二十五星 爆弾情報は急にぶっ込むもの
昨日誰かと約束した。物凄く朧げ。なんだっけな王宮の前の噴水で集まるみたいな話だった筈。えっと今何時だ?
「……11時14分」
王宮何処か知らねぇ。終わったか?これ。取り敢えず地図見れば分かるっしょ。本当最初の時に書類と一緒に貰えて助かった。
「ん……あれユウ何処行くの?」
ベットで寝ていたエルキアが起きてしまった。お前もうちょい寝るの長いだろ。なんでこう言う時に起きるかな。
「ちょっと用事だ!」
俺は急いで部屋を出た。
「行っちゃった………」
ーーーー
えっと地図上じゃあ此処か。デケェな王宮、インドだっけな……そこら辺の寺院みたいな形してる。見覚えのある人はっと……。確か特徴的だったのは……翡翠みたいな瞳。
………あの人だな。白色のワンピースでグラデーションの掛かった緑髪の女の人。あれ?女の人………はぁなんでまた。女の人と居るのは嫌だな……男より気を使うし。まぁ金返すだけだし、利子やらどうやら言われても大丈夫な様に多めに換金してきたし。腹括って行くとするか。
「あの……昨夜、私にお金貸してくれた人で間違いないでしょうか?」
「あっはいそうです」
良かった合ってた。
「これで金額あってますかね?」
俺は彼女に現金を渡す。それを彼女は一枚一枚数え出した。
「はい合ってます」
「……自己紹介でもしますか。俺の名前は一崎悠」
「えっと私の名前は……って私名前無いんだった」
「名前……無いんですか?」
「そうなんですよ……一か月前から記憶が無くて」
「私を知ってる人、此処らに居なくて……」
「その……ほぼ初対面の人に頼む事じゃ無いんだけどさ、私に名前をつけてくれる?」
………なーにを頼んでんだこの人は。はぁ、落ち着け慌てるな。名前無いから俺に付けろの思考回路、バグってるのか?まぁ頼まれたからには付けるか名前。
そうだな……安直でいいか、かったるいわ。
エメラルドみたいな瞳だしそっから取るか。だったら……エメラルド、エルドラ、違うしっくり来ない。エラ、魚かよ。エメ……もうこれでいいか。
「んじゃあエメなんてどうだ?」
「エメ……いいね。今日から私はエメ!」
「そんな胸張って言える事か?」
「当たり前でしょなんたって英雄の名前だもの」
すげぇ偶然。まぁ本人が気に入ってるんだったら良いか俺は気にしない。言わぬが仏。意味あってるかな……間違ってても良いや。
「それとさ、デートしない?」
「……ストレートに誘うなエメ」
「良いじゃない、もうタメ口で話すぐらいには仲良くなったんだし」
「うーむ、段階すっ飛ばし過ぎるがまぁ暇だし良いよ」
「決まりね、ほら行きましょ」
そう言ってエメは俺の左手首を掴んで走り出した。ああこの感じ振り回される予感しかしない。俺だったらする。取り敢えず街を歩き回る事になった。
「えっと…下の名前で呼んだ方が良いのかな?」
「もうなんでも良いよ」
「君って話し方が不機嫌に聞こえるね」
「そうか…?普段テンションが低いからそう感じるんじゃないか」
「かもねぇ……後目付き」
「それは生まれつき」
「君ってさ……もう少し髪の毛伸ばして後ろに結んだら柄悪くなりそう」
「柄悪くなって意味あるかそれ?」
「でも似合いそう」
褒めてねぇだろそれ。ぷらぷらと歩き回っていると香ばしい、甘い匂いが鼻腔をくすぐった。
「休憩がてら、あそこの露店で何か買うか?」
「良いね、私甘いもの大好きだよ!」
「そら良かった」
おっちゃんがやってる露店はホットケーキの素みたいな液体を焼いて、砂糖をぶっ掛けた単純なお菓子だった。でもこう言う奴が大抵美味いんだよ。
ベンチに座り、頬張る。うーむ雑に美味い。複雑な味が美味いだの言うが、ゲームでも雑に殴っとけば大体勝てる様に雑な味は普通に美味い。別に否定してる訳では無いが下手に凝るよりかわ美味いでしょって話って事で。
