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救出

1995年 リムソンシティ サン・ドリル地区

 「ぐふ・・・」ライアンは倒れ込む。「この役立たずが!不幸中の幸いはてめえみてえな使えねえ奴のダサい姿が敵に見つからなかったことだな!」ピンキーライオンズのボスデゥラハンは倒れるライアンの頭を白杖で殴り続けた。「パッチドからギャングには向いてねえと言われたが本当にその通りだな!てめえには抜けて貰おう!こんな役立たずはいらねえ!」そのとき、「もうそのくらいにしとけ。こいつ、死ぬぞ。パッチドが戻って来たとき悲しむ。」と言う声がしてデゥラハンの兄アブデイが入って来た。だが怒り心頭なデゥラハンはアブデイにも食って掛かる。「馬鹿野郎!そのパッチドは今ハイチ人どもに拉致されていて生きてるかも分からねえんだぞ!」「ああ・・・確かにそうだな。だけど・・・この役たたずにチャンスをやったらどうだ?」「ああん?」「こいつに特攻させろ。シルバーウルフの連中のシマにな。こいつに捜索と捕まったダベス・パッチドの救出をさせたらどうだ?」「マシンガンも撃てねえクソガキにできるか?」「できなかったら多分シルバーウルフの奴らがこいつを殺すだろう。こいつが殺されたらそれだけの実力だったってことだ!だけどこいつが二人を救出するか奴らから金を取り戻せたら・・・こいつの追放はなしだ?どうかな?」「分かった、やってみよう。よかったなクソガキ…命拾いしたぜ。」


2時間前

 「はあ・・・」シャワーを浴び終わったグレーテスは溜息をついた。どうせライアンはギャングの仕事だろう。

 その時、ドアをノックする音がした。「はあい?」「すまねえ、ピンキーライオンズのアブデゥライだ。」グテーレスは不安そうな顔をしながらもドアを開けて彼を招き入れる。「どうかしたのかしら?」アブデゥライの後ろからついてきた三人の構成員を見ながら聞くグテーレス。アブデゥライはその構成員三人と顔を見合わせた後言う。「最近敵対組織シルバーウルフが活発化している。警戒のため一応俺と仲間があんたの家の周りを警護する。」しかしグテーレスは言う。「それは事実なんでしょうけど全てを語ってはいないわね?」「は?どういうことだ?」明らかに動揺するアブデゥライ。「ライアンは無事なの?」「ああ、もちろん。だから俺はその無事を君に知らせるという役目も持っている。ライアンは仕事が忙しくてしばらくここにかえってこれないんでな。」「無事なのね!?」必死なグテーレスはアブデゥライに詰め寄る。「おお、無事だぜ?どうやら信じられねえみたいだが・・・会わせてやることもできる。」するとグテーレスは作り笑いを浮かべる。「ああ・・・ごめんなさい・・・無事ならいいのよ。何か飲む?」「ああ・・・俺はいい。お前らはどうする?」「俺らも大丈夫だ。」「ああ。」「大丈夫だ。では俺等は外にいるから。邪魔したな。」「ええ、こちらこそ守ってくれてありがとう。」「お安い御用さ。仲間の家族を守るのが俺らピンキーライオンズの掟でな。」

