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見ていたつもりで

作者: P4rn0s
掲載日:2026/01/16

大人になってから、ふとした拍子に気づいた。


自分は、親のことも、祖父や祖母のことも、ほとんど何も知らないまま生きてきたのだと。


それに気づいた瞬間、胸の奥が少しだけ沈んだ。

何かを失ったわけでも、誰かに責められたわけでもない。

ただ、今まで気にもしなかった場所に、ぽっかりと空白があることを知ってしまっただけだった。


思い返してみれば、私は家族のことを「知っている」と思い込んでいた。

名前も、年齢も、誕生日も知っている。

一緒に住んで、一緒に食事をして、同じ時間を過ごしてきた。


それだけで、十分だと思っていた。


親は親で、祖父母は祖父母で。

そこに至るまでの時間や、選ばなかった人生や、抱えてきた迷いについて、考えたことがなかった。

大人は最初から大人で、当たり前のようにそこにいる存在だと、どこかで決めつけていた。


質問をしなかった。

興味を持たなかった。

知ろうとしなかった。


理由はいくらでも後づけできる。

忙しそうだったから。

今さら聞くのが気恥ずかしかったから。

どうせ大した話じゃないと思っていたから。


けれど本当は、ただ無関心だったのだと思う。


ある日、実家の押し入れを片づけていたとき、古いアルバムを見つけた。

そこには、知らない服を着た家族が写っていた。

知らない髪型で、知らない場所で、笑っていた。


確かに知っている顔なのに、知らない人たちのように見えた。

その写真の中には、私の知らない時間が確かに存在していて、

その時間を、私は一度も必要としなかったのだと思うと、胸の奥が静かに痛んだ。


親にも、祖父母にも、私と同じように若かった時間がある。

迷って、悩んで、選び続けてきた人生がある。


その当たり前のことに、こんなにも遅くなってから気づくなんて、

自分はずいぶん鈍感だったのだと思う。


それでも、今気づけたことだけは、まだ救いなのかもしれない。

もう遅いかもしれないし、間に合わない話もあるだろう。

それでも、何も知らないまま「知っているつもり」で生き続けるよりは、きっといい。


次に会ったとき、何を聞こうか。

昔の仕事の話でもいい。

若い頃に好きだった音楽でもいい。


どうでもいいような、

でも、その人にしか語れない話を、

ひとつでもいいから、聞いてみようと思う。


大人になってから気づいた。


自分が知らなかったのは、家族の過去だけじゃない。

誰かの人生に、ちゃんと目を向けるということを、

私は今まで知らずに生きてきたのだと。


そのことに気づいて、少しだけ悲しくなった。

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