分裂
1995年 リムソンシティ サン・ドリル地区
ミシェルは銃を取り出し、ライアンに向けた。「俺の仲間をよくも殺りやがったな!償ってもらうぜ!」
「私の敷地内で好き勝手されては困るな。だがあんたがピンキーライオンズの坊やを殺してしまったら掃除屋に払う費用がかさばっちまう。この坊やを殺すにしても別の場所でやってくれ。」と言ってデックがピストルをミシェルの頭に突きつける。
「お前!どうしてこうなった!!」デゥラハンはライアンを睨みつけて怒鳴る。
ミシェルはしばらくライアンに銃口を向けていたが舌打ちをしてそれを下ろす。「くそ!いいかデゥラハン、てめえらには後で落とし前を付けてもらうぜ!」
「ボス・・・その済まねえ・・・あいつがいきなり俺を殴ってきやがったんだ。」と言うライアンを尻目にデゥラハンはどしどしと車の助手席に歩いて行った。「言い訳より先にさっさと車を出せ!」と怒鳴るデゥラハン。ライアンは慌てて運転席に乗り込み、車を発進させる。
車が走り出した途端デゥラハンが言う。「ハイチ野郎にはいい報いだ。お前、最近やっとピンキーライオンズらしくなってきたな。」
二日後 リムソンシティ郊外
パッチドとドリアン、そしてライアンは車を降りた。
「やあ、ピンクの友人!」と声をかけてきたのは迷彩柄で無精ひげの男。
彼はアメリカ共和国軍に属す将校であったが、汚職に手を染めていた。同僚たちがメキシコの麻薬組織殲滅作戦で押収した麻薬を横流ししている。
「独自の拠点があるんだな。」「ああ。当然だがリムソン支部皆が絡んでいるわけじゃねえ。最近は州軍の奴らが共和国軍のスキャンダルを探してる。それで内部監査を行ってあらかじめ俺等を排除しようと言う奴らも現れてるんでな。支部でヤクを保管するのは危険だ。」「なるほど。賢いな。」「で、俺等のヤクを扱いたいんだってな?」「ああ。貧民街はお前らにやる。中央区のディーラー向けに卸したい。サイード・カルテルの連中はヤクの供給を止めるつもりだからな。」とパッチドが言う。
「分かった。メキシコ産だから上質だぜ。まあ入れ。」と言って男はドアに向く。
パッチドの目配せを読み取り、ライアンは軍人の頭に銃を突きつける。「すまねえが・・・ヤクは全て頂くぜ。無料でな。」「何だと!俺のボスが激怒してお前らは皆殺しだぞ!」「すまねえな。メキシコ人、ハイチ人、ラキア人、中国人、そしてサイード・カルテルの奴らが皆あんたらを嫌ってる。」「・・・なるほどな。あんたらは高潔なギャングだと思ってたが・・・長い物に巻かれるタイプだったか。」とあざけるようにいう男の尻を蹴り上げるライアン。「無駄口は良い!命が惜しかったら早く仲間にヤクを持って・・・うっ!」
ライアンの股間に痛みが走る。「くそ!」
「おいおい、あんたらはストリートのチンピラだが俺らは軍人だぜ!なめてもらっちゃ困るぜ!」と男は言い、腰のピストルに手を伸ばした。
しかしその頭は吹き飛ぶ。「大丈夫か!」ドリアンが撃ったのだ。
それからは大変であった。車に乗り込んだ三人は各々マシンガンを手に取った。そして拠点のテントから出てきた軍人達に向かって撃った。動揺している軍人たちはどうにか倒せた。だがまだテント内に残党がいるようだ。ライアンは「構えろ!」と叫ぶとアクセルを踏み込んでテントに突っ込んで軍人達を轢く。
「てめえら・・・」と立ち上がった軍人たちは倒れる。パッチドとドリアンがマシンガンで皆殺しにしたのだ。
このように軍人達をピンキーライオンズが襲撃したことにより、軍人達との同盟関係は早々と解消されたのだった。
2時間前
グテーレスは雑誌を読んでいたが、突然その腹を痛みが襲う。
彼女は雑誌を投げ捨て、ベッドに向かう。「いい子ね、落ち着いて・・・」と言いながらグテーレスは腹を撫でた。
彼女は妊娠していた。ライアンとの間に生まれた子供だ。
だが彼女は困っていた。子どもが出来たものの父親であるライアンはギャングだ。そして自分のアパートの周りはライアンの仲間に警護されている。あからさまなピンクの服の男達。敵ギャングにとっては狙いやすい位置にある。
