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襲撃

1995年 リムソンシティ 中央区

 「売買契約成立ですな。では期日までに料金のお支払いを」不動産屋のエドウィンはソマリア系ストリートギャング「ブルーライオンズ」の女幹部デブラから書類を受け取ると満足そうな顔をして車に乗り込んだ。

 「全く…強欲な白人だこと。」と言ってデブラは友好団体「ピンキーライオンズ」幹部のダベスと顔を見合わせる。そして二人は笑い出した。


 「よし、モーテルは引き継げたぞ。デブラが買い取って合法風俗に使うそうだ。」車の窓からダベスとデブラの様子を見ていたパッチドはボスのデゥラハンに電話する。「了解だ。さてと・・・今ドリアンが到着した。モーテルに隠してあるヤクを全て保管庫に移したらしい。新人にはヤクの梱包を任せたいからライアンを保管庫で下ろしてくれ。お前はダベスと一緒にプエルトリコ人と会って来い。取引の日程を決めてきてくれ。」「了解、ボス。」


一時間後 サン・ドリル地区

 麻薬の保管庫は何とアパートだ。どうやらいくつかの部屋を名義のみ借りているメンバーがおり、そこを保管庫として使っているようだ。

 「よく来たな新人!そこの階段から上がってきてくれ!」と出迎えたのはディーラーのドリアンだ。     

 「梱包作業を頼むぞ!」と言ってドリアンが指し示したテーブルの上を見てライアンは少し震える。そこには多くのくり抜かれたジャガイモとビニールテープ、包み紙があった。そしてジャガイモの中には小さな袋が入っており、そこに白い粉が詰められている。麻薬だ。


同時刻

 サン・ドリル地区の東端にあるラキア系ギャング「ラキアンラッツ」の縄張りにピンク色に塗られたバンが入っていく。

 バンはあるログハウスの前に停止する。ログハウスの敷地内で煙草を吸っていた「ラキアンラッツ」のメンバーが地面に置いたライフルを拾い、バンに突きつける。「酷い歓迎だな。」と愚痴を言いながら降りてきたのは「ピンキーライオンズ」幹部のアブデイと彼の護衛三人だ。

 「念のため警戒さ。最近シルバーウルフが過激な動きをしてる。ライバルのあんたらがどんな行動を起こすか分からんからな。」と言いながらログハウスの中からスーツを着たラキア人が出てきた。掘りの深い顔立ちで、口ひげをよく整えた男だ。スーツと整った髪型・髭、そして腕に付けた高級時計からサン・ドリル地区にいなければビジネスマンかと思ったことだろう。「よお、デック!急遽申し訳ねえな。」とアブデイ。「構わんよ。あんたらに組織的な買い手が現れたと知って嬉しいね。」と答えたスーツ姿のラキア人デックは「追加注文分については既に裏の倉庫に保管してあるぞ、行こう。」と言った。

 「お前らは見張ってろ。私はピンキーライオンズの連中と一緒に倉庫に行く。」とデックがラキアンラッツのメンバーに言った途端ログハウスから四人の筋肉質の男が出てきた。彼らはSWATのような重武装をしていた。さらに腰にピストルを二挺さし、手にはライフルを持つ。彼らは歩き始めたデックを取り囲むように後をついていき、その後ろにアブデイ一行が続く。「デックの奴、随分警戒してるようだな。傭兵に護衛をさせてるのか。」とつぶやくロン毛の手下に対し、アブデイは険しい顔で「ああ。それだけシルバーウルフの奴らが暴走しているということだろう。」と答えた。


 倉庫についたデックを作業着を着た二人のラキアンラッツのメンバーが出迎えた。「よお。」とアブデイ一行とあいさつを交わす。

 「ブツはこっちにある。」と言ってそのうちの一人が奥に一行を案内する。そこには段ボール箱に入った沢山のジャガイモがある。「この隙間に乾燥状態のハッパも入れておいた。」とデックが言い、段ボール箱の紙の端をさす。紙と紙の間からビニール袋に包まれた緑色のものが顔をのぞかせていた。「ハハ、ありがとよ。」そうアブデイが言ったとき、倉庫の外からブレーキの急停車音と銃声が聞こえた。「くそやろうども!」と言う怒鳴り声もする。

