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第13話 ユーミリアの計画⑤

 公爵邸のテラスで。焼き上がったクッキーを前に、ユーミリアは得意満面だった。


「はぁ〜。我ながら天才っ。可愛いっ。器用っ!」


 紅茶と一緒に並ぶクッキーは、形も色も完璧な仕上がりだ。こんがりきつね色の、クマや花の形を模したクッキーが綺麗にお皿に盛り付けられている。


 分量は二人で手分けして、生地を混ぜたのはルディウス。生地を伸ばして成形したのはユーミリアだ。


 お花にジャムが乗った方はお砂糖たっぷりで、ユーミリア用。クマさんの方は甘さ控えめなルディウス用である。


「ほんと、なんでも器用にこなすよね、ユミィ」

「たいていのことは、見様見真似でこなせる自信があるわ」


 クッキーを一枚、口に入れて。


「ん〜、至福〜〜」


 サクサクの食感とバターの香り、杏子の酸味に、幸せいっぱいな気持ちになる。


 同様に、ルディウスもクッキーを一枚口に運んだ。

 

「ディーでも食べられそう?」


 彼は甘い物はさほど好きではなく、素朴な味が好みなのだ。

 

「ああ。美味しい」


 よかった、と微笑んで、ユーミリアはもう一枚摘む。


 そうして、午後のお茶をめいっぱい楽しんで。テラスに差し込む陽が、傾き始めた頃。


 クッキーをたらふく平らげ、一息ついたところで。


 ユーミリアは、向かいで優雅に紅茶を嗜んでいる公爵様に、かくりと首を傾げる。


「ディー、私の目的に気づいているでしょ?」


 厳しく躾けられたことが窺える所作でカップをソーサーに戻したルディウスが、くすりと笑んだ。

 

「八つ当たりのクッキー作りは建前に過ぎなくて、ユミィのお目当ては俺と一日過ごすことだったって話?」


 つまるところ。本日のユーミリアの目的は、それに尽きるのである。

 

「いつ気づいたの?」

「アネモラの性質を知った時。レシピを隠して作業の開始を遅らせたり、レシピの隠し場所なんていくらでもあるだろうに、わざわざ変色までに三時間以上も掛かる特殊な花を謎解きの肝に据えた理由を考えたら、それくらいかなって」


 ルディウスがクスクスと笑い声を立てた。


「微笑ましい誘い方だな。一日一緒に過ごしたいって言ってくれればよかったのに」

「お仕事と天秤に掛けて断られた時に、腹が立つので嫌です」

「……なるほど。確かに、究極の選択ってやつだ」


 実際のところ。ルディウスがユーミリアより仕事を優先することは絶対にないのだけれど。

 なので、ユーミリアは絶対にその二択を迫らないと心に決めている。


 一日一緒に過ごしましょ、と誘わなかったのは、こちらの方がルディウスの都合で切り上げやすいかな、と思ったからだ。仕事が詰まっていて午後まで付き合う余裕がなさそうなら、時間切れなので続きはまた今度で、とする予定だった。


 幸い、今日のルディウスはそこまで仕事が詰まっていなかったようだけれど。


 ユーミリアの本音を見抜いていたから、ルディウスは嫌な顔ひとつせず、気長に付き合ってくれたのだろう。


 実は、今日のユーミリアには密かな野望があった。今だに達成できておらず、達成するにはルディウスの協力が不可欠である。


 協力を仰ぐか、ここで、充実した休日になったわ、と締めくくるかを悩んだユーミリアは――。


 散々、ものすっごく迷った末に、えいやっ、と切り出した。


「ディーの推理は当たっているけど。本当は、今日はもう一つお目当てがあったの」

「もう一つ?」


 意外そうに目を瞠るルディウスに。


「……敷地内を散策する時にね、手を、繋ぎましょって。誘うのが隠れ目標だったり……」


 ぱちり、と銀灰色の双眸が瞬いた。


「……もしかして、それでヒントを三箇所に分けたとか?」

「三回も言い出す機会があれば、一度くらいは勇気が出る算段だったの……っ」


 計画した過去の己も頭を抱えるくらい、意気地なしだったのだ。


 ははっ、と吹き出したルディウスが、柔らかな笑みと共に尋ねてくる。


「まだ歩ける?」

「そんなに柔じゃないわ」

「西の庭園に湖があるだろ? 着く頃には、きっと夕陽が映って綺麗だよ。見に行くのはどう?」


 そう言って、立ち上がったルディウスが手を差し伸べてくる。


 パッと瞳を輝かせたユーミリアの返事は、決まっている。


「行くっ!」


 こうして、二人はなかなかに充実した休日を過ごせたのだった。

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