「美味いか?」
「うん!とっても」
「話が変わるが昨夜のあの男はなんだったんだ?」
「あー……それ気になっちゃう?」
「なるな、お前の熱烈なファンだったりして」
「ないわー、私にそんな奴出来そうにないし」
「そうか……?お前結構可愛い顔してると思うけど」
「……………。待って今のなし、キモい」
「何?私の事口説こうとしたの?」
ニマニマした顔で俺の事を揶揄うエメ。
「ええい、鬱陶しい。そんなナチュラルに口説けるんだったら今頃彼女出来てるよ!」
「ふふっ、今まで彼女出来たこと無いんだ……来世に期待だね!」
「サイテーだなエメ」
「さて、大分話がそれたね」
「昨日の男は、私の護衛さ」
「………は?」
「護衛から逃げるとか何処ぞのお嬢様か何かか?」
話が見えねえー。
「まぁ私自身、私の事なんて殆ど覚えてないし」
「もしかしたら貴族の令嬢かもね」
「知ってる事は私はシナンサーと言う集団にとって外部に知られたく無いと言う事だけだね」
「少し質問だ、シナンサーってなんだ」
「あれ、知らない?」
「全く」
「薬物、殺人など犯罪のフルコースを行うこの国最大の犯罪組織」
「………俺そんな所の奴はっ倒したの?」
「最悪命は無いわね」
「なら俺は……っ」
………口先では言えるな。殺されそうになったら殺すってな。日本にいた時のテンションで言ってしまいそうになった。でも違う。俺にはそんな覚悟なんか無い。だから俺はいつまで経っても子供だな。
「………頑張って逃げるよ」
「何か今躊躇ったでしょ」
「自分の馬鹿さ加減に唾吐いただけ」
「自分に対して辛辣ね」
「それで良いんだよ」
どうもやばそうな匂いしかしない。存在を知られたくないつまりだ、奴らにとって弱点を晒す事になるって事かな?つまりなんとしても取り戻そうとするだろうな。…………はぁ、腹括るか。
「………はぁ、遊ぶか?」
「そうね、今はデート中だし」
「その設定まだ続いてたんだ」
その後日が暮れるまで色んな事に付き合わされた。喫茶店に行ったり、買い物したり、色々と。まぁイメージな世間一般的で言う普通のデートをした訳だが、内心自分の心配しかしていなかった。それを改めて客観視したら俺は自己中だ。だが……まぁそんなのはどうでも良い。
俺は宿に戻った。帰り際、また会おうと言われた。本当に次会えるか心配な部分が大きかった。でも嬉しかったな。部屋に入るとジト目で俺を見つめるエルキアが居た。
「あのーどうされたした?エルキアさん」
「……私を置いて、他の女と遊んだ」
「…………。」
あーね、あれだ。だるいやつだ。メンヘラ味を感じる。エルキアってこんな面倒くさい奴だったか?俺火遊びとかしないタイプ。今日のは仕方がない。
「図星でしょ、また別の日に私と出掛けてくれるなら許してあげる」
「はぁ……わかったよ。許してくれエルキア」
「絶対だからね」
面倒だ。縛られるのはあまり好かないってのに。色んな事に縛られていくよ。はぁ………これも運命か。
「ユウ……」
俺を呼んだのはメリュモートだった。
「明日、我に着いてこい。貴様を強くしてやる」
「ああ、分かった」
師匠らしく、何か教えてくれるのだろうか。………俺の勘が言っている。こいつはきっと技とか教えるのではなく野生的な戦い方を教えてくるのだ、と。杞憂であれ、俺はそう願うしかない。
そんな嫌な勘が働くのはアイツ真面目な話し以外筋肉に関してしか話さなかった程には筋肉バカだからだ。脳みそ筋肉に犯されてないか心配だ。まぁ最初は基礎トレーニングとかそんなんだろうと俺は舐めていた。まさかメリュモートがそんな最初さえぶっ飛ばして命を賭ける羽目になるとは。