 「まずいな!隠れろ!」デックはそう言うと作業服を着た二人に奥の扉を指し示した。二人は扉を開け、アブデイ一行を招き入れる。アブデイ一行のあとにデックの傭兵二人が続く。

 全員が入ったところで作業着の二人は扉を閉めた。


 「おい!ソマリア野郎とのヤクの取引を増やしたな!」と怒鳴りながら入ってくるのは灰色のバンダナを付けたハイチ人達だ。ハイチ系ギャング「シルバーウルフ」だ。ハイチ人ギャングの中で最も恐ろしく、カルト的で野蛮だと言われている。

 だがデックは冷静だ。「ああ・・・すまないな。君達にも相談すべきだったかもな。ピンキーライオンズの連中は組織的な取引があると言ってたから・・・」


 「くそ!野郎裏切るつもりか!」太ったアブデイの手下がピストルを持って立ち上がったが、すぐさま護衛二人にライフルを向けられる。「武装しなきゃ戦えねえ馬鹿どもが!殺せよ!俺はお前らよりつよいん・・・」だがその男の肩にアブデイが手を置く。「落ち着け。今は抵抗するな。」「だけどデックの野郎・・・」「いいから待て。」


 「そこの袋が君達に卸す予定の袋だ。それから・・・そこのやつもだな。ピンキーライオンズに卸す予定のヤクはそこにある。持っていけ。ただし金は払ってくれとボスに伝えろよ。」

 「ああ、金は払うぜ。最初からこうしてればよかったんのによお。そうしてりゃあんたの家を守ってるラキア人のかわいこちゃん達が死ぬこたあなかったぜ。」薄笑いを浮かべながらシルバーウルフの男の一人は袋を担いで仲間に渡す。「これももらっていいんだよなあ?」「ああ。仕方ねえ。ピンキーライオンズに卸す分がそんなに欲しけりゃやるよ。」そう言いながらデックは護衛二人に目配せをする。二人は腰からピストルを抜くと一丁ずつデックに渡し、ライフルを引き抜き・・・シルバーウルフの背中を撃った。デックも無表情で二丁の拳銃を構え、撃ち始める。またたくまにシルバーウルフの連中の死体が倉庫に転がる。

 「何だ!」外から一人のシルバーウルフメンバーが入ってきて・・・固まった。デックと二人の護衛が皆ピストルやライフルを突き付けている。「貴様ら!よくもやりやがったな!」と怒りに燃える目でデックを見る男。デックはその視線を受け止めながらも恐ろしく冷淡に言う。「お前は生かしてやろう。帰ってボスにこの光景を伝えてくれ。サイード・カルテルを敵に回すとこうなるってな。お前立ストリートギャングごときが我々サイード・カルテルには勝てると思ったのかね?」「くそ!覚えてろよ。絶対に皆殺しにしてやる!」そう捨て台詞を吐いて男は去っていく。


 「さっきはその・・・すまねえ・・・」アブデイの太った手下は気まずそうにデックと護衛達を眺める。それを見て噴き出すアブデイ。「すまん・・・デック。ドリイはその・・・ハハハハ・・・馬鹿なんだよ。俺が新人の頃からな!」「ハハ、構わんとも。それにしても・・・ラキアンラッツの連中は全く役に立たないな。」そう言ったデックはログハウスの前で血を流して死んでいるラキアンラッツの連中を無感情な目で眺めた。アブデイは肩をすくめながら「アメリカのラキア人はあんたら母国人よりも弱いんだ。」と言って掃除屋に電話をかけ始めた。


二日後

 ピックアップトラックに乗り込んだダベスはパッチドに「俺の指示通りに運転しろ」と言う。「分かった。」と言い、パッチドがエンジンをかけ始めるとダベスは携帯電話を開き、耳に当てた。

 「最近シルバーウルフの奴らが悪さをしている。奴らが今回のプエルトリコ人との取引の邪魔をしてくる可能性がある。だから情報漏洩を防ぐためボスは独断で先方と相談した。今からボスが取引の場所をダベスに電話してくる。」とパッチドが説明する。「なるほど」と言い、ライアンはカルテルからの支給品であるマシンガンを固く握りしめる。大口の取引の護衛は初めてだ。


