表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

第5話

浅い意識の中で目を覚ました。


身体が重い。

しかしこの程度、致命傷にはならない。


着物に目を落とすと、裾や袖がところどころ裂けていた。

彼が眠る直前の落下の感覚。

最後に感じた恐怖が断片的によみがえる。


(……無茶をさせてしまったな)


彼はまだ何もわかっていない。

それでも必死に生きようとしていた。

胸の奥がわずかに軋む。


残された妖力を掌に集めて布に触れる。

力はほとんど戻っていないが、繕う程度ならどうにかなる。

裂け目が塞がっていくのを確認し、小さく息を吐いた。


「本当は……私が説明してやれればいいんだが……」


それは叶わない。

今の彼女には、彼に語りかける力すら残っていなかった。


(……苦労をかけるな)


修繕を終え立ち上がろうとした。


「やっぱ(ゆき)やん。久しぶりやなぁ。」


背後から間延びした声がかかる。


振り返ると、模様が入った焦茶色の浴衣を身に纏った妖が立っていた。

整った顔立ちの活発そうな少女に見えるが、本人からは雄だと聞いている。

艶のある茶色の髪に隠れた猪の耳がぴくりと動く。

腰のあたりで細い尾が落ち着きなく揺れていた。


「……猪緒(いお)か。」


「一瞬そんな気ぃしてんけどな。雪ほどの妖がこんなとこにおるわけない思うやん?」


軽い口調とは裏腹に、その視線は彼女の状態を確かめている。


「相変わらずよく回る口だな。」


「会うたん久しぶりやしええやん。」


猪緒はそう言った後、珍しく真剣な面持ちになる。


「ほんで?こんなとこで何してんの?」


「……以前この子に助けられてな。何か力になれればと憑いていたのだが……裏目に出た。」


「ふぅん……」


猪緒はそれ以上は突っ込まず曖昧に笑った。

沈黙が落ちる。

彼女はわずかに言い淀んでから口を開いた。


「頼みがある。」


「ん?」


「私はもうじき眠る。次に目を覚ますのは彼だ。」


「……あー……なるほどな。」


「彼はここを日本だと思っている。状況を説明し、当面生きていけるよう手を貸してやってほしい」


猪緒は少し困ったように眉を下げる。


「人間の世話はあんま得意ちゃうんやけど……」


そう言い彼女に向き合う。

その顔には、どこか含みのある笑みが浮かんでいた。


「でもまあ、雪の恩人やったら放っとくわけにもいかんかぁ。」


何か企んでると直感して言い返そうとしたが、強い眠気が押し寄せた。


(……限界だな)


「すまない、頼む……」


その言葉を最後に、彼女の意識は静かに沈んでいった。



「どうしよかぁ……」


暗い森を見回し、小さく息を吐いた。

困った末に少女の身体を背負い上げる。


「人間助ける趣味はないんやけど……雪の頼みやししゃあないか。」


そう呟き歩き出す。


「とりあえず人里やな。人間の面倒見るなら人間の方がええやろ。」


2人分の少し重い足音が夜の闇にこだました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