表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伽藍堂は先生  作者: あ行
日常
24/25

24よもぎ

 貴方と会った日も雨でした。私は、その頃ちょうど帰路をついたところでした。

 貴方は木の下で、雨宿りをしていました。私も傘を所持していなかったので、下宿まで走って帰っていました。

 私は貴方を見た途端、一目惚れをしたのです。惚れたのです。

 しかし、私はまだ書生だった時分なので勇気が弱く、一目惚れをしても貴方に話しかけるのは心中にはなかったのです。

「ここは何処ですか。」

 そう貴方に話しかけられて、嬉しさの余り、ずっと貴方の顔を見つめていました。

「雨宿りする所をさがしているのです。どこかいい所はありませんか。」

「それなら、私の下宿で一寸雨宿りしませんか。」

 初めて会ったのに、下宿に連れて行こうとする行為が、のちのち後悔へと変わっていきました。この人は誰なのだ。なぜ初対面の私についてくるのだ。そう疑問に思いつつ、下宿につきました。

「ごめんなさい。ご勝手に……」

 それに宿の主人にも、相談していないことでした。

「大丈夫ですよ。ありがとう。わたし、ちょうど宿を探していたのですから、最中に良い宿を見つけました。」

「旅の方なのですか。」

「いいえ。」

 貴方は不安そうな顔をした。

 とりあえず、私の部屋まで案内し、拭くものを手渡しました。貴方はぽんぽんと水滴を拭きながら、先程の続きをはなしました。

「わたし……家から逃げて来たの。旦那から逃げて来たのよ。」

「どうして。」

「釣り合わなかったの。それに、あの人は酒癖が悪いのよ。いつも帰宅すると、物に当たるの。だから逃げて来たの。これからどうしようかなんて、考えずに来ちゃった。」

 貴方の言葉は子供のようでした。私はその言葉遣いに、心を奪われました。しかし人妻だった。

「僕の所で住みませんか。僕はもう時期、教師になる予定なのです。」

 貴方は申し訳なさそうに、眉をひそませ「いいえ。」と断りました。

 私は、かるい絶望を覚えました。

「もう雨も止んだようだから、この辺でお暇させていただくわ。」

 玄関まで一所に行き貴方は「ありがとう。」と言ってどこかへ向かいました。

 その夜はどうしても、眠れませんでした。貴方のことばかり、考えていたのです。

 私は幾度か、恋をした、あるいは、されたことがありますが、すべて無へと変わりました。相手の悪い所をすきではいられなかったのです。

 なので、もう人に恋するのはやめようと、心にひっそり誓いました。

しかし翌週も貴方のことは、離れられなかったのです。父からの縁談の話もありました。父の申し出も無視をして、授業中、貴方をなんども思い浮かべました。

 

 私は勉強を終えて、散歩がてら町へ出かけました。歩きながら、貴方のことを考えていたのです。

 突然、私は貴方のことを見つけました。貴方は掛け茶屋にいました。

 私は貴方に話しかけようと試みると、どうやら一人ではありませんでした。二人でした。しかも男性と。

 私は黙ってその場を去りました。

 私は布団の中でかんがえました。もういっそのこと、婚約を享受してしまって、貴方と異なる妻といた方が、忘れると言うことへ熱心になれるのではないかと。

 

 それから、何日か経たないうちに、私は部屋でキセルをふかしていると、宿の女中さんから「貴方に来客が来ている。」と言われました。私は友かと思いそのまま煙草をのんでいると、来客というのは貴方でした。

 私は驚いて、危うくこの下宿を火の海にさせてしまう所でした。

「どうしてここに……どうして……」

「急なご訪問、ごめんなさい。どうかわたしの無礼を許してください。」

「何かあったのでしょう。けれども、なぜ……」

「わたし……お金が底をついて……。日雇いで頑張っていても、到底食っていけないし……。だから、その……以前、先生はもう時期、家ができるから、わたしを誘ってくだすったわ。」

 私が貴方に、"先生"と呼ばれたのが、これが初めてでした。

「だから、わたしを泊めてほしいの。ずっととは言わないわ。お金がまた貯まったら、かならず恩返しいたしますから。お願い致します。」

「貴方は……他の好いた人がいるのでは。」

「夫はもう縁を切りましたわ。」

「旦那さんではなく……」

 私は口を、もごもごさせました。ここで真実(貴方を掛け茶屋で目撃したこと)を打ち明けると、貴方に拒絶させらるるのではないかと、恐怖を禁じ得ました。そして、これは私の勘違いだったと知り、とても恥じました。

「分かりました。九月まで待ってください。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