30分後 リムソンシティ 郊外

 「ここで停めろ。」とダベスが言い、パッチドは車を停めた。

 相手方の乗るバンは既に停まっている。一台のバイクもあった。ライアンとパッチドが荷台から果物の入った籠を卸している間にダベスはバイクによりかかっていたスキンヘッドのヒスパニック系の男と握手した。「よお!上質なヤクが手に入ると聞いて嬉しい限りだ!」と男は少し興奮した様子で言い、嬉しそうな顔をする。「俺らもあんたらと取引できてよかったぜ、ハロルド!」ダベスはそう答え、籠を指さす。パッチドが果物を全て外に出す。その下には麻薬を包んだ包みが敷き詰められていた。「サンプルもあるぞ。」とポリ袋を差し出すダベス。ハロルドはバン車内に目配せを送る。三人の男が出てきた。全員日の丸の入れ墨を首に入れている日本人だ。

 彼らはニューカブキチョーに拠点を置く日系ギャングだ。ニューカブキチョーを支配しているのはヤクザであり、「ハングレ」と呼ばれるギャングはその下請けだ。だがヤクザと違い、彼らには厳しい掟が無い。そのため金のためならどんな汚れ仕事も様々な勢力から受け付けている。

 男のうちロングヘアで鼻の下にゴワゴワした無精ひげを生やす男がポリ袋を受け取り、中身を吸った。「ああ・・・こりゃ驚いた!かなり上質だぜ!」「だろ?さあ、確認してくれ。」ダベスがそう言うと三人の男達はヤクを数え始める。「ああ・・・約束通りだな。」ハロルドは頷き、男達は包みを持って車に入り・・・足元のシートをめくる。なんとその下はくり抜かれていた。「賢いな!そこにヤクを隠すのか?」とパッチド。ハロルドは得意そうに笑うと「そうさ。こいつらを雇ってよかったよ。こいつらは優秀な運び屋さ。無事、ジャカまで届くだろう。さてと…後ろに積んだものを出してくれ。」ヤクを仕舞い終えた男達がトランクからアタッシュケースを二つ出す。「約束の金だ。受け取ってくれ。」とハロルド「金の中身を確認する。」ダベスはそう言うとライアンに警戒するよう眼差しを送り、慎重にアタッシュケースを開けた。

 「うお!すげえ・・・」マシンガンを手に持って警戒態勢を続けていたライアンであったが、おもわず叫んでしまった。アタッシュケースの中には札束がいくつも詰め込まれていた。パッチドが開いたもう一つのアタッシュケースにも金が詰め込まれている。

 ダベスとパッチドが札束の数を数えるのを見ながらライアンは感動していた。やはりギャングの世界はロマンがある。

 そのとき、向こうから猛スピードで走ってくる二台のバン。それらは急停車し、中から灰色の覆面をした連中がピストルを構えて降りてきた。シルバーウルフだ。「そのアタッシュケースを寄越せ!」

 ライアンの手は震えていた。マシンガンでこの男達を倒そうとピックアップトラックの影に隠れたものの撃てなかった。初めての敵ギャングの襲来が怖かったのだ。

 「くそ!行くぞ!」ハロルドはハングレを急かしながらバイクにまたがり、逃げてしまった。ハングレ達も慌ててバンを急発進させる。

 「くそ!」ダベスはピストルを取り出すが、その腕はシルバーウルフにより撃ち抜かれる。「いてて・・・」「戻るぞ!」パッチドはダベスを抱えてアタッシュケースをつかんで戻ろうとするが、その両足をシルバーウルフが撃ち抜く。

 痛みに倒れ込む二人に飛び掛かる五人のシルバーウルフメンバー。彼らは二人にスタンガンを押し当てて気絶させた。「よし、運べ!」リーダー格らしき太った男の指示で構成員達は二人をアタッシュケースと共にバンに放り込む。「行くぞ!」太った男はそう叫び、すばやく構成員が乗り込んだバンは出発した。

 なすすべもなく震えていたライアンは影からよろよろと歩み出てくるなり蹲った。

 




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