2生徒
「先生、いってらっしゃいませ。」
「うん、家のこと頼んだよ。」
そう言って私は、家の門を通り出た。この家はまだ借り物で、大家さんに無理言ってちょくちょくお金を毎月払っている。自分の國で暮らすなんて、真っ平ごめんだ。
「…………。」
汽車に揺られながら、こんなことを考えた。
最近、困った生徒がいる。それも、ここの学校じゃない女生徒だ。どうしたことか、私の帰りを尾いてきているようだ。
「おはようございます。」
「あぁ、おはよう。」
先生方に挨拶をし、自分の席に着いた。
どうしたものか。
放課後。
私は生徒が教室に残っていないか見回りをしていた。
「おぉい、もう帰る時間ですよ。」
「先生!見てください!!すごいんですよ。」
なになにどれどれ、と近寄る。
「今、どうしたら教科書の風で何ページめくれるか挑戦してたところです。」
坊主頭が三つ頷いた。
「それで、何ページできたのですか。」
「三ページです!」
「良かったですね。だが、新記録を更新するには一旦帰った方がいいですよ。」
「なるほど。うどんも蕎麦も一晩寝かしますもんね。」
「なんだそれは。もう少しやりたかったけど、先生が言うにはそうに違いない。」
「帰ろう。」
素直な子たちでよかった、いつも通り帰れそうだ。
――――――
帰り道。
そうだ。昨日は約束したんだっけ。お団子を買うと。早くお餅屋に行こう。
「先生、こんにちは。」
「…………っ、」
角を曲がるとあの女生徒がいた。待ち伏せされていたのだ。
「君はなぜ、私を待ち伏せするのですか。君は他の学校の子でしょう。」
「そうですけれども……あたくし、先生とどうしてもお話したくって……。」
「……分かりました。話をしたら、金輪際、私を待ち伏せしないでくださいね。」
「わたくしとお話して下さるのね。」
私は帯から懐中時計を取り出し、時間を確かめた。その様子を、獲物を見る鷹のように鋭く監視された。
「しかし今日は、寄らなければならない所があるので、ここで失礼。」
「…………、」
気味が悪い。
――――――――――――
「美味しい。」
「そうだろう。」
先生は本当に団子を買ってくださった。甘い物は久しぶりで幸せです。
「よもぎさん、」
「はい、何でしょう。」
「明日のご予定は?」
「明日?ですか。明日なら、あすこの商店街に行こうかなって思ってて。」
「買い物ですかい。」
「えぇ、貯蔵が効く干物とかが買いたいですねぇ。」
「僕も行く。」
団子を落っこちそうになって、グワんと串が揺れた。
「いいえ、先生は家で休んで下さい。わたしが行ってきますから。」
「いいんだ、明日はちょうど休みだから。それに君は女中さんじゃないだろう。」
「でも……、」
先生は奧さん持っていない。
「ほら、僕と一緒に行こう。」
――――――――――
翌日。
「あ、先生、大根が安いですよ。」
「ほんとだ。煮物が食べたくなってきたな。」
「じゃあ、今日は煮物といきましょうか。」
大根を三本買う。「やった。」と先生が隣で囁いたことを聞き逃さなかった。他にも、油やお砂糖などの高級品まで買った。先生は嬉しそうだ。
「…………、」
「なぁに、僕の顔に何かついてる?」
「いえ、なにも……。」
先生は雑踏の中、輝いていた。
「あ、僕本屋に寄りたいな。」
「じゃあわたしは、糸を買いたいのでここで待ち合わせしましょう。」
「あぁ。」
――――――――
「先生はまだか……。」
今日はちょっと歩きすぎた。足の親指と中指の間が紐で痛い。
「あ、先生。」
先生はわたしの所に来るのかと思いきや、なにか寄り道をしているようです。
「…………?」
あすこの店はかんざしやら、指輪やらが売っている所でした。
きっと先生は他に思ひ人がいるのでしょう。わたし以外の人。
「ううん、そりゃそうだ。」
「ごめん、待った?」
見上げると先生がいらっしゃいました。
「いいえ、全然。」
わたしは少し、強がってしまいました。本当はどんな装飾品をご覧になったか聞きたかったのに。聞いたところで、わたしが傷付くだけか。
「足大丈夫?まだ歩けそう?」
「はい、大丈夫です。」
わたしはこの非日常的な買い物を、まだ終わらせたくかなった。ずっと続いて欲しいくらい、楽しかった。
「なら、あすこの骨董品を見に行こう。」
向こうの、のれんを指差す。もう日が傾いてきている。
「…………あ、」
「どうしたんですか?先生、」
先生はさっきと違って怖い顔をしていた。地獄の釜を除くように遠くの景色を見つめていた。
「……?」
それは生徒さんであった。制服を着ているから一目で分かった。
「違うところを行きましょう。」
「え、なんで、」
「早くっ……、早く行きましょう。」
すると先生はわたしの手首を握りました。
「ごめんなさい。急に走っちゃって。」
「大丈夫ですよ。」
わたしは心臓がドキドキしていました。
「……奇麗ですね。ここの神社。」
「……そうだね。」
二人とも夕陽を見つめた。ここはちょうど、丘に建っていて街を見下ろすことができた。
「……さっき、」
「あの子……僕を追って来てるんだ。まだ危害はないけれど、何かあったら困る。僕にも、」
先生は澄んだ目をしていた。夕陽に照らされて、ホオズキの実のようにキラキラしていた。
「君にも。」
「……へ、」
「だから、大事になる前に何とかしたい。」
先生から線香の香りがした。
「何かあってからだと、遅いから。」
生徒→先生を想っている
視点がこんがらがって申し訳ない。視点は先生→よもぎです。