ライアンはグテーレスの頼みを押し切ってギャングに加入した。普段から敵対組織と殺し合いをしているようなギャングだ。子どもに悪影響が出ないか心配であった。
ライアンは息子をこの地区で育てようと思うはずであった。だから彼女は今まだ子どもの存在を彼には言っていなかった。だがこのままではいつかライアンに事実が露見する。子どもを堕ろしてしまおうかどうしようか、彼女は本気で悩んでいた。
翌日
ボスのデゥラハンの家で会議が行われる。
「軍人の奴らの麻薬保管庫を襲撃した。貧民街の奴らはサイード・カルテルに任せるってことでいいな?」とパッチド。「ああ、大丈夫だ。よくやった。で、問題はこれからだ。」とデゥラハンが口を開き、一同の表情が引き締まる。「今完全に俺等はシルバーウルフに遅れをとってる。奴らのプエルトリコ人との取引は順調だ、一方、俺等は貧民街での勢力拡大に失敗した。」そのとき、「何でデックの野郎のいう事なんか聞いたんだ!」と叫ぶ者がいる。最年少の幹部アブデゥライだ。「軍人は味方にしておけば心強い。奴らならメキシコ人だろうがハイチ人だろうがラキア人だろうが中国人だろうが排除できただろう!でもサイードに妥協したことで・・・」「ボスが話し終わるのを待て!」と止めたのはパッチドだ。「・・・すまねえ。」「ったく・・・いいか、俺等の主な収入源はヤクだ!そしてヤクを供給してるのはサイード・カルテルだ。仕方ねえだろう!奴らと対立すれば俺等はシノギを失ったも同然だ!」「ああ・・・お言葉だがボス、そのせいで俺等はハイチ人に遅れを取ってる。」「じゃあ聞くがなアブデゥライ、その場合ヤクはどこから仕入れるんだ!!」とイライラして叫ぶデゥラハン。「もちろん軍人どもからさ。メキシコ産だろ?質のいいやつがたっぷりあるに違いねえ。」「それはできねえよ。」と静かに言ったのはアブデイ。「どうしてだ!?」「軍人どもと協力する場合貧民街を奴らに渡さなきゃならねえ。」「そうだぜ?だけどパッチド、あんたは自分らが中央区を取るって言って奴らをだましたろ?」「ふん、頭悪い弱小ギャングのふりをしただけさ。中央区は貧民街程大規模にできねえ。中央区なんかで満足しねえだろ、お前は?」「・・・確かにな。だがこれだけははっきり言うぜ!サイード・カルテルは現在シルバーウルフ贔屓だ。奴らと取引なんてしてたら俺等は破滅だぜ!」「じゃあお前が責任持ってヤクの供給元を探せよ!」と叫んだのはドリアンだ。「ああ、俺が責任持って探しといてやる。ボス、デックと手を切りやすい体制を整えておいたもらいたい。」「ああ・・・まあいい、やってみろ。」と困惑顔でデゥラハンが言ったとき、パッチドが口を開いた。「おいボス、それは危険だ。デックにバレたらどうなるか・・・俺はサイードとは良好な関係を築くべきだと思うがな。」「おいパッチド、てめえ俺になんか恨みでもあるのかよ!?」とアブデゥライが立ち上がり、パッチドも「おい表出るか!」と叫んだ。
「いい加減にしやがれ!」と叫ぶデゥラハン。二人がにらみ合いながらも席に着くとデゥラハンは溜息をついて言う。「ボスは俺だ。お前らで勝手に騒ぐな。ピンキーライオンズにとって最善の方法を俺が考えとく。今日は解散だ!」
全員が出て行った後、デゥラハンは兄のアブデイと話し合った。「くそ、幹部会議がここまで紛糾したのは初めてだぜ。」「ああ、俺もそう思った。で、ボスとしてどうするんだ?」「・・・それがよお・・分からねえよ兄貴。」こういったデゥラハンはいつもの冷徹なギャングボスのデゥラハンらしくなかった。チームを心配し、弱々しかった。「どうしたもんかなあ・・・分裂の兆しがあるな。」とアブデイも溜息をつく。
翌日
「ライアン、護衛を頼むぜ。」とパッチドが言い、ライアンは車に乗り込む。
車を発進させ、しばらくしたパッチドは口を開く。「お前、最近家に帰ってないだろ?」「ああ、そうだな。ヤクの梱包やらジェマの警備やらでさ・・・」「グテーレスはお前の状態を心配している。お前が抗争で死なないか心配なんだ。」「ハハハ、あいつは心配性だ。前までは情勢がまずかったが、ひとまずデックとの関係は改善した。シルバーウルフの奴らともしばらくやり合わないだろう?」「おい、ライアン!」パッチドは少しイライラしているようだ。「何だよ?」とライアン。「あのなあ・・・」