 アブデゥライ一行が出て行った後グテーレスは不安そうな顔でつぶやいた。「彼ら何を隠してるのかしら?ライアンは無事だとしても何か悪いことが起こったに違いないわ。」


翌日

 「まだ痛むだろう?」ライアンの絆創膏だらけの顔を眺めながらアブデイが言う。「ええ。」と答えたライアンはアブデイの娘リーラが出した朝食を食べ始める。

 しばらく続いた沈黙の後ライアンは口を開く。「昨日はありがとう。」「何?ああ・・・手当してやったことか?いいさいいさ、俺はピンキーライオンズ専属の医者でもあるからな。ケガした奴は皆俺のところに・・」「あの、それもあるけど・・・俺のピンキーライオンズ追放を阻止してくれてこと、感謝してる。」するとパンにジャムを塗っていたアブデイの手が泊まった。口を開いた時、アブデイの声は低くなっていた。「ああ、俺はお前を信じてデゥラハンに頼み込んだんだ。お前のピンキーライオンズに対する熱意は分かっていたしな。それにかつての弟もお前みたいだったしな。」「弟って・・・ボスのこと?」「ああ、そうだ。あいつがギャングに加入したときはまだピンキーライオンズはなかった。ここら一帯はラッチっていう残虐なギャングが仕切っていた。50年代の頃さ。俺と弟は中央区の孤児院から逃げ出してこの地区にやってきた。孤児院は腐りきっていたんでな。職員も孤児も白人野郎どもが一致団結して俺らを虐めていたのさ。俺らはここでラッチの手下のカディスって奴に頭を下げて助けを求めた。するとカディスは俺等に言う。俺の手下になれ、とな。俺らのギャング生活のスタートさ。弟が両目を抉り出されたのはこの頃だ。」「抉り出された!?」「ああ、ラッチの手によってな。」「なんだって!?」「お前が弟にボコボコにされたのと同じ具合にな。カディスと俺らは当時ラッチの娘をレイプしたラキア人二人を追っていた。そして情報屋から有力な情報を得た。レイプした野郎は両方ラキア系ギャング『パープルマーダーズ』に属するってな。そこで俺らは奴らの本拠地に奇襲をかけた。念のためカディスと俺、もう一人のカディスの手下が突入してデゥラハンは車の運転席で待っていた。さて、いよいよ襲撃だ。ところが俺らはラキア人連中を甘く見ていた。標的以外の奴らを銃でおっぱらってクソ野郎二人を拉致してこればいいだけだと思ってたぜ。俺らはラキア人どもにボコボコにされた上拉致された。あんたの兄とダベスのようにな。突入した全員が捕まった。そして俺らは庭に出された。奴らは俺らを木に縛り付けた。そして縛られた俺は見たんだ。弟が怯えた表情でエンジンをかけ、走り去るのをな。だがのこのこ報告に来たデゥラハンにラッチは激怒した。お前がマシンガンをぶっ放せばよかったんだと怒鳴ったんだ。そしてラッチはフォークを手に取り・・・デゥラハンの目ん玉を抉り出したのさ。それが奴に対する罰だった。俺らはラッチが送り込んだ仲間によって助け出されたが、弟は視力を一生失った。」「ボスにはそんな過去があったんだな・・・」「そうだ。だから今回の制裁は優しい方だぜ。お前は視力を奪われていないしな。いいか、俺が助けてやったからにはボスの信頼を回復できるよう頑張れよ!」


2日後 

 「よし。ああ・・・ラキアンラッツの奴らまた銃を向けてきやがる。まあいい、行こう。」ドリアンは車を停めると仲間たちと共に下りた。「よお、安心し・・・嘘だろ!」ドリアンは溜息をつく。ログハウスの中からサイード・カルテルのデックと共に灰色の服を着たハイチ人が出てきた。敵ギャングのシルバーウルフの者だ。「クソ!おいデック、どういうこった!」するとデックの護衛をしていたラキアンラッツの連中が銃を向けてきた。「やあドリアン、実は君達に聞きたいことがあるんだ。ログハウスへ。ああ、ミシェルも残ってくれ。」と去ろうとしたハイチ人にも声をかけるデック。


 中には大勢のシルバーウルフの連中がいた。「ああ・・・少々暑苦しいな。まあ理性的に話し合おうじゃないか。ドリアンとミシェルだけ残ってくれ。後は全員外へ。」しばらくにらみ合うピンキーライオンズの構成員とシルバーウルフの構成員であったがデックが鋭い一瞥を投げると肩をすくめて出て行く。

 デックが部屋の中央にあるテーブルを指さし、ドリアンとミシェルはにらみ合いながら椅子に座る。どこからか椅子を持ってきたデックも座りながら口を開く。「さてと、ドリアンに説明をしてやってくれミシェル。」「ああ・・・」するとミシェルはにやり、と笑ってドリアンを見ながら言う。「俺はデックに提案した。俺らとあんたらのヤクの配分をチェンジするという提案だ。」「何だと!困るぞデック、俺らは取引先にどう説明すれば・・・」するとミシェルが言う。「安心しろ、ジャカの連中の取引は俺等が引き継ぐ。もう先方との手続きは終わった。」するとドリアンは「そういうことか・・・いつか殺してやるからな・・・取引先の奴と共にな。」とつぶやいた。

