螺旋階段を昇って
曇りガラスの向こうに見えるそれは、まるで立ち上る煙のようだった。
長い長い、無人の通路を通り抜けて、彼女はそこにたどり着いた。張り巡らされた曇りガラスの壁が消えて、唐突に目の前に現れたのは、白くそびえる螺旋階段。
太い柱に密に絡み付いて、高く高く――遥か頭上へと伸びて、その頂点は見えない。
彼女は昇りはじめた。白い階段は靴の下で硬い音を起てる。カン、カン、カン――。
階段が二回転したあたりで、彼女はこの階段が二重螺旋を描いていることに気づく。決して交わらないもう一つの螺旋、あれは降り階段だろう。
なんだか胸が高鳴った。
足速に昇り階段を駆け上がり、いくらも経たないうちに、あんなに遠くに見えた頂点へたどり着く。そのまま緩やかに回って、降り階段へ。出発点へ戻るのだ。カン、カン、カン――。
たどり着いた出発点に、階段から出るための出口はなかった。啓けていたはずの螺旋階段の周囲の空間は、曇りガラスで覆われている。
彼女はまた昇りはじめた。
昇る。降る。昇る。降る。昇る――。
頂点の白い壁に――切れ目が在るのに気がついた。近くに寄ってみる。下を覗く。
遠い。白い。
何もない。
彼女は一歩踏み出した。足は空を掻き、彼女の身体は落下を始める。地面はないのだ――きっと。だから怖くはない。
しかし、思い出す。
下から見上げた頂点。見えないくらいに遠かったのに。本当はあんなにも近かった。
空気を切り裂いて落ちていきながら、彼女はそっと下を見る。
眼下に広がる白い艶やかな石。
地面が。急速に目の前に。
迫って。
こんにちは。
怖くないかな?と思いつつ、ホラーに挑戦してみました。
私、二重螺旋構造の建築物には妙な憧れを持っていまして。一度も交わらずに昇降できるって、なんか良いです。いや、機能面だけではなく。
初ホラーなので、怖くないんだけど、とか、つまんねぇよ、とか、ここをこうするともっと怖くなる!などありましたら、ぜひぜひ感想書いて頂けると嬉しいです。
では、ありがとうございました。