王子様に婚約破棄されたけど…
あれ?ぐだぐ…だ?
レイシュル・ハクタクロー伯爵令嬢には婚約者がいる。
その婚約者が突然側に女性を抱き抱えながら私のもとにやってきて………
「レイシュル・ハクタクロー!貴様は王太子である私にふさわしくない!よって貴様との婚約を破棄する!そしてこの未来の皇后であるアイシャを傷つけた罪で貴様を断罪する!」
「きゃ〜!ヘンリー様素敵!」
………目の前で茶番を繰り広げた。うん、なんで?
私が通うこの学園にはほとんどの貴族や王族が学びにきている。
残りの例外は自領で療養している人か犯罪者くらいだけども。
ここで領地経営や魔法の訓練、騎士としての鍛錬に文官になるための勉強をして自領を発展させたり、お城に仕えたりするのがほとんどだ。
だからよっぽどの例外がない限り、王族でさえこの学園に通うのである。
最初、学園に通っているとき何故かクラスのみんなに無視されたり、少し冷たくされたけど今では普通に喋ったり、仲のいいお友達もできたりした。
今でも少し警戒はされているっぽいんだけどね。
その日はいつも通り次の授業の準備をしているとき、お友達のシャルフツル伯爵のミーシャ様、クラシスタ侯爵のユリシュ様とお話していたときのこと。
突然トビラが激しく開かれて周囲の注目を集めた。
そしてそこから、殿下とその腕に抱かれながら登場した女性。それに続いて3人の男性がこちらに向かってきて…
「レイシュル・ハクタクロー!貴様は王太子である私にふさわしくない!よって貴様との婚約を破棄する!そしてこの未来の皇后であるアイシャを傷つけた罪で貴様を断罪する!」
「きゃ〜!ヘンリー様素敵!」
…と宣言してきた。
いや、びっくりですよ。私いつも通りに過ごしていただけなのにいきなり人生の崖っぷち付近です。
というかそんなことより、殿下がおっしゃたことは……
「あの殿下………」「あなたはこちらにいるアイシャ嬢に対して数々の悪質な行いをいたしました」
私の言葉を遮る取り巻きA
「えっと、それよりも……」「お前がアイシャに対して彼女の私物やドレスを壊したり、暴言を吐いたんだろ!証拠があるんだぞ!」
私の言葉を聞こうともしない取り巻きB
「だ、だから私の話を………」「黙れ!言い訳するな!それについ先日、アイシャ嬢を階段から突き落としただろ!この人殺し!」
ついに人殺し判定をする取り巻きC
3人の取り巻きが私の言葉を遮りながら捲し立てて私に向かって悪行を並べていく。
そして私はその勢いにタジタジして黙りこくってしまった。
「ふんっ。貴様がやった罪を認めたか。貴様は伯爵という立場を利用してアイシャを平民だからと悪様に罵っただろ!そんな人物には王族どころか貴族という立場すらふさわしくない!」
「ふぇぇん。アイシャこわかったよ〜。でも、いいんです。一言謝ってさえいただければ許せると思うんです」
アイシャ様の芝居くさい泣き真似に絆されて殿下はアイシャ様を抱きしめた。
「おお。なんてアイシャは優しいんだ。それに比べて貴様は!アイシャに謝罪をしていれば減刑しようと思っていたが……貴様を即刻国外追放とする!」
殿下のとち狂ったような宣言にクラスの全員がざわつく。まだ学生の身とはいえ、王族が衆人環視のなかで宣言したのだ。
これを撤回することはほぼ不可能だろう。
「殿下、横からですが失礼致します」
そう言いながら私を庇う様に前に出てきたのはユリシュ様とミーシャ様だった。
「なんだ貴様は。そいつを庇うつもりか。そいつの罪は今決まったところだ。覆せると思わんことだ」
「いえ、そうではございません」
「ではなんだ?」
ユリシュ様と殿下の会話は続く。
「殿下はこちらにいるこの子が本気で罪を犯した、というつもりなのですね」
「なにを言っているのだ?最初からそう言っているだろ!」
「でしたら、この子にはなおさら不可能なことでございます」
そもそも、最初からずっと言いたいことがあったのだ。
「この子にはにはアリシア様を害する理由がございません」
「そんなものレイシュルさんが殿下を私に取られそうになったから、嫉妬して私に嫌がらせしてるんでしょ!」
「そうだ!私の関心がなくなったから嫉妬てアリシアを害したんだろ!」
お互いに抱き合いながら堂々と不貞宣言をするお2人。