 ドリアンの中では取引現場を何故敵は特定できたのか疑問が残っていた。何故なら取引直前までボスが直接相手と連絡を取って取引場所を決めていたのだ。情報の漏洩を防ぐためボスと相手以外には取引が直前まで知れないようにしていたのだ。また取引場所までは車で移動していたが、普段出入りが激しいピンキーライオンズのシマのことだ。敵もいちいち監視してはいないだろう。だが今全ての謎が解けた。取引相手が情報を漏らしたのだ。そこでシルバーウルフが来た。

 「クソ!じゃあ!」と叫んでドリアンはミシェルに言う。「お前らが襲った仲間を返せ!取引が欲しかったんだろう、クソ野郎!」するとミシェルは気持ち悪い笑顔を浮かべて言う。「すまねえが・・・それは俺の一存で決められることじゃねえ。うちのボスが返すと言えば返してやろう。」「何だと・・・」とつかみかかる彼であったがその背中に後ろからデックの護衛が銃を突き付ける。「君達の事情は知らんが、今の反応を聞く限り・・・ピンキーライオンズにはヤクを多く卸す必要はないだろう。」「くそ・・・いいかブーデゥー野郎!お前らを皆殺しにしてヤクを全て奪ってやるからな!無論仲間も返してもらうぞ。そしたらデック、あんたは計画を変えるか?」「もちろん。取引の状況が変わったらまた教えてくれたまえ。」「見てろよミシェル、てめえら仲間ごと地獄に送ってやる!」そう吐き捨てると足音荒く退室するドリアン。

 「全く・・・君達はもう過激な行為はしないでくれよ。」とミシェルに言うデック。「ああ、先日は倉庫を襲撃してすまなかった。ボスからお詫びにヤクの一部を返してこいと言われた。ここにある。」と箱を置くミシェル。箱を空けて目を丸くしながらデックが言う。「かなりの量だな。」「ああ、半分返す。料金はそのままでいい。」「寛大な対応、感謝する。」「いいさ。なにせ俺らは・・・これから稼ぐんだからな。」


 外ではラキアンラッツを挟むようにしてピンキーライオンズとシルバーウルフがにらみ合っていた。シルバーウルフが双方にライフルを突き付けていなかったら間違いなく殺し合いになっていただろう。

そこにドリアンがやってきた。「どうだった?」「くそ・・・この灰色のクズどもに取引を奪われた。プエルトリコ人は裏切ってた。こいつらが安値でも提案したんじゃねえか?」「何だと!」「ああ、だがな・・・てめえらシマに戻ったら家族と遺言について相談しとけよ。近いうち、お前らは皆死ぬんだ。シルバーウルフは・・・終わる。」


翌日

 「なんてこった・・・奴らから俺らに接触してきたくせによお!」デゥラハンは取引相手の裏切りに対して怒っているようだ。「どうするボス?」と幹部のバックが言う。「ああ・・・確かハロルドの野郎は運び屋としてニューカブキチョーのハングレを使っていたよな?」「ああ、その筈だ。多分運び屋としてシルバーウルフとの取引でも使うだろう。」とアブデイが答える。「ようし、分かった。ハングレをこっちの味方に引き入れよう。」「了解。交渉役は誰が?ちなみに俺は難しい。今シマ内の一般宅をシルバーウルフから守ってる最中でな。」とアブデゥライ。「アブデゥライ、そう急ぐな。ハングレへの交渉はひとまずダベスとパッチドを救出してからだ。アブデイとドリアンは新人を連れていけ。最初は新人に行かせろよ。新人が気概を見せたら加勢しろ。新人がちびりでもしたら・・・放って戻ってこい。その場合は後日襲撃を掛ける。」


 デゥラハンの家から幹部達が出てきた。「ようし、準備はいいな?」ドリアンが声をかけてくる。「ああ、大丈夫だ。」少し震える声でライアンは答えた。怖いが、大切な兄と幹部を助けるためだ。彼は前回は使えなかったマシンガンを見下ろした。


 「いよいよ奴らのシマに入った。」と運転席のアブデイが告げると車内に緊張感が走る。

 シルバーウルフのシマはピンキーライオンズのシマと数ブロックしか離れていないにも関わらず様子が全く違う。木製の十字架に摩訶不思議なデザインの仮面といったものが家々の柵を飾っている。ところどころにあるトタン屋根の小屋の中では年老いたハイチ人が乾燥させた薬草をすりつぶしている。素朴なブードゥー信仰が息づいているようだ。

