二十八星 技名をつけたくなるのは男の性か
俺には家族は居ない。正確には死んだ。それが中学二年の頃の話。両親と妹が死んだ死因は事故死だと。交差点で赤信号にも関わらず時速100キロで突っ込んだバカの仕業だと。両方とも死んださ、加害者も被害者もどっちも死んだクソみたいな現実。
原因は飲酒。ドリンクホルダと助手席に酒の空き缶があったとの事。悲しかったよ凄く。俺とは似つかない程に将来有望で優秀な妹。丁度剣道の大会の終わりに事故死。お前夜遅くまで練習して頑張って優勝したんだろうに。そんな妹を俺は応援してたし両親もしてた。時々おやつで喧嘩とかもしてたな、そう言う時はゲームで対決してたっけな。
楽しかったな。葬式の後親戚の所をたらい回しにされて中三の頃に漸く里親が決まってそこで穀潰しだのなんだの言われたな。使用人同然で屋根裏が俺の部屋で。本当は行きたかった私立も公立に変えた。最初は中卒でこの家の使用人(無給)になるように言われてたな。迷惑がかからないように公立で一人暮らしする事を条件になんとか頼み込んで高校に行かせて貰えた。
それからは高校でバイトを週七入れてせっせと働いたさ。クソ程ぼろっちい駅から徒歩30分もかかる壁が紙でできてんのかってぐらい薄い壁の汚いアパートの部屋借りて生きていた。辛かった、死にたかった。でも死ななかった。怖くて苦痛で心の中でずっと自分の事を嫌ってた里親の事を憎んだし殺したかった。いっそ少年院に行った方がいいんじゃないかと考えた。
けどしなかった。所詮は言葉だけの情けない人間だよ俺は。頼れる人なんざ居ない。親戚は昔は優しかった。なのに俺の里親になった途端俺に優しく無くなった。ほんと人が信じれねぇよ。
そんな生活を一年頑張って過ごした。高二の頃に天野とかと同じクラスになった。正直いい噂しか聞かない天野の事は疑ってたし嫌ってた。俺とは違って与えられ、持ってる奴の事を実は嫉妬してたんじゃないかと今では感じる。丁度その頃らへんか自分を客観視してるつもりの自分が出来たのは。
高校に上がる前の話に戻るが俺は転校した中学でいじめられていた。まぁ普通のいじめだったよ。俺の上靴を隠したり、体操服を破られたり、机に落書き。良くあるありふれたいじめ。理由は部落差別だとよ。陰口の内容から大体そうだと察したよ。
まぁやり返しはしたよ、地味にね。主犯の机に納豆ぶちまけてやったり、主犯の席を校庭に捨ててやったりとかもした。直接殴り合ったりとかもした。けどなぁ思春期真っ只中の奴を舐めてた。まさか刃物を出してくるなんて想像もしてなかった。右の二の腕に刺された。めっちゃ痛かったよ。
これぐらいかな?辛かったのは。後は普通さ、異世界召喚とか言う意味不明な事起きたけど。ま、こんな長々と語ったのはあんまり意味は無い。唯ふと振り返りたくなっただけ。
今は宿のベットに包まっている。眠れない。ここ最近ずっとこれだ。眠気さえ無い。窓から差し込む光をじっと見つめている。………出掛けるか。
適当な服に着替え、宿を出た。今日は随分と晴れているらしい。月に雲が掛かっておらず月光でとても明るい。人一人居ない静かな空間。聞こえるのは俺の足音だけ。噴水の所まで来てしまった。適当にそこら辺のベンチに腰掛ける。暇なのは変わらないのに外に居るだけで有意義に感じる。
体感十分程経って誰かがやって来た。こんな時間帯だ、俺と同類かやばい奴かの二択かな。コツコツと足音が近づいてくる。女の人か?男にしては足音が軽い気がする。
「………ん?ユウ?」
「…………エメか」
そういや最初に会った時もこんな時間だったな。
「隣座っていいかな?」
俺は無愛想に返事をする。
「どうぞお好きに」
エメは少し不服そうな顔をした。
「もう少し優しく言えないかなー」
「次からは善処しよう」
「感情こもってないよそれ」
「バレたか」
なんでも無い会話だなほんと。てかエメはこんな時間で歩いてて危なくないのかねぇ。
「そう言えば君と出逢ったのもこれぐらいの時間だったよね」
「ああ、そうだな」
「エメ…お前いつもこんな時間に出歩いてるのか?」
「そうよ、だってまともに眠れないもの」
「いつ、何処であいつらが私の所にやって来るかも分からない。………私は逃げることしか出来ないもの」
「そうか………なら今は寝ておけ。俺が側に居ておいてやるから」
「………………今のプロポーズみたいだね!」
「ええい!寝るんだったらさっさと寝ろ!」
「………ありがと」
こっちが小っ恥ずかしくなる。ああーもう恥ずかしさの極み。エメは俺の肩を枕代わりにしてスヤスヤと眠っている。よっぽど寝てたかったのか安心してすぐ眠りについている。
ほんと随分と月が綺麗だ。こんな夜には静かな時間を過ごしたいものだよ。お呼びじゃ無い奴が来たらどうするのが良いだろうか?
