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魔王先生

作者: zaq2

「「「まおーせんせい!さようなら!!」」」

「はい、さようなら」

「「先生、さようなら」」

「さようなら。あと、年長のあんたらは、年少の面倒ちゃんとみるんだよ」

「わかってます」「はーい」

「じゃ、ほんとに気を付けて帰るんだよ」



 そんな元気な返事をしては返っていく子供たちを見送り、午前の授業が終わった教室の後片付けに戻る。

 といっても、こんな片田舎の辺境の土地において、少人数相手ではそんなに散らかされている訳でもないので、すぐに作業は終わり集会場の戸締りをしては家路につく。

 その帰路の途中で先週病に伏せた患者の奥さんとばったり出会う。



「あ、魔王先生、こんにちは」

「こんにちは。その後の旦那の様子はどうだい?」

「ええ、旦那の病気も日に日によくなっていっています」

「そりゃぁ良かった。だけど、あんまり無理させちゃいけないよ?治りかけが一番危ないからね」

「よぉく言い聞かせておきます」

「そうしておきな」

「ただ、元気がありあまりすぎて、日がな一日中家の中を徘徊したりしてて……どうすれば」


 少し困った風な顔をのぞかせてはきたので、手っ取り早くにおとなしくできる方法の一つを伝授する。


「手持ち無沙汰の解消ねぇ。そうさね、例えば……皿洗いでもさせておけば、水仕事が大変って事も理解するだろうし、手持ち無沙汰もおとなしくなるだろうさ」

「なるほど、たしかに……」

「ま、そこらは程々に上手にやらせる、だよ?そういうのが賢い女って奴さね」

「勉強になります」

「体調がおかしくなったら、すぐに来な。面倒は見てやるさ」



 そう言って手をヒラヒラとして「じゃあね」と伝えては再び歩みを再開する。

 そうしてたどり着いた先は、村の外れにある小さな診療所兼自宅。


 こんな地方では急患もそうそういる事もない(来るのは茶飲み友達とでもいうご老人の方が多い)ので、今日の午前は町の子供たちに文字に算術に稽古をつけている程度だ。

 午後からは、のんびりと庭の薬草畑の面倒を見つつお茶を楽しむぐらいである。


 作業も終わり、ゆっくりとお茶をたのしんでいると、そうそう、魔王先生と呼ばれ始めたのはいつぐらいだったかねぇ、と物思いにふける余裕がでてくる。



 魔人族特有の紫肌に金目、白髪に角が横から突き出ていれば、絵本に出てくる魔王そのものにそっくり。

 物心つく前の子供にとっちゃぁ、絵本の人物が出てきたと思われても、そりゃ致し方なしではある。


 そんな子供の言う事を咎める気はサラサラない。


 そもそも、物語に登場する人物と似てる存在が近くにいるからなのか、尊敬の眼差しというか、物珍しさの方が勝ったのか、悪い意味で発していないからね。



「ただ、性別が違うのが、大きな相違点なんだけどねぇ……」



 ま、そうして10年、20年、50年、100年と医者として教師として過ごして一つの世代が変わるころにはその呼び方が定着してしまった。

 新たに住み着いた人らにも、そういう認識にされているときている。



 長命種の自分にとっては、人族短命種からみれば……そりゃぁね?



 そんな思い出を、ゆっくりと流れる時間の中で思い出しながら、診療所に誰も来ないのは良い事だと思いつつ庭のテラスでお茶をすする。

 今日の茶菓子は頂き物のドライフルーツ入りの焼き菓子で、ほどよい甘さがこれがまた紅茶にあう。


 そんな小さな楽しみを満喫していると、不意に気配を感じはしたが"あちらからのアクション"を待っていればいいか、と軽くスルーすることにする。



「魔王先生、おられますか?」

「はいはい、おられますよ」

「って、コチラでしたか」



 庭のテラスから声をそのままかければ、診療所の方から小太りの一人がこちらに顔をのぞかせていた。

 "小太り"とはいうが、その両腕両脚は農作業で鍛え上げられた筋肉で固められてはいたが、そのだらしない腹が幸せ太りである証左という事を知っている人物の正体は、この町の「町長」である。



「あんた、そろそろ痩せちまいな?身体に悪い影響が出始めるよ?」

「うっ、そ、それはその嫁の料理が……」

「それを自制しろって言ってるんだよ……まったく、あの嬢ちゃんも甘やかしすぎだ。それで、何かあったのかい?」

「え、ああ、そうそう……実は、魔王先生に面会を求めている人がおられまして」

「アタシにかい?へぇ、それはまた素っ頓狂な人物なんだろうね」

「はい、それがその……」



 魔族種は嫌われ種族ともいわれており、まぁ、迫害を受けている地方もあるとかないとか。

 この地方の町では、自分ぐらいしかいないがために、そういう迫害という事も……初めてこの地にきたときぐらいで、あとは一緒に暮らしていったら、そういうものは無くなっていった。


 つまり、そういう人種にわざわざ会いに来るという時点で、それはもう奇特な存在といえるわけだ。



(宗教関係か、それとも貴族様か、はたまた……



「ここにいたのか魔王!そこへなおれ!」

「人々を洗脳しているなんて、許せません!」

「悪逆非道の限り、いまここで成敗してやる!」

「…………」


 初めて見る若い人族の顔ぶれの4人パーティーとでもいう面々が、それぞれ口上を上げるかの如く叫んでいた。


(物語の英雄にあこがれたパターンかぁ……)


 極々稀に、英雄譚に憧れてその道を進む若人がいないことはない。

 それらを、ポカーンと眺めたのちに、町長へと視線を向ければ、町長は何故か瞬き多く視線をそらしていたりしていた。



「その、これは、あの……」

「クックックッ……懐かしいねぇ、アンタも小さい頃に"みんなを引き連れて"よくやってたさね」

「いや、それ辞めてください、子供のころの話ですし……」

「何言ってんだい、アタシからしたらアンタはまだ子供さね」

「アハハハハ……一応は、止めはしたんですよ?ですが、話をまともに一切聞いてもらえず……その、直接見てもらった方が話が速いかと思い……」

「ま、そんなこったろうと思ったさ。で、どうすればいいんだい?」

「その、穏便に……」

「……はぁ、わかったよ。戻ってくるまで片付けと診療所の戸締り頼むよ」

「あ、はい……」



「何を町長さんと話している魔王!!」

「……ん?この町に被害を出したくないんでね、場所を移すと伝えたのさ」

「何をぬけぬけと!いままでの……」




 パチン



 魔王先生が指を鳴らした後、その場から魔王先生と4人パーティーのメンバーが消え去っていた。


 そして、残された町長といえば、慣れた様子で片づけを行い、最後に「今日中には終わるのでしょうか……」と不安な表情をしながら【魔王先生 不在です】という札を診療所の玄関に掲げるのであった。


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