 「よし、ここからはギャングの仕事場エリアだ。確かあの工場みてえな場所に何人かがたむろしてる筈だ。新人、行ってこい。」「ああ、行ってくる。」ライアンはバンを降りて歩き出す。

 緊張している。今から敵対組織のアジトに一人で乗り込むのだ。相手は狂暴なギャングシルバーウルフだ。死ぬリスクは高い。だがそんなライアンの頭に浮かぶのは兄のパッチドの顔だ。大切な兄を敵ギャングから救わなければ!

 工場の前には二人護衛らしき男が立っている。ライアンが近づいていくと奴らは気づいた。「くそ敵襲だ!」護衛の一人が叫んだ。仲間が大量に出てくるはずだ。まずい。ライアンはパニックになった。どうしよう・・・

 そして彼は・・・マシンガンを乱射した。「ぐっ!」護衛二人が倒れる。「何だ?」出てきた男達の前に絶叫するライアンが立ちふさがる。「うわー!!くそ、くそ・・・」パニックになったままライアンはマシンガンを乱射していた。


 「ありゃすげえな・・・」と言ってアブデイと顔を見合わせるドリアン。「ああ、驚いたぜ。俺らも行くぞ。」アクセルを踏むアブデイ。バンは猛スピードで工場に突っ込んでいく。


 「くそ!」ライアンの耳に何か当たった。焼けるような痛み。銃弾が耳に当たったようだ。「くそ!」アブデイがマシンガンを構え・・・恐怖で固まる。目の前に銃を構えたシルバーウルフの構成員が四人立ちふさがる。

 そのときそいつらが一気に倒れた。バンが轢いたのだ。「よくやったぞ新人、乗れ!」アブデイが叫び、バンの後部座席のドアが開く。ドリアンが身を乗り出して片手でライフルを撃ちながら手を差し出す。ライアンは捕まってバンに乗り込んだ。

 「大丈夫か?」とドリアンが聞く。「うう・・・耳が・・・」「待ってろよ、後で治療してやる。」アブデイはそう言いながら工場内を逃げ惑うシルバーウルフにピストルを乱射しながら轢いていく。

痛みをこらえながらもライアンの目は何かを捉えた。「あ、兄貴!」パッチドが天井の梁から縄で吊るされている。裸の状態だ。「よし、救出だ!」アブデイがアクセルを踏んだ。「くそう!」立ちはだかった二人の構成員は車の轢かれるとみるやいなや飛びのいた。「近づくな!」ドリアンがライフルを放って逃げようとする二人を撃った。二人の首に弾が当たり、即死だ。

 「兄さん!」ライアンは耳の痛みも忘れて飛び出した。「待ってろ兄さん!」ライアンは天井の縄の結び目に向かってピストルを撃ち、落下した兄の体をアブデイとドリアンが受け止める。


 「怪我がなくてよかったぜ。」とアブデイ。「ああ。だけど・・・奴らは俺を痛めつけるよりも残酷なことをしたんだ・・・奴らは・・・」そう言うといきなりパッチドは泣き出した。「兄さん!どうしたんだ?」「ああ・・・奴らは・・・俺の目の前でダベスを撃ち殺しやがった!」「なんだと!じゃああダベスは・・・」「ああアブデイ、シルバーウルフの連中に殺されたさ。」そう答えたパッチドの目には光はなかった。

 ライアンは「くそ・・・」とつぶやいた。ダベスが死んだのは自分のせいだ。俺があの時シルバーウルフの奴らをマシンガンでおっぱらっていれば・・・


2時間後

 「癪だが約束だ。新人、てめえは許す。だが次ミスをしたらぶち殺してやるからな・・・」そう言うとデゥラハンは「戻ったところ悪いが幹部会議だ。」と言う。「新人、パッチドを家まで送ってやれ。服が必要だ。」とアブデイが言う。「ああ。」そう答えるとライアンはバンの運転席に座り直し、「兄さん・・・すまなかった。」と言ってアクセルを踏んだ。パッチドは何も答えなかった。うわの空だ。

 


 

 

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