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丸腰の平社員  作者: Shiho
莉桜
6/87

(6)

レンタルサイクルはとても快適で、非日常な楽しい乗り物であったが、春の夜はまだ寒く、二人は月島で自転車を返却した。


「寒かった?大丈夫?」

「うん、手が冷たくなっちゃったけど、ほら」

といって、莉桜が篤志の手をぎゅっと触る。

「わっ、死んでるっ」

莉桜の手は、それほど冷たかった。


「ごめん、電車で帰ればよかったね」篤志が謝る。

「とんでもない。一人で乗ったらこごえるけど、誰かと一緒だとめちゃくちゃ楽しいね。豊洲で乗るのは初めてだから新鮮だった」

そう言って両手をこすり温める。


自転車に、誰かと一緒に乗る。客先へ行く時の自転車は、移動のための手段に過ぎない。

それに比べ、篤志と乗った自転車は、まったく違うものだった。乗る必要性は特になかった。

けれど、乗った。

とても楽しかった。

何が違うのだろうと思うけれど、やっぱり同期って特別な存在なんだと思う。


有楽町線の改札をくぐると、篤志は目の前の自動販売機へ歩み寄り、Suicaをかざした。ガタンと、飲み物が落ちてくる音がした。


「はい」とコーンポタージュの缶を莉桜の手に握らせる。

「あったかいでしょ。飲んでもいいし、手に持っていてもいいよ」

「え…、ありがとぉ」莉桜は驚嘆する。


「やばい、篤志、イケメンすぎ、惚れるっ」と篤志の肩をバシバシ叩く。

「俺に惚れるとやけどするぜ」

「会話が昭和だよっ」


二人で笑いながら、ホームへ続く階段を下りる。莉桜は両手でぎゅっとコーンポタージュの缶を握りしめる。


電車に乗り、二人は出入り口付近に立つ。莉桜も、篤志も中央線沿い、ともに会社が借り上げているワンルームマンションタイプの寮に住んでいる。


時間を確認しようとスマホを出した篤志は「げっ」と声を上げる。


「どうしたの?」と自分を見上げる莉桜に

「明日、太一と『春のコバルト』見る予定だったんだけど、トラブル対応で行けないって」

とLINEの画面を見せる。


太一というのは同期だ。新入社員研修で三人は同じクラスだった。

入社当時はよく集まり一緒に遊んだ。男女六人で箱根に泊まりに行ったこともある。

トラブル対応のため土日は出勤になった、と書いてある。


「わー、太一なつかしぃ。よく会ってるの?」

「いや、けっこう久しぶりでさぁ、昼に映画見て、夜一緒にメシ食う約束だったんだよ。三時からの上映、もう予約しててさぁ。一人でも行くけど」篤志は残念そうに、うなる。


「私行く!!!」

「えっ、いいの?吉祥寺だけど。『春のコバルト』見たことある?」


「聞いてくれたまえ、篤志君」

夕方涙目だった女子の眼は、らんらんと輝いている。


「私は『春のコバルト』を中学の頃から読んでいるのです」莉桜はドヤ顔になり、鼻の穴を膨らませている。

「原作を小説の頃から読んでいて、ファンブックも持っています。漫画も全巻制覇、アニメは、十二周しています!」


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