二十九星 魔族
二ヶ月振りの投稿だ。本当に申し訳ない。反省しています。
薄暗い、ランタンの光だけが部屋を照らしている。そこに一人椅子に座る中年の男が居た。男は紙を見つめ眉を顰めていた。その目の前には跪く男。
「………捕獲は失敗したか」
「申し上げます。団員およそ60人程死亡致しました。如何なさいましょう?」
「うむ…三犬を呼べ」
「はっ…!」
男は葉巻を手に取り、少し削りマッチで火をつけた。吸い込み、吐き出し少しの余韻に浸る。ウォッシュ・ヴォッシュは立ち上がり何処かへ向かう。
培養ポットと言うべきか、どこか機械らしくもありどこか生物らしさを感じる。それが壁全体に置いてあり不気味さしかない。部屋の一番奥に他よりも一回り、二回り程か大きいポットが置いてある。それは他のに比べ緑に輝いている。
ウォッシュはそのポットに近づきじっと眺めた。
「計画は順調に進んでいたものを……人間の真似事か、だがまぁよい。まだ修正は効く」
「もうすぐだ」
そっと撫でる。ウォッシュの顔には少し悲しみがあるような無表情。振り向き何処かへと向かった。
ーーーーーーー
場面変わり少し前、正確には夜が明ける前の頃。一崎はエメを連れて宿に戻った。正座させられ少し足が痺れた様子の一崎と怒りの表情をしたエルキア。
「で?連れて来たと」
「そうだ、ここならシナンサーの奴らが来てもなんとかなるしな」
「無責任」
「うぐっ…!」
「本当に申し訳ない」
メリュモートは腕を組み黙ってベッドの上に横たわっているエメを見続けている。
「ユウ…貴様こいつの正体を知って……」
「大体な」
「大分その眼には慣れたらしいな」
「えっなんの話私置いてけぼり?」
話が分からないエルキアは戸惑った顔で俺に聞いてくる。
「ねぇ…ユウ、この子の正体って?」
一息つき、話し出す。
「こいつ…エメは魔族だ」
「えっ」
そらそうだ。改めてエメとエルキアを見比べる。明らに魔素の構築量が桁違いだ。到底人間ではない。そしてそんな魔素量をしていたのは都で倒したあの魔族とほぼ同等かそれ以上のエメ。まぁ恐らくだと思っていたがメリュモートの発言で8割ぐらいの確率で正解かと。
「そうだろ?メリュモート」
「エメだったか?こいつは魔族であるのは確かだが、魔族にしては凶暴性、理性、全てが人間と同程度」
「我の眼が狂ったとも考えずらいがな」
「怪しいとしたらシナンサーか」
「だろうな、あの組織はどうにも見過ごしておけないようだな」
「予想直接潰しに行く。予想2潰しに行く。予想3潰す」
「正解をやろう」
「はぁ……いつ行くつもりだ?」
諦めかな、これは。だがまぁ…こっちにも被害が来たんだ俺も潰してやりてぇと思ってた所だ。
「明日だ。明日の朝仕掛ける」
「で?その明日っての今日の事か?」
俺は窓を指差して聞く。
「ん?」
朝日が昇り窓から光が差している。どうやら話し込みすぎたようだ。シナンサーの奴らも真昼間では行動出来ないだろう。その間、俺とメリュモートは修行する事になった。シナンサー程度ならきっとエルキアでもなんとかなる筈だ。無責任過ぎるか………?
