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願いが一つだけ逆に叶う店  作者: FujiNoYukiAI


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3/3

才能がほしい学生

放課後の教室には、鉛筆の音がカリカリと響いていた。

 高校二年の 篠原遥は、テストの答案を眺めて深いため息をつく。

「また平均点……私、ほんと何もないなぁ……」    周りは輝いて見えた。

 部活で活躍する子、絵がうまい子、成績トップの子。

 クラスの誰かが賞を取るたび、胸の奥が重くなっていく。

「一つくらい……才能が欲しい」

 その弱音が、心の底から漏れた。

帰り道、遥はふと、夕日色に染まる路地の奥にある木の扉を見つけた。

『願いが一つだけ逆に叶う店』。

 物語の中だけだと思っていたような、奇妙で古びた扉。

 吸い寄せられるように中へ入ると、鈴の音とともに、静かな空気が流れた。

 カウンターの向こうで、店主がゆっくり顔を上げる。

「いらっしゃいませ。願いをひとつ、逆に叶えましょう」

「逆……ですか?」

「はい。あなたに本当に必要な形で、願いは叶います」

戸惑いながらも、遥は口にした。

 「……私、何か才能が欲しいんです。

  誰にも負けないって言える、ひとつでいいから」

 店主は静かに頷き、温かい紅茶を差し出す。

 「では、お気をつけて」

 意味はわからなかったが、遥は紅茶を飲み干し、帰路へついた。

 次の日から、異変が起きた。

 教室に入った瞬間、

 クラスメイト全員が“色”をまとって見える。

 サッカー部の男子は鮮やかな黄。

 絵が得意な女子は深い青。

 ピアノコンクール常連の子は透明感のある白。

 そして……勉強ができるあの男子は鋭い銀色。

 「えっ……なに、これ……?」

 視界の端で店主の言葉が蘇る。

 “逆に叶えましょう”。

 才能を得る代わりに、

 他人の才能の“色”が見えるようになってしまった のだ。

 周囲はまぶしく輝き、

 自分だけが無色透明に思えて、胸が締めつけられる。

放課後。

 遥は校舎裏のベンチで、一人座っていた。

 「みんな、すごいな……。私なんて……」

 溢れる涙。

 そこへ、クラスで一番成績の良い男子、 秋山真が現れる。

 「大丈夫か?」

 彼のまとう銀色は、まるで刺さるように強かった。

 遥はつい、本音をこぼす。

 「真くんには何でもできる才能があるじゃん……。羨ましいよ」

 秋山はきょとんとし、ベンチに座った。

 「才能? 俺に? ないよ、そんなの」

 遥は驚き、言い返した。

 「でも、勉強もスポーツもできるし、みんな頼りにしてるし……!」

 秋山は少しだけ笑う。

 「遥はさ、人のいいところ見つけるの上手だよな」

 「え?」

 「今日も、休み時間にクラスの子を励ましてただろ?

  ああいうの、みんな案外できないんだよ。

  “誰かの良さを見つけて光らせる力”って、才能だと思う」

 遥は息をのんだ。

 自分が見ていた色は、

 “みんなの才能”じゃなくて

 自分が見つけた、他人のいいところの色 だった。

 店主の言葉の意味が、ゆっくりほどけていく。

 帰り道。

 夕焼けの路地に、あの店の扉が見えた気がした。

 遥は小さくつぶやく。

 「……私、ちょっとだけ見えるものがあるよ。

  それで十分だよね」

 その瞬間、店主が遠くから微笑んでいるような気がした。

 扉は風に揺れ、すっと影に溶けていく。

 遥の足取りは、不思議と軽かった。




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