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星闘家、星を殴るまで  作者: 竹小
帝国 ナハカラム
32/32

三十星 露天風呂は良いもんだ

 見覚えの無い天井。………私は……寝ていたのね。久しぶりね………こんなに寝たの。横に誰か知らない人が居る。私は確か……。


「目が覚めたのね」


「貴女は?」


「私はエルキア、君が出会ったあの馬鹿の……監査役よ」


 金髪でとても綺麗な人。耳が長く尖っている。きっとエルフの人なんだろう。


「あの馬鹿って……ユウの事?」


「そうよ…面倒事を持ってくる馬鹿よあいつは」


「仲、良いんだね」


 恥じらったのかみるみる顔を赤らめる。少し息を整え、再び話出す。


「………君はシナンサーの連中に追われているみたいなのね」


 なんで………。ユウが話したのかな。


「そして君は魔族……なんだよね」


 ……!?。私は警戒し急いでベットを飛び出す。なんで……それも知ってるの?ユウにだって知られてないのに。


「そう警戒しないで、例え君が魔族であっても私は君に危害を加えないわ」


 落ち着いた様子で椅子に座り続けるエルキア。攻撃する様子は一切無いみたい。


「………本当?」


「ええ、本当よ」


「教えて欲しいの、なんで君はシナンサーに追われているのか」


「教えてどうするの?」


「そのシナンサーから君を守る」


 凛とした目付きで私を見つめる。本当に貴女を信じて良いの?


「分かった、……教える」


「ありがとう、信じてくれて」


 私は話し始めた。


====


 私はこの国の端っこの小さな村で産まれた唯の村娘だった。いつものように出荷の為、この市を訪れたの。なんて事ない日常だった、それが一瞬で奪われた。背後から誰かに攫われたみたい。気が付けば真っ暗な部屋に居た。これが()()()()()


 よく分からない入れ物に入っていた私は一人だけその入れ物から出れたの、無数の私が居る空間から。理解出来なかった。私は私以外居ない筈なのに確かにそこに居た、私以外の私が。試しにその私以外を入れ物から出してみたの。そしたら眠っていた私が目を覚ましたの。


 その私はさっき話した私の村娘だった記憶をちゃんと記憶していた。そこで私は初めて理解したの。写絵のように何枚も私が居るって事を。そしてその私はバラバラになって崩れて消えた。そして私は逃げ出した。その途中で私はある一冊の本を読んだの。


 私の研究記録みたいだったわ。内容は非人道的な物だった。多くの私が実験の影響で死んだ事が書かれていたわ。過度な魔素を注入された事による魔素中毒で死亡、魔物と戦い死亡。人を人とも思わない、得体の知れない所に私は捕まって居たみたいだった。


 研究の内容は最後の記録に書かれていたわ。人工魔族計画と。魔族を人の手によって作る事で戦争の道具にしようとする計画だったみたい。そしてそれを売り捌く、言わば死の商人とも云うべき事を計画していたのだ。


 私は兵器として創り出された魔族。その兵器が何処かに逃げたとしたら、血眼になって探すだろう。だから私は追われている。


「それが事の発端」


「そう………なら尚更シナンサーの連中は許せないわね」


「どうするつもりなの?」


「勿論、潰すわよそんなクソみたいな組織はね」


 顔が怖いよこの人。笑顔だけど怒りとかが漏れ出てるよ。


====


 メリュモートに教えられた技は現時点で俺が完璧に出来ない技だある事を証明しやがりました。


 前提としてまずエネルギーを一切の澱み無く放出できる技術が要求される。俺が頑張っても木を一本へし折るのがやっと。やる事自体は単純でも要求される技量は俺よりも遥かに高い。メリュモートに放出出来る事は褒められたがそれでもスタートラインには立てて居ないのは明白だろう。


 地面に倒れ、空を見上げる。青空だ。なんとなく雲の行方を目で追いかける。何も考えず、ぼーっとする。少し休憩、そう言っとくか。


 太陽は地に隠れ、肌寒い夜が顔を出し掛けている。冷たい風が身体に纏わりつき体温が消えていくのを感じる。疲れたな、戻るか宿に。メリュモートと一緒に宿に戻る。


 戻るや否やエルキアに風呂に入れと言われた。まぁ泥だらけだったし仕方ないか。と言う訳で風呂に浸かっている。言ってもここの風呂は何回か入ってる。なんなら朝風呂さえかましている始末だ。言う事は特に無い。


 露天風呂が有るとして有名なんだとか。聞けば異国の人からの知恵で作られた。つまりだ、俺達と一緒に来たやつか、それもよりも昔に召喚された人の知識なんだろう。俗に言う現代知識無双?だっけかをしたんだろう。