いや、そんなことはどうでもいいか。
そんな理由なら余計に私がアリシア様を害する理由がない。
「それなら、なおさら理由がございませんね。彼女と殿下達は初対面なのですから。
「!?馬鹿なことを言うな!レイシュルとは何回か会っていただろ!」
そう。私と彼は初対面なのだ。
「いいえ。殿下とこの子は今日が初対面ですよ」
なぜなら私は………
「彼女はレイシュル・ハクタクロー伯爵令嬢ではなく、平民のレイシア嬢だからですわ」
レイシュルお嬢様じゃないのだから。
ユリシュ様の言葉に驚いたのは殿下たち5人だけだった。
私が数少ない特待生枠で入学した平民だということはクラスの全員が知っていることだった。
「そもそもレイシアさんが入学したのはたった1ヶ月前のことです」
殿下たち5人とは学年すら違っていたので知らなかったのだろう。知らなかったで済ませてはいけないが。
私は特待生の中でも優秀な成績を納めたので、学年を問わない今いるSクラスに入ったのだ。
「ば、ば、馬鹿な!戯言を言ったって騙されないぞ!それにあいつの、レイシュルの罪が消えたわけではあるまい!」
「レイシュル様でしたら………」
「殿下なにをしていらっしゃるのですか?なにやら私のお話で揉めていたようですが」
噂をすれば乱入してきたのはレイシュルお嬢様だった。
「なにやら我が領の民に向かって罪を突きつけていましたが……」
「なっ!レイシュル!そ、そうだ貴様はアイシャに対して悪質な行いをしただろ!」
「話を晒された気もしますが………私には不可能ですわよ?なぜなら一年間自領で療養していたため来週から復学の予定ですので」
そう、お嬢様は療養のため学園を離れていたため物理的に不可能である。
「ば、馬鹿な!?そ、そうだ!貴様が取り巻きに命令してアリシアを害したんだろ!」
「外と連絡を取れなくなるぐらいの意識不明状態だったのですが……そしてその報告は殿下にも届いているはずですが?」
「うっっ」
うわー殿下さいてー。重症のお嬢様をほっといて浮気していたなんて……
「そうそう、アリシアさん。あなたに大事なご報告がございますの」
「!?な、なによ!」
しれっと教室から出ていこうとしたアリシアをお嬢様は見逃さない。
そうあいつだけは絶対許せないのだ。
「アリシアさん。まずあなたには多数の異性と同衾した疑いがかかっております」
その言葉に驚いたのは乱入した男どもだけだった。
彼女と同じ平民の特待生というだけで私はクラスに馴染めなかったのだ。
アリシア許すまじ。まぁそんなことより……
「そして私レイシュル・ハクタクローに対して毒を盛ったとして逮捕状が出ています」
「なっ!そんな馬鹿な!完璧に逃げ切れていたのに!………あっ」
……自爆しましたね。まぁそれがなくとも罪は確定していたんですがね。
その後、クラスに騎士様が入ってきてアリシアを連れて行った。
ぎゃーぎゃー喚いていた姿はちょっとだけ無様だったのがせいせいした。
その後国外追放をされたとかなんかとか。
そしてあんな馬鹿なことをしでかした殿下と取り巻きが許されるはずもなく、殿下は王太子の座を追われ後宮に幽閉され、取り巻きどもは廃嫡された。
そして今私はお嬢様の部屋にいて……
「あなたも災難だったわね。まさか私の状態を知らないばかりか、私とあなたを間違えるなんてね」
「そこはほんとにびっくりしましたよ」
いやあんなことが起こるなんて誰が予想できるのか。
「まぁ、殿下との婚約がなくなったのは嬉しいわね。あの方幼稚だったし」
「王家の有責ということで賠償金もたっぷりもらえましたもんね」
「それに殿下……元殿下が言ったとおり平民であるあなたを不当に貶めて貴族ですらなくなったしね」
「まぁ自業自得ですけどね」
殿下は……元殿下はほんとにお馬鹿さんだったからなー。あれがトップに立ったらこの国は終わっていただろう。
うん。廃嫡されるべくして廃嫡されたのね。
「それにしても、あなたはミーシャ様やユリシュ様のところじゃなくていいの?」
私は背筋を整えてお嬢様に体を向ける。
それに対する私の答えは決まっている。
「もちろんです。そのために学園まで向かったのですから」
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