第2話
夢を見ている。
朝起きて学校へ行き、退屈な授業を受ける。
その帰りに友人宅で菓子を広げてゲームをする。
ごくありふれた日常の一コマ。
それでも、これは夢だという確信があった。
つい先程まで見ていた光景があまりにも現実とかけ離れていたから。
少女のような姿になり、奇妙な男たちに囲まれ封印される。そんな出来事が現実であるはずがない。
仮に過去に戻り忠告できたとしても、鼻で笑われるだろう。
それほどまでに荒唐無稽な話だった。
だが――
乗っ取られる瞬間に走った不快な感覚。
身体を貫かれるような確かな痛み。
あれだけは夢だと切り捨てることができなかった。
ふと思う。
現実はどうなっているのだろう。
家族は心配しているだろうか。
大規模な捜索騒ぎになっていなければいいが。
何事もなく帰れるはずはないという確信があった。
あれは現代の科学技術でどうこうできるものではない。
コントローラーを握ったまま考える。
この夢はいつまで続くのだろう。
封印が解けるまで終わらないのか。
それとも意識だけは覚醒するのだろうか。
そもそも封印とはなんなのだろう。
もしこのまま何も変わらない日常が繰り返されるのなら……何もない場所に一人でいるよりはずっと良い。
窓を見る。
奇しくもあの時と同じ黄昏時だった。
そろそろ帰ろうと立ち上がり、礼を言おうとして――固まる。
友人の姿が歪んだ。
次の瞬間、そこにいたのは二人組の片方だった。
息を呑む間もなく、背後に気配を感じる。
振り返るともう一人が立っている。
逃げ出そうとするが足がもつれ、その場にうずくまった。
「どうしたんだ?」
……夢だ。
「どうして逃げる?」
……夢だ。
「逃げ道なんて、最初からありはしないのに。」
こんな夢を見るくらいなら何もない空間に一人でいたほうがまだ耐えられる。
「貴様は妖なのだから、封印されて当然だろう?」
妖……?俺は人間だ。
違和感に視線を落とす。
そこにあったのは少女の身体だった。
「命があるだけ、ありがたく思うことだ。」
男が手をかざす。
あの光だ――
思わず身構えた。
――痛みは来なかった。
◇
意識が浮上する。
目を開いても何も見えない。
闇だけがどこまでも広がっている。
ここが封印された場所なのだろう。
自分の身体に触れる。
長い髪、布の感触、胸の圧迫感。
どうやらあの姿のままらしい。
不思議とひどく落ち着いていた。
現実だと理解しているはずなのに、どこか現実感が薄い。
夢だと思っているわけではない。
ただ、実感が追いついていないだけだ。
それにしても嫌な夢だった。
夢だと分かっていたのに、あの二人を前に身体が動かなかった。
地面に座り込み膝を抱える。
そのとき、獣の唸り声のような音が聞こえた。
他にも自分と同じような存在がいるのだろうか。
どうやらこの場所は共有の空間らしい。
封印業界にも事情があるのだろうか――
そんな馬鹿なことを考え、わずかに息が漏れる。
どのくらい経ったかはわからないが、闇の中に小さな光を見つけた。
出口かと思い、近づきかけて――足を止める。
嫌な予感がした。
光は次第に大きくなり、輪郭を持ちはじめる。
そして自分の判断が正しかったことを悟る。
それは目だった。
猪のような、見たこともないほど大きな獣の――目。




