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崖の上にて

掲載日:2026/05/12

1

男は誰もいない崖の上にいた。ここで俺は人生を終わらせる。クソみたいな日々だった。でも今日それらともオサラバだ。さあ、崖の上から飛び降りるぞ。

「おい、まて」

後ろから声がした。

「誰だ?」

後ろには茶色いフードを被り、顔の上半分を隠している男がいた。少しヒゲが生えている。

「なぜ、飛び降りる?なぜ、自らの命を終わらそうとするのだ?事情があるなら聞くぞ。」

男は話した。

「会社でリストラされたんだよ。それで彼女にも逃げられて、借金だって相当な額ある。俺の力じゃ払いきれないほどな。友達にも見捨てられて俺にはもう何も残ってないんだよ。」

「そうか。それは災難だったな。だが、今終わらせる必要はないんじゃないか。君はまだ若いんだし、いくらでもやり直せるだろう。」

「俺は疲れたんだよ。もう、何も信用できない。それに俺の手元には何も残ってないんだよ。不景気だから俺が働く場所もないだろ。今更やり直すとか無理なんだよ。手遅れなんだ。」「だが、今終わらせなくても、君達には終わりが後から自動でやってくるではないか。ならば、ここで終わらせるより、意地汚く最後まで生きてみた方が良いと思うのだが。」

「これ以上醜態を晒さないためにここで死ぬより、醜態を晒しながら最後まで生きていく方が正しいって言いたいんだろ?そんなの綺麗事さ。俺の気持ちも知らねえで好き勝手言いやがって。だったら言わせてもらうけどな、どうせ死ぬなら今死んでも後で死んでも同じことだろ。俺なんて別に居なくてもいい存在だし。俺の代わりなんて沢山いるしな。」

「・・・。」

「あんたは俺を救おうとしてくれてるんだろうけどな、俺はもう決めたんだよ。だからどっか行ってくれよ。」

「・・・そうか。」

そこからしばらく沈黙が流れる。俺の後ろにはずっと茶色のフードをした男が立っている。いつまでそこに居るんだ?男はとうとう覚悟を決めた。

「じゃあな。」

そう言うと崖から飛び降りた。その時腕を誰かに掴まれた。そして、崖に体を打ちつけた。痛っ、、。上を見上げると、俺の腕を掴んでる茶色のフードを被った男が俺を崖の上から見下ろしていた。フードの男は言う。

「君が死ぬ前に、私の話を君に聞かせてやろう。私はな、不死身なんだよ。」

「は?今更何バカな事言ってんだよ?おい。手離せ」

フードの男は手を離さない。何なんだコイツ。

「私はずっと生きてきた。君が想像してるより遥か昔から。自分の生まれた年を思い出せないほどにな。」

「俺はあんたのしょうもない作り話に付き合う義理なんてないんだよ。さっさと手離せよ。」

「君の気持ちは良くわかる。私は君が味わったような苦しみを何度も何度も味わってきた。だって私は君よりも遥かに長い年月を生きてるからな。その度に私は自分の命を終わらそうとしてきた。でも私は死ぬ事が出来なかった。様々な方法を試した。結果私は生きてる。私はね、この崖の上から飛んで自殺しようとする連中をよく見るんだよ。その度に思うんだよ。君達が羨ましいってな。私はずっと君達になりたかったんだ。不死身の体を手に入れて幸せになれる奴はほんの一部の人間だけだ。不死身は私達のような常人には耐えられない。この世の中、常人には不幸が多い。私は自分の体について何年も研究してきたのだよ。私自身の命を終わらすためにな。そして最近分かった事がある。私はとある方法でこの不死身の力を他人に与える事が出来るらしい。」

そう言うとフードの男はニンマリと笑った。腕を掴まれていた男の顔は恐怖で歪んだ。

「おい、、。あんたまさか、、。冗談だろ、、。冗談だよな、、、。」

「私が君を本気で救おうとしてると思っていたのか?甘いな。その甘さが今の君自身をここまで追い詰める事態を招いたんじゃないのか?簡単に人を信用しちゃいけないよ。他人の心なんて誰にも分からないんだから。そもそもなぜ私だけこんな目に合うのだろう?そんなの不公平だと思わないかい?私はあと何百年この気持ちを抑えなければいけないのだろうか?だったら、君に私と同じ気持ちを味あわせてやろう。私と同じ生き地獄を味わえ。」

