第一話 出席番号ゼロ②
HRが終わると同時に、前の席の成瀬が椅子ごと回ってきた。
「なつめ、起きてた?」
「起きてる」
「嘘つけ。顔が“出席=供養”だった」
「誰が供養されてんだよ」
成瀬は笑いながら端末を取り出す。
ホーム画面の一番手前に「名簿」アイコン。
「ほら見ろよ。今日の出席ランキング、うちのクラス二位」
「毎朝よく飽きないな」
「飽きる。でも見る。人間の業」
画面には学年全クラスの平均遅刻時間がグラフで表示されていた。
「一位のC組、バケモンじゃね?」
「平均遅刻五秒って何」
「軍隊だろ。呼吸まで同期してる」
くだらないのに、笑える。
笑えるうちは日常だ。
そのとき、後ろの席の女子が右隣へ声を投げた。
「藤崎ー、今日プリント回収当番だっけ?」
「うん。あとで集める」
小さな返事。
確かにこの教室にいる。俺だけの幻じゃない。
藤崎しおりは、鞄のファスナーに透明な雨粒みたいなチャームを揺らしていた。
金具が少し歪んでいて、いかにも外れそうだ。
無意識に指先で弾くたび、ちい、と擦れる音がする。
成瀬がふっと声を落とした。
「なあ。名簿から外れたら、どうなんの?」
「朝からやめろ」
「冗談じゃなくてさ。前に水町言ってたじゃん。“名簿に載ってないやつは、存在しないのと同じ”って」
近くの席のやつが、ちらりとこっちを見る。
空気が一瞬だけ固くなった。
俺は笑って流した。
笑わないと、こっちが“異常”側に寄る。
「……って、冗談冗談。はい解散」
「自分で振っといて逃げるな」
成瀬は笑って前を向いた。
でも、その笑い方がほんの少し浅い。
二十四番の空白が脳裏で再生される。
二十四番 ――
「中」。
覚えておけ。
でも口に出すな。
矛盾した命令が、胸の奥でぶつかった。