ーーーーーー
過去、人類は著しく進化を遂げた。その要因は魔素による身体の強化によるものだった。現代人よりも遥かに強い。ただの農民でさえ現代の霊長類最強の人物を赤子を捻るかの如く容易く倒される。
生存競争において、人間は適応能力はずば抜けて高い。これにより人は魔物の魔素をただ形を変えて放出するだけの物とは違う“魔法”を扱えるのだ。生存能力の向上、魔法による他の生物に対し優位性を確立。人類が頂点に立つべくしてその頂点に座っていた。
それが魔王誕生前の話であった。現在から約1万年程前、何も無いとされた大陸から一通の手紙が送られて来た。手紙の差出人は自身を魔王ラトゥールと名乗った。内容は要約すると自身は支配者として生を受けた。よって支配者気取りの人類を滅ぼし世界を支配する。最初は誰もそんな話を信じなかった。
状況が変わったのはその手紙が送られて1年後だった。クライエッド大陸にて正体不明の敵との交戦。立て続けに起こった出来事によりほら吹き話だと思われていた話は現実味を帯びていった。
そして本格的に魔王と人類の戦いは始まった。長い長い、人の一生では到底終わりなど来ない程の長い戦いだった。ほぼ互角の戦い。一切の悪意を捨て、唯ひたすらに悪を打ちとらんと戦いを続けるが終わらない戦い。
事態が好転したのはある一人の男が生まれ落ちた瞬間からだった。その男の名前はレジド・ハルセーである。人類最初の勇者であった。勇者の元に集まった三人の英雄。戦士カール、魔術師ヒルルク、聖女エメ・マーティン。
後に人魔終末戦争と呼ばる争いを、元凶である魔王を打ち倒したのだ。そして世界は……
「平和になりましたと……」
「ああ、それがこの世界の魔王との歴史だ」
「一つ聞くメリュモート、お前は魔王側なのか?それとも人間側だったのか?」
「………我は、我らは唯その戦いを見ていただけだ」
「我らはどちら側にも付いておらん」
我らは?………ああ、昔はメリュモートの種族はまだ居たもんな。
一息吐く。立ち上がりまた修行を再開する。腕に一定の力を込める。一頻りして弱々しく青い光が抜けていく。持続出来ない。最初は一分、二分、三分と持続していくのは簡単だった。問題は四十分を超えてからだった。自然と発散されていく。意地で持続させても四十三分を超えられない。
「その状態を維持し続けろ。最低でも一時間だ」
その言葉が俺を苦しめて来ている。一部分の強化の持続を伸ばす事により全体での強化持続の安定と時間を伸ばす事が目的らしい。後単純に便利で使い易いから覚えろと。難い。
「だあー!キチィ!」
「………貴様は力をどんな物と想像している?」
「どんな物って……液体みてぇな形の無いもんだと思ってやってるが」
「じゃあその液体は何処に注ぐ?」
「そらコップに……」
「そのコップが穴だらけだとしたら?」
「そらぁ外に溢れるぜ」
「つまり貴様はその穴だらけのコップに液体を注いでいる要な物だ」
マジで?………だったらその穴を塞ぎたいものだが……。そういや力込めすぎたら個体みたく固まらんだよな……。
腕に力を込める。最初に一定量の力を、その外側をコーティングする様に力を固める。十分経過、二十分経過、三十分経過、四十経過………五十分経過、一時間経過。……出来た!ついに大台の一時間に到達出来たぞ。
「やったぜメリュモート!」
「はしゃぐなそれぐらいで。さて漸く本題だ」
「えっ、本題?」
「貴様にとっておきの“技”を教えてやろう」
「技?」
「我個人の最大火力だ」
メリュモートは静かに力を込める紅蓮の炎みたく腕に青い光が燃え上がっていく。光が、炎が収まりメリュモートは構えをとる。そのまま腕を直線へ振り切る。瞬間拳から龍が、メリュモートが飛び出した。いやメリュモートの形をした力が飛んだ。直線上にあった山の一部が消し飛んだ。
顔が引き摺っている気がする。こんな事出来るのはバケモンだけだろうがよ。
「今回貴様に教える技はコレだ。なあに簡単だとも。力を込めて殴るだけ、貴様の得意分野だろ?」
「すぅ…………ちなみに技名は?」
「そうだな……龍の一撃と言ったところだな」
「大分と大技な事で……」
俺コレ使えるかなぁ…。込めるだけだったらいけるがメリュモートの炎みたいな量を出そうとすると身体が、脳が危険だと叫んでいる。頑張っても不完全で威力不足で使い物になるかどうかすら怪しいレベルだろうなきっと。