俺は心の底から恐怖心を覚えた。やめろ、、、。誰か助けてくれ、、、。昔の俺だったら、不死身の力を手に入れたら心の底から喜んだだろう。むしろ永遠に死なない事を望んでいたまである。けれど、今のコイツの話を聞いて俺が不死身になりたいと思う訳がない。永遠に死なない事が俺の心の中で恐怖に変わった。フードの男は俺の腕を掴んだまま崖から飛んだ。そして俺達は共に崖から落ちた。落ちている最中、俺は気絶した。


2

目が覚めると高い崖の下にいた。辺り一面岩でゴツゴツしており、目の前には海がある。何だか俺は悪い夢を見ていたようだ。

「夢ではないぞ。これは現実だ。」

後ろから声がした。振り返ると茶色のフードを被った男が血だらけで立っていた。

「おめでとう。君は崖から落ちても死ななかった。つまり、君は今日から不死身だ。私と一緒に生き地獄を味わおうじゃないか。」

そうだった。俺はコイツのせいで死ぬ事が出来なくなってしまったんだ。怒りが込み上げる。男はフードの男に悪態をついた。

「あんた、本当に死んだ方がいい野郎だな。不死身の力を与える事ができるのなら、俺なんかじゃなくて生きたいと望んでる奴に与えるべきだろ。重い病気の奴に与えるべきだろ。それなのにあんたは俺なんかに…あんたは心が腐っている。」

「・・・。」

「何黙ってんだよ。なんか答えてみろよ。」

フードの男は答える。

「私は君に一つだけ嘘をついた。私が不死身の力を他人に与える事が出来ると言った事だ。安心しろ。君は不死身になってなどいない。君に嘘をついたのは、私の憂さ晴らしの為だ。これから先も、君はいつでも終わらせる事ができるよ。」

「だったら何で俺は生きてるんだ?あの高い崖から落ちたんだぞ。おかしいだろ。」

「崖から落ちた君が無傷で生きている理由は、私が君のクッションになったからだ。君が落ちてる最中に君を気絶させる事で私が君の命を守る一部始終を君に見られずに済むだろう。そうする事で、君自身が不死身になったのだと君に錯覚させる事ができる。」

「どうしてそこまでして…。」

「言っただろう。憂さ晴らしだと。」

「それにしてはやり過ぎだろ。なんでわざわざこんな無駄な事までして…」

「私には時間が無限にあるからな。私の肉体が今よりも老いることはないと気づく前だったら、私だって今回みたいな行動は起こさないだろう。時間の無駄でしかないからな。」「・・・。」

「そう言えばさっき君は生きたい人や、重い病気の人に私の力を与えろと言ったね。これは世界中で私含めてほんの一部の人間しか知らない情報なんだが、とある医療機関で私の不死身の力をそういった人達に与えるための研究が実際に行われているのだよ。しかし、その研究は未だに成功した試しがない。どうやら私の体を不死身に保っている成分は、私以外の人間にとっては毒でしかないらしい。」

「そうなのか…。」

「ああ、残念ながらな。私は今日もその医療機関に私の体を貸しに行く予定が入っていてな。だからまぁそろそろ行こうかな。」

「・・・。」

「ところで君はこれからどうするつもりだい?」

男は答えた。

「・・・俺さ、あんたに出会う前まで自分は不幸だと思ってた。でも俺はあんたと違って、このクソみたいな人生をいつでも終わらせる事が出来る。だったら別に今死ぬ必要はないなって思えたんだよ。あと崖から落ちてる時に思ったんだ。俺にはまだやり残した事があるって。だから俺、生きるよ。アンタに出会えて良かった。」

それを聞いたフードの男は言う。

「・・・そうか…。いや、やっぱり何年生きても他人の心は分からないものだな。私はさっき言っただろう。”この情報は世界中で私含めてほんの一部の人間しか知らない”ってな。私が君に話した事は全て機密情報なんだ。つまり

”ほんの一部の人間以外が知ってはいけない情報”なんだよ。私が不死身であるという情報もな。なぜ、私がそんな情報を君に話したと思う?それは、君の人生が今終わると思っていたからだ。君が今ここで自殺してくれた方が私にとっては都合が良かったんだよ。私は人殺しになりたくはなかったからね。」

そう言うとフードの男は懐から麻酔銃を取り出して、困惑してる男の頭部に撃った。

男は一瞬で眠りについた。しばらく目覚めることはない。不死身の男は眠っている男を両腕で抱えたまま、海の中に消えていった。


最後まで読んでくれてありがとう!

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