こう口を開いたパッチドはグテーレスの妊娠を伝えようかどうしようか迷っている。しかしやっぱりそれはやめておこう。グテーレスからきちんと伝えるべきだ。自分が介入する問題じゃない。
「おい兄貴、どうしたんだよ!?」「・・・ああ、何でもないさ。」とパッチドはつぶやく。
20分後 チャイナタウン
兄の様子に何か釈然としないものを感じつつ、ライアンは使命を全うしようと思った。
デックの説得に応じたリムソン・トライアドが捉えていたピンキーライオンズメンバーダッツを解放することにしたのだ。ボスに命じられて、二人はダッツを受け取る予定であった。
「あいつらふざけやがって・・・」受け取り場所の倉庫に来たパッチドは舌打ちをした。
中国人側のほうが圧倒的に人数が多かった。武装した20人程が倉庫前に整列している。そして彼らの後ろから中年の中国人の女が現れ、その後ろから屈強な男二人に挟まれてダッツがやってくる。
「ダッツ!」とかけよろうとしたパッチドだったが、武装集団が一斉に銃を向けてくる。ライアンは慌ててボスらしき女に銃口を向ける。だがパッチドが止めた。「俺等の間には何もないことになったろ?」とパッチドは中国人の女マナンに言う。「そうね。私たちの間には何もなかった、だから返してあげるわ。」
男二人に支えられた歩いてきたダッツの顔色は悪い。「おい、食事は与えたんだろうな!?」と詰め寄るパッチドをマナンは笑う。「大丈夫よ、彼に食事は与えてある。」
そのときダッツが倒れ、ライアンは慌てて支える。「大丈夫か、ダッツ・・・おい兄貴、たぶんこいつらダッツにヤクかなにかを盛ったんだろう。」「何だと!?おいお前ら・・・ふざけんな!」パッチドは叫ぶ。しかし相手は武装した20人だ。
マナンは笑って答える。「ごめんなさい。だけどね、ゴラウスは私たちの敵だってことを警告したいだけよ。」「ゴラウスだと!俺等に関係ねえだろ?奴と俺等は関わりを持たねえ。奴はボナードからヤクを仕入れてる。俺等とは扱うものが違げえよ。」「そうかい?あんたのとこの幹部がゴラウスに話を持ち掛けてるということだけど?」「ああん?くそ・・・おいライアン、アブデゥライだ。」「アブデゥライ?」「あいつはデックとは別の供給源を求める提案をした。あいつが勝手にゴラウスに接触したんだ、くそ!」「まじかよ・・・」
30分後 サン・ドリル地区
「アブデゥライ、てめえ勝手な真似しやがってよお!」デゥラハンは手に持った白杖を振り上げ、アブデゥライに振り下ろした。「俺が決定を下すまで待てと言ったろう!」「ボス・・・すまねえ・・・だけど、俺はピンキーライオンズのために・・・」「言い訳するんじゃねえ!ボスである俺の指示に従わねえ奴は降格だ!お前を幹部から下ろす!」「おいボス、ちょっと待ってくれ・・・」「ダメだ!今後お前が管理していたシマはモハドに任せる。お前はモハドを支えろ。」「頼むボス、俺がゴラウスに断るから・・・」「やめろ!てめえが関与すると禄なことにならねえ。奴らの対応は兄貴に任せる。」「分かった。俺が奴のところに行く。」「ああ、俺が話を・・・」「お前は幹部じゃねえ、出てけアブデゥライ!」「でも・・・」「さっさと出てけ新人!ここはお前のいるところじゃねえ!」
二日後 ホーネット地区
「ああ、憂鬱だぜ。」とアブデイはぼやいた。「ゴラウスとは会ったことが?」とライアンが聞くと苦々しい顔で「ああ。奴とは因縁がある。俺がまだ若い時だ。当時俺等ソマリアギャングはこの地域の利権を持っていた。そして旧組織ソマリアンライオンズの中では俺とデゥラハンがそれを管理していたんだ。それを奪いやがったのがゴラウスさ。俺らが奴をギャングごっこをするチンピラだと侮ったのも悪いんだがな。奴らはれっきとした新興ギャングだ。ゴラウスの経歴については詳しくないが、この地区にカジノを建設してから麻薬売人を締めるようになったみてえだな。奴らは俺等に払うみかじめ料を拒否した上、俺等の拠点を爆破しやがった!今ではこの地区の顔役だぜ!」