随分な数だな。二十人ぐらいか。予想しておこうぜってぇ禄でもない奴らだ。
建物の陰から男が出て来る。その後にスーツの男達がゾロゾロと現れる。その姿はまんまマフィアだ。と言う事は………シナンサーの人らって訳か。
「夜分遅くに失礼、先に名を名乗っておこう私の名前はウォッシュ以後お見知り置きを」
「俺は一崎だ、っであんたらはどんな用で?」
「はっはっは!そうせっかちになさらんで下さい。今回はお話をしに来たんですよ」
「お話……ねぇ」
「単刀直入に言いましょう。その女をこちらにお渡しして貰いたい唯それだけですよ」
「へぇ……」
「勿論タダだとは言いません、1000万を今すぐにお渡しする事を約束しましょう」
「ああ、随分といい条件じゃないか」
「なら話は早いでは⸺
⸺でもその話断っとくぜ」
「何?」
「俺は金じゃ釣れんぜ」
「こんな俺だがよぉ、約束は守るぜ」
「側に居るって言ったんだ、テメェらがエメから手引きな」
「ちっ……馬鹿が」
「交渉決裂だな、やれ」
ウォッシュが手を上げる。その瞬間スーツの奴らが一斉に武器を取り出した。
「掛かってこいよ、エメに傷一つ付けさせやしない」
エメを横にさせる。さっさと済ませるぞ。
「「火炎の剣」」
「「身体強化」」
「すぅ………はぁ……『臨界』」
ここで言う臨界ってのは唯の格好つけで言ったるだけの言わば厨二病だ。あーもうこんな状況も全部厨二だよほんと。
この臨界はな、要は身体強化だ。俺の青い力を圧縮と解放を体内で繰り返し、青い力を固形化させずに全身に巡らせる事により成せる。苦労したもんだよほんと。
青い光が強く俺の身体に纏われている。今の俺はいつもよりかは強い筈だ。
スーツの男に一気に距離を詰める。腹に一撃後ろに吹っ飛ばして横にいる男にローキック。吹っ飛んだ瞬間に上から地面に叩き潰した。剣で斬り掛かって来るのを受け止め、剣を砕く。空いている手でアッパー。足を掴み叩き付ける。
「「火球」」
無数の火の玉が俺に当たった。だが⸺
「何故だ、効かない!」
「意味ねぇぜそれ」
飛び上がる。男二人の顔面を掴み地面に押し付けて、そのまま周りに居る奴らに向かって振り回す。首がもげたら首を投げて倒す。また新しい奴を掴んで振り回す。
ん?エメに近づいてる奴が居るなぁ。そんな奴には静かに後ろに立って首を取る。そのまま虐殺を続ける。恐れ慄け、もう俺は人の命を奪う事に躊躇いを持たない事にした。これも守る為だ、ありがたく死んだけ。
ゾロゾロとやって来る奴らが居なくなり、最後の一人になった。首を掴み持ち上げる。
「かぁっ………た、たずけ……て」
「すまんな………これもからも自分の選択した事だろ?」
「てな訳だありがたく死んでくれ」
「ゆ、許し」
そのまま首を握りつぶした。死体は適当に捨てた。高揚感と言うものは終わると疲れが一気にやって来る。俺はエメの頭をを肩に置いて横に座った。人に見つからないようある程度したらエメを起こして場所を移動するか。