15手紙
朝。空に薄雲が綺麗に帯びていました。新しい家も慣れてきて、今日は日曜日でしたので先生も部屋でゆっくりと過ごされています。
「……あら、手紙。」
机の上に随分と分厚い封筒がおいていました。何かと不穏に思いながら宛先を見ると、"よもぎさん"と書かれていました。
「……わたしに?先生から?」
廊下に先生が通った。一度、手紙を机の上に置いて、先生を呼びかける。仕事のことを言っておかなければ。
「あら、先生。ちょっといいですか。」
「なんだい。」
事も終わったので働こうと思う。
「わたし、昼頃は暇でしょう?近所の人が手伝人がいるらしくって。だから、そこでわたしも働いていいですか?」
「よもぎさんは働かなくて大丈夫だよ。僕の給料でなんとかするから。心配しないで。」
「いえ、引越しとかしましたから、少しの足しになればと思っていて……。それに、先生のお役に立ちたいの。」
「……分かった。体を大事にするんだよ。」
秋風が銭湯の香りを運んで来た。
「あ、そうだ。よもぎさんに聞きたい事があって。」
「なんです。」
「……よもぎさん、あ、ここにいたのか。聞きたいことがあって。」
「なんです。」
わたしは封筒を再び机の上に置いた。先生からはその動作は見えない。
先生は少しお疲れ気味だけれども、いつもの調子でした。
「よもぎさんはいつ結婚しますか。」
わたしは驚いた。先生はご友人さんと呑んだ時も、普段の生活の中でも、わたしの事はちっとも興味がなさそうだったから。
畳の上にて、片足を一歩引いた。
「思ひ人はいますか。」
「いっ……」
"いる"と言ったら今ここで打ち明けることになる。しかし、"いない"と言ったら噓になる。言葉をためらう。
「もしいるのなら、そちらを優先して下さい。僕の元を離れても構いません。」
廊下から先生は、机の上の斜めになった封筒をちらりとご覧になりました。
「そして、僕に対する心を亡くして下さい。」
黒い床、黄味がかった襖、曇りの幽かな白い光が先生を包み込みこんでいました。まるで日本舞台のような雅な美しさが、ここに生きています。
少し沈黙したのち、「僕、少しばかり出掛けるからお留守番頼んだよ。」とおっしゃって出て行かれました。部屋にはわたし一人。
「…………。」
やるべき事をやり終えた頃、ようやく封筒を開ける時が来ました。
「……何が書いてあるのかしら。」
勝手に手が震えて動きにくく、首から頭のてっぺんにかけて心臓の音しか聞こえません。
「大丈夫よ。」
手紙の内容はこうでした。
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よもぎさんに伝えたい事があります。私の家についてです。話そう話そうとしてこんなに遅くなってしまってごめんなさい。どうか、許して下さい。
まず、私の両親の話をしましょう。私の両親は仲が良い方ではありませんでした。昔からではありません。いつの間にか、仲が悪くなりました。私が中学生の頃に悪くなった事を覚えています。それまでは本当に両親という言葉が似合うほど、仲が良い夫婦でした。
それもこれも、全部、私の所為です。
もう一話続けてあります。