二人が車を降りてゴラウスのカジノの入り口に向かうと巨体の男二名に行く手を塞がれる。「ふん。敵対的だな。だけど今日は話し合いをしに来ただけだ。うちのアブデゥライが持って来た件でな。」とライアンが言うと「すまないがここはカジノだ。客じゃなければ帰れ。」と用心棒の一人が言う。「ああ。確かに俺等は客じゃないがあんたらの雇い主に用がある。ここのオーナーはゴラウスだろ?」とアブデイが言う。用心棒二人は顔を見合わせる。そして一人が中に入っていく。ドアの隙間から喧噪とエロティックな彫刻を施された噴水の一部が見える。
しばらくして戻って来た用心棒は黒いジャケットをして眼帯とピアスを付けた柄の悪く若い女を連れていた。女が口を開く。「ゴラウスさんはお会いになるわ。武器をこいつらに預けて付いてきて。」
中に入ったライアンはおもわず「わお!」と言ってしまう。この肥溜めのような街に立っているとは思えない程豪華なカジノだ。
中央のキューピッドの彫像が彫り込まれた岩から水が噴き出し、噴水を作っている。その大きな噴水の周りに沢山のテーブルが並ぶ。各々のテーブルではトランプやルーレットなどを用いた賭け事が行われ、その間をウェイターやウェイトレスが酒をたくさんのせた盆を持って歩き回る。壁際にはアーケードゲームが多く備え付けれれていて、そこも満席だ。その奥に部屋があり、どうやらあそこは卓球やビリヤード、ボクシングなどのスポーツを楽しむ部屋であるようだ。
女はスタッフ出入口の横の階段に二人を誘導した。
ゴラウスは一見すると麻薬組織のボスには見えない。よれよれの服、手入れされずに伸び放題の無精ひげ、白髪をわずかに残す頭部、小さな鼻の上にのっかった薄汚れた老眼鏡。そしてビール腹。彼はその大きな腹の重さを支えるため杖でを用いてゆっくりと執務用の椅子から立ち上がる。
「久しぶりだなアブデイ、まあかけろよ。」とソファを指さした彼はその向かい側の肘掛椅子に腰を下ろす。二人を案内した若い女がだらりと下げた右腕にピストルを持ってその後ろに立つ。
「おいおい、俺等は武器を没収されてる。用心棒を付けることはねえだろ。」とライアンが言うとゴラウスは喉の奥でくっくっくと笑った。「年を取るとだんだん怖がりになるんだよ。ところで若造、見ねえ顔だな。新人か?」「ああ、そうだ。今日はアブデイの護衛のつもりで来たが武器を没収されてしまった。」「すまんな。だけどここは客も含めて武器を預ってる。あんたらギャングならなおさらだろ。」「ああ、そうだな。」「ところでアブデイ、本題に入ろう。アブデゥライを派遣したのはお前だと見た。俺はパイレーツにヤクを卸せばいいのかな?」「ああ、その話だが・・・アブデゥライの独断だ。ピンキーライオンズとして、あんたらと取引する気はない。」
ライアンは強張る。目の前に座るゴラウスとその後ろに立つ女の雰囲気が変わったのだ。ゴラウスは前に身を乗り出しながらアブデイを睨み、女は右手のピストルの撃鉄を起こした。いつでもアブデイを逃がせるようにしなきゃならないと思い、たちあがろうとするライアン。しかしアブデイが押しとどめた。
「アブデイ、まさかこんな下らんことを伝えるためにここに来たのか?」とゴラウス。完全に敵意をむき出しにしている。「ああ、あんたにとって下らんことかもしれんがよく考えたほうがいい。仮に俺たちがあんたと組んだことに合意したとする。でもそうなったら俺たちには全ての黒人ギャング、メキシコギャング、トライアド、そしてサイード・カルテルが一斉に襲い掛かるぞ。最近貧民街に売人を派遣しているギャングは皆協定を結んでいるからな。」「ほう?そうなのか。だがその協定もいずれは崩壊するはずだ。現にブラックスネイクスとモラティンシンジケートが結んだ協定が崩壊した結果貧民街には黒人・メキシコ人・中国人が集うようになったんじゃねえか?」「・・・そうだな。だけど今はまだサイード・カルテルと関係を保ちたい。