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第7話

「すまん、待たせてしまったな。」


どれくらい経っただろうか。体感では短く感じたが、男は少し申し訳なさそうな顔をしていた。


「トーキョーもニホンも知ってるやつはいなかった。ところで、ここまではどうやって来たんだ? あの森の向こうから来たのか?」


一瞬、言葉に詰まる。


「……森の向こうかはわからないです。でも、気付いたら森の中にいて……そのあと、ここで寝ていたみたいで。正直、曖昧で……自分でも何が起きたのか……」


言いながら、自分の説明があまりに頼りないことが恥ずかしくなる。


「いや、いいんだ。」


男は首を振った。


「一人でよく耐えたな。」


そう言って、大きな手でそっと頭に触れる。

驚くより先に、胸の奥がじんと熱くなった。


(……あ)


涙が滲みそうになる。


「あ、すまない。嫌だったか。」


慌てて手を離す男に、首を横に振る。


「いえ……嫌なわけじゃなくて。昨日、森で一人だったので……少し、安心して……」


言葉の途中で声が揺れてしまう。


「……そうか。」


男は一瞬、言葉を探すように間を置いてから、ほっとしたように息を吐いた。


「それならよかった。」


その様子が少し可笑しく、涙混じりに笑ってしまった。


「そうだ。さっき言い忘れてたんだがな――」

「この集落で、子供たちに勉学を教えてる先生がいるんだ。今は用事で街に出てるが、あの人なら何かわかるかもしれん。」


「本当ですか!」


思わず声が弾む。


「確証はないがな。」


それでも、闇の中に灯りが一つ見えた気がした。


「……それと――」


男は少し言いにくそうに頭を掻く。


「この集落には宿屋はなくてな。先生が戻るまで、よければ俺の家にいないか。妹と二人暮らしで部屋は余ってる。綺麗な家じゃないが、野宿よりはマシだろ。」


一瞬、言葉が出なかった。


(……いいの?)


ここまでしてもらっていいのか。

拒む理由も、力も、今の自分にはない。


「……本当に、ありがとうございます。」


声が震えた。


「この御恩は、忘れません……。」


「恩なんて感じなくていいさ。賑やかになったら妹も喜ぶ。」


その言葉に、再び涙が込み上がる。


「そんなふうに言ってもらえて……ありがとうございます。お世話になります……!」


涙をこぼしながら、精一杯の笑顔を作った。



男の後をついて歩く。

集落には畑が多く、人の気配が途切れない。


「農業が盛んなんですね。」


思わず口に出る。


「そうだな。この集落の殆どが農家だ。作物は物々交換したり、余れば町に持って行ったりしてる。」


話を聞きながらふと思う。


(……名前、聞いてない)


「あの、今更ですけど、お……私は大沢瑞生(おおさわみずき)といいます。改めてよろしくお願いします。」


「俺は虎を助けると書いて、虎助(こすけ)だ。家名はない。好きに呼んでくれ。」


「じゃあ……虎助さん、ですね。」


「あと、無理しなくていいぞ。さっき俺って言ってただろ。」


不意に言われて、顔が熱くなる。


「っ……いえ、言ってません。大丈夫です。」


意地になって言い返すと、虎助は困ったように笑った。


「そうか。なら、それでいい。」


全く気にしていない様子に拍子抜けする。

そんなやり取りをしているうちに家が見えてきた。


(……大きい)


集落の家々とは少し雰囲気が違うが、深く考えることはなかった。

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