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願いが一つだけ逆に叶う店  作者: FujiNoYukiAI


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お金がほしい主婦

夕方のスーパーは、どこもかしこもため息で満ちている。

 その中心にいるのが──三十代主婦の 桜井美鈴だ。

 「また値上げ……。今月、もう赤字なのに」

 手にした牛乳を棚に戻そうとしたが、子ども用のプリンを思い出し、結局カゴに入れる。

 節約しても節約しても減らない支出。

 ため息をつきながら帰り道を歩いていると、路地裏に見慣れない木の扉があった。

『願いが一つだけ逆に叶う店』。

 まるで絵本から抜け出したような佇まい。

 怪しいけど、心が少し軽くなりそうな雰囲気が漂っていた。

 思わず扉を開けると、静かなチャリンという鈴の音が鳴る。

 カウンターには、年齢不詳の店主がいた。

 白髪混じりの髪を後ろで結び、笑っているのか無表情なのかわからない絶妙な顔。

 「いらっしゃいませ。願いを一つだけ、逆に叶えましょう」

 「え、逆に……?」

 「ええ。“正確な意味での願い”ではなく、“あなたに最も必要な形”で叶います」

 意味はよくわからない。

 でも、美鈴の口から出たのは、ずっと胸にしまっていた本音だった。

 「……お金が、ほしいです」

 店主は静かにうなずいた。

 「承りました。気をつけてお帰りください」

翌朝、美鈴はその“効果”を知ることになる。

 夫が急に紙袋を差し出した。

 「美鈴、これ……昨日、仕事で差し入れもらってさ。お菓子、子どもたちにあげて」

 続けて義母から電話が来る。

 『あんた最近大変でしょ? ちょっと野菜送っといたからね〜』

 さらに数時間後、友人から LINE が来た。

 『ねえ、最近どう? 良かったらランチ奢らせて! 相談のって!』

 ……ん?

 なんか、やたらと“もらえる”日だ。

 金銭ではないけれど、次々と物や食べ物や好意が“与えられる”現象。

 しかし、それは全て

 家族のためのものばかり。

 子どもが喜ぶもの。

 夫が助かるもの。

 家族の暮らしが少し楽になるもの。

 その日はずっと、それが続いた。

 近所のおばあさんが焼き芋を手渡してくれる。

 スーパーの店員さんがタイムセールの情報をこっそり教えてくれる。

 保育園の先生が「今日は子どもたち、すごく頑張りましたよ」と褒めてくれる。

 美鈴の“心”だけが、ふわりと軽くなっていった。

夜。

 家族の団らんを眺めながら、美鈴は気づく。

 “お金がほしい”と思っていたけれど、本当にほしかったのは、

 家族が元気に笑っていてくれる余裕だった と。

 夫が「今日は美鈴の好きなもの作るよ」とキッチンに立つ。

 子どもはプリンを半分こしてくれる。

 家族のまわりに、人の優しさが集まっていた。

 ふと窓の外を見ると、通りの向こうに件の店が見えた。

 店主がこちらを見て、軽く会釈した気がした。

 美鈴も思わず小さく頭を下げる。

 「ありがとう……」

 その瞬間、店の扉は静かに閉じ、灯りがすっと消えた。

 今夜もまた、

 誰かの“逆に叶う願い”を聞きに行くのだろう。


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