俺たちの主な供給源だからな。あんたもサイードを敵に回したくねえだろ?」「なるほどな。だけど俺の心配はいい。サイードなど怖くねえ。あんたにとっちゃ苦い思い出だろうが、俺はあんたらからこの地区を奪った。そのときあんたらの背後にはサイードが付いていた。だが現に俺は潰されてない。」「ふん。残念ながらそれはサイードがあんたらなど眼中になかったせいだな。サイードの連中は俺等に必要な分のヤクを卸すだけだ。俺等がどこで売るか、どういったライバルと抗争するかなんてことは当時の奴らの関心にはなかった。だけど貧民街での協定でも分かるように、最近のサイードはそこに関心を見出している。」「そうだな。だから俺等はサイードを潰すつもりだ。」
アブデイが驚愕の声を上げる。「何だと!?」「心配ありがとさん。だが俺等のバッグにはサイードなど簡単に潰せる勢力がある。サイードより俺等についたほうがいいぜ。」「そうかな?組む気はないが一応そいつらが何者なのか教えてくれ。」「それは秘密だ。俺等の供給源を奪還されてはたまらんからな。」「そうか、そうか。供給源を教えずして俺等に取引を持ちかけてくるとは大胆だな。」「供給源は関係ねえだろ?」「いや、関係あるね。仮に俺等が取引に合意したとしてあんたの供給源がホワイトパニッシャーズとかだったら困るぜ。俺等があんたらに渡した金がムショの中のホワイトパニッシャーズに流れて奴らが力を増す。結果俺等の同胞が苦しむ。あんたは白人だからあり得ることだろ?」「安心しろ。俺は白人だがホワイトパニッシャーズの理念に共感したことはねえ。有色人種嫌いでもねえ。俺はビジネス上敵対する奴をつぶすだけだ。そいつが白人だろうが黒人だろうがヒスパニックだとうがアジア人だろうが関係ねえ。」「じゃあ誰なんだ?」「順番が逆だぜ、アブデイ。あんたらが取引に合意したらヤクの仕入れ先を言ってやってもいい。あんたが今ここで決めろ。取引するかどうか。」「俺一人で決めることじゃねえ。幹部会議を開く。」「そうか・・・分かった。三日後までに返事が無かったら俺らはあんたらもサイードに与する者としてつぶしにかかるぞ。」「分かった。よしライアン、行くぞ!」
30分後 サン・ドリル地区
「そうか・・・分かった。明日幹部会議を招集する。」とアブデイの報告を受けたデゥラハンは言う。「ああ。そうしてくれ。奴は警戒しておいたほうがいい。」そう言ってアブデイは車に向かう。その背中にデゥラハンが声をかける。「すまんが車は兄貴が自分で運転してくれ。運転席にいる新人を呼んで来い。」「あ、ああ分かった。」
「入れ。」デゥラハンは何とライアンを自宅に招き入れた。「座れ。」デゥラハンはソファを指さし、ライアンは座る。
「どうしたボス?」不安に駆られたライアンは向かい側に座るデゥラハンに問いかける。「ああ・・・お前が前言っていたことについて考えていた。」「前言っていたこと?」「そうだ。スパイだ。ピンキーライオンズ内にいるかもしれないスパイ。」「ああ、確かに言ったけど・・・」ライアンは今や冷や汗を流している。ボスはこの俺を疑っているのか!?
確かにライアンは新しい奴だ。それにシルバーウルフに奪われた重要な取引にも参加していた。一番疑われるべきなのは自分だ。だけどシルバーウルフの連中に兄を誘拐させたりなんか・・・
「お前の意見は正しいと思う。」鼓動を上げるライアンにお構いなしにデゥラハンは話を続ける。「多分俺らの中にスパイがいる。」「え、ええ・・・でそいつの目途は?」「分からん。だがお前ではないだろう。」「え?」「ハハハハハ、まさかお前がスパイだと?そりゃないぜ。お前はシルバーウルフや他の連中と接触する機会がなかったからな。お前は雑用や護衛で常に誰かしらの近くにいた。」「ええ、でもどうして俺を・・・」「お前は新人を卒業する。中堅構成員だ。お前の最初の仕事はスパイを見つけることだ。見つけたら報告しろ。因みのそいつは多分幹部の誰かだろう。こんな物が俺の家からみつかったからな。」そう言いながらデゥラハンはポケットから盗聴器を取り出した。