていたのではないかと、後ろ指を指されているのではないかと怖くなる。

 部室に居たくは無かったが、家に帰りたいわけでもない。放課後、何度か屋上に出たが、あの時のように、衝動的に飛び降りることはもう出来そうもない。言葉が僕を縛り、恐怖が足を引きとめる。精神は身体に打ち勝つことは出来ない。苦しいと思いながら、僕は身体により生かされている。生きる気力の無い者のために金、物、時間は浪費され、罪悪感が頭から離れない。けれど、思考は逃げることを許してくれない。何とも馬鹿げている、馬鹿げているが、そのことすら忘れてしまう程に、思い詰めてしまう。

 夏が来る。けれど、成績は芳しくない。両親のため息が聞こえるようで、僕は頭を抱えた。勉強しようとはする、だが、頭が働かない。しかし、それは言い訳に過ぎないことも承知していた。だから、何も言わずに黙って、怒りの言葉を耳の中に取り込んでいた。かと言って、反省しているわけではない。何の言葉も琴線に触れず、中身は虚ろだった。

 やれ勉強しろだ、進路を早く決めろだと急かされる。他のものは一歩も二歩も先に進んでいるのに、お前は何をしているのだと、呆れた声が飛んでくる。どうして今、決めなければならないのだろうか。まだどれか一つでも学びきっていないというのに、早い段階で決めて、後悔したとしてもそれは自己責任だと言い含められる。だから、真剣に考えろと皆は言うが、来年のことを言うと鬼が笑う筈ではなかったのか。いや、屁理屈でしかない。社会がそのような法則のもとに形成されているのだから、社会的な人間としてはそれに従い生きなければならない。


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