 ふとメリュモートの言葉を思い出す。無闇矢鱈と知識を広めるな的な事を言っていた。俺にどうしろってんだ………。今はエメの事もある。あまり別の事を意識したく無い。この義手もよく分からないままだ。唯今だから分かる、決して安易に使ってはいけない。


 要は悪魔との契約だ。絶大な力と引き換えに俺の肉体を奪いに来る。たとえ今制限できていたとしてコイツは間違いなく奪いに来る。これだけは何の根拠もなく確信できてしまう。上に伸ばした手を再び湯へ戻す。月を見つめながらぼんやりと思考を手放す。


 その瞬間入口の扉がガラガラと音を鳴らしながら開く。誰かが来た。独占タイムは終了のようだ。扉の方に目をやる。そこに居たのはエメだった。胸元から股までタオル一枚で隠している。ここ混浴だったか?


「うー寒い…………」


「…………」


 エメと目が合う。そこで立ち止まんなよ、寒いんだったら早く入りな。


「なんで……ユウが居るの……?」


「俺が先客だ、寒いんだったら早く入れよ」


「う、うん……」


 気まずい空間……か。エメから目を離す。じっと見られてるのも不快だろう。ただでさえ男と一緒に入るのは不快かもしれないしな。


「………」


「…………ねぇユウ」


 顔を見ずに返事をする。


「なんだよ」


「私ね、怖いんだ」


「怖い?」


 シナンサーの奴らが怖いのか、少し声が震えている気がする。


「怖いんだ、もし君が、ユウが死んじゃったらって……」


 シナンサーが怖いんじゃない。俺の事を気にしているのかエメ。なんでだ。俺そんな気にされるような事したか……?


「私、ずっと孤独で逃げてきたの。でも孤独を苦しいなんて思えなかった。君に会ってから、君と遊んだ時から、君の事が………」


 エメの顔を見てみる。湯船の方に顔を俯かせ、涙目になっている。俺は黙りながらエメの隣に行く。


「………そのなんだ、小っ恥ずかしい事言うがエメ、俺はお前を守ってやる!」


 キザな言葉だよ本当。でも言った限りはやってやる。シナンサーの奴らなんざぶっ飛ばしてやる。


 エメは何も言わず、俺の肩に頭を乗せる。せめてこいつが安心出来るようにやれる事をやろう、そんだけだ。


ーーーーー


 時刻は0時を指している。時間だ、これからシナンサーの奴らのねじろをぶっ壊す。場所はエメから聞いた。なんとも不思議なもんだな、まさか貴族が多く住む土地にアジトが有るとは。


「行くか……」


 ちょっとだけ装備を新調したんでねまぁある程度は防いでくれるだろうと。まぁ見た目は……軽装備だなうん。前と違うのは金属が少し増えた感じだな。言ってもどっちも安物だからそんな気にすることではないんだがな。


「エルキアは武器を新調したんだな」


「ええ、そうよ剣士は技量もそうだけど武器も大事なんだから」


「へぇ、なら今度手合わせ願いたいもんだ」


「ボッコボコにしてやるわよ」


「楽しみにしてる」


 シンプルな剣から少し装飾が増えた剣に変わっている。昔やってたゲーム思い出すなぁ……変な見た目の武器がラスボスハメ殺してたの。そう考えるとあの武器が本当に強くなってんのか疑問に思うが……考えないようにするか。


「ああ、それとエルキアこれやるよ」


「えっ、ゆ、指輪?」


「そうそう、前王様から貰っただろ?あれ俺が装備しても意味ねぇからエルキアお前が使ってた方が良いだろ?」


「まぁ……分かったわ」


 簡潔にあの指輪の能力を言うとスキルの威力が上がるだとよ。それと全体的にステータスアップ、筋力のステータスが他のステータスに比べて上昇量が少し多いみたいだな。エルキア向けだと個人的には思うが本人じゃねぇから分からんか。


 宿を出て、少し歩く。昨日シナンサーの奴らとかち合った場所まで来た。月の明かりが噴水を照らしているがなーんだろうなこの……嫌な感じ?不穏な空気って意外に感じやすいのかもな。


「……っ!?」


 一瞬世界が紫に包まれた。本格的になんかしでかす気だなこれは。


「おいら、メリュモートなんかやばい事が起きそうな予感がするぞ」


「………空間の魔素量が均一に変わった。結界を張られたらしい」


「…来るぞ」


 メリュモートの一言が終わると地面が揺れ出した。そして揺れと共に壁のようなものが俺達を分離した。


「おい!メリュモート、エルキア!そっちは大丈夫か!」


「こっちは無事!でもそっちに行けそうに無い!」


「分かった!こっちはこっちでアジトに向かう!」


「了解!」


「メリュモートもそんな感じで頼む」


「分かった」


 エメを守りながらか。やってやる何が起きても守りきってやるよ。

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