二十四星 青い力、次なる厄介事
この腕について調べたいとは思っていた。それを旅の目的にしていたつもりだった。でも呑気に調べていたら今日の様に俺は呑まれてしまうだろう。さて、今度は俺が聞く番だ。
「なぁメリュモート、お前はこの腕について知ってるよな?」
「あぁ……我らと因縁があるものだからな」
「その腕は制御さえ出来れば神に等しい所業をも行える」
「だが……今日の様にその腕には意思がある」
「かつて、その当時の王に止められるまで虐殺と破壊をもたらした我らが憎む、忌々しい快楽者だ」
「お前は選ばれてしまった様だが抵抗する術はある」
「貴様のその青い力だ」
「抗い、壊せ。その腕は有ってはならないものだ。貴様には出来る」
こいつほんの少しこの腕の正体について匂わしただけだな。我らが憎む………。我ら………ねぇ。なんか魔王とかの話ぽい癖にその実、どういったものか明確にしてないのが腹立つぜ。
「じゃあ次だ。何故俺を最初に襲った?」
そうあの時、明確に俺だけを見ていた。俺だけを殺そうとしていた。ブレスだってそう。殺意がレベチだった。
「………その腕が目についたからだ」
ダウト。明らかに考え込んだ間があった。となるとこの腕より俺個人に対して何かイラつく事があった?
………顔でもムカついたか。
「そうか……」
「…………ユウと言われていたな?」
「ああ、なんだ?」
「貴様はこの世界の者ではないだろう」
「あの勇者達もだ」
「一つこれは忠告だ」
「あまりこの世界では無い知識を広めるな。それは争いの種を撒くことになる」
「自然は自然のままにしてやってくれ」
「分かった………」
メリュモートは少し微笑み背もたれに背を預けた。まぁ俺はあっちでの知識なんざまともに覚えていないしな。覚えていそうな奴は心当たりがあるが何事も無い事を願うばかりだ。
ーーー数時間後ーーー
城に戻り、王様の依頼を完了した。調合された薬を飲み回復に向かっているとの事だ。報酬として宝物庫の中から好きな物を選んでくれと言われた。勇者らは剣とか武具系を貰って行った。俺はそこら辺に有った指輪にした。
それから勇者らと解散した。散り際に勇者にまたなと言われたが俺的にはもう二度とその面見せるなと言いたい。
嫌っている訳では無い、寧ろ好意的だ。だがしかし嫌いと面倒臭さはイコールでは無い。勇者が居れば何かしらイベントが発生する事は確実だ。なんならあっちから発生させに行く。
故に面倒くさい。そんな面倒事が来るのにもう一度会いたいとは思えない。まぁ主人公らしくどっかでストーリーでもやっといて下さいほんと。
「にしても本当魔王が世界を脅かしているとは思えない雰囲気だな」
城下町をとぼとぼと歩きながら呟いた。今はエルキア達が居る宿に向かっている。報酬に関してあいつはきっぱり「要らない」だとよ。貰えるもんは貰っとくべきだと思うんだかなぁ。
がやがやと混雑している道を人を避けながら歩く。見えた。俺は何事も無く、宿に着いた。準備を終えて、ロビーのソファーに座っている二人に話しかけに行く。
「お疲れ」
「やっと来たのね、随分と報酬選びに手間取ってたようだけど?」
「その文句は勇者共に言ってやれ」
「はいはい、じゃあ行くとしましょうか」
「行先は我が決めても良いか?」
「ん?ああ、いいぞ」
俺的にはほんと何処でも良いからなぁ。
「次の行先は、ナハカラムだ」
あーね、地図で見た時は北の方向だった気がするな。
「ナハカラム……どんな国なんだ?」
「そうねぇ……200年一度も戦争で負けた事の無い国かしら」
「でもあの国カラム人至上主義で、差別が酷い国よ?」
「何処まで行ってもそう言うのあるんだな」
イギリスみたいだな。て、考えたら植民地とか沢山ありそう。
「決まったな、行くぞ」
そっから何も無かった。強いて言うならメリュモートの格好が明らかに痴女なので服を買いに行った。ピチピチの短パンでへそチラしてる服装って……。あんまり変わってないじゃん。
聞けば動き易さ重視だと。まぁ………大事な所隠されてるんだったらそれで良いわもう。本人はもう少し筋肉がーどうたらこうたら垂れ流していたが知るかそんなもんな。
そして現在は馬車の中でゆっくりと隣の方が気持ち悪くなっています。おい、俺の方を向くな。やめろ、吐瀉物を俺に掛けるような事はするんじゃない。せめて、せめて外で吐け!
地獄だ。長時間こんな状況が続くと考えると俺の心労(自分に対して)がまぁ酷いよ。もう少し揺れがマシな乗り物とか無いのか?
それと周りの人達にも迷惑だろ。頼むから大人しくしといてくれ!
ーー約4時間後ーー
「漸く………着いた」
「その…悪いとは思うわ」
「ならなんとか我慢してくれ」
いやほんと馬車が着いた速攻で俺の足元で吐くなんて。避けれたからまだマシだと考えておこう。
「にしてもガチガチな警備だな」
この感じ、違和感だ。いや俺があまり他の国の事を知らないからかもしれないが。内陸国であり、大陸の中央であるにも関わらず何故だ?警戒するとしたら上空。いや上空も警戒してなお、警戒しているのか。
いや、考え過ぎか。なんなら的外れだろう。でもなんだろなこの気持ち。はぁ……。
検問所で引っかかった。冒険者登録していたから俺とエルキアはオーケーが出た。メリュモートに関しては仮通行書でいけた。問題は格好。ここの法律で欲情を煽る格好は禁止だと。
取り敢えず胸元とお腹が隠れるよう、上着を借りた。後で返す。時間を喰われた。とてもめんどくさい。普通に通らして欲しかった。
此処の法律はとても意味不明なやつが多い。11月から4月までの間、生牡蠣及び鳥の心臓を食べる事を禁止。六月の内、一日だけ入浴を禁止。煙草は必ず一本残す事など。通行した時に貰った書類の中で書いてあった。
今は適当な宿に泊まっている。辺りは暗い。腹が減った。でも金を変換するのを忘れた。腹が空いて空いて仕方がない。気がついたら俺は宿の裏通りまで来てしまっていた。眠気と空腹で頭がおかしくなりそうだ。
目の前に人影。なんか慌ただしいな。
「たっ助けて!」
「えっ……!?」
人が俺の後ろに隠れた。そしてまた目の前から誰かが来た。人影の形が明らかに装備している。ああ、頭回んねぇや。
「おい、そこの男。後ろの奴をこちらに渡せ」
すぅーー。腹立つなこいつ。あれだ、俺の心が言っている。上から目線の奴をぶん殴れって。
「断る」
あれだったな。腕、使っちゃ駄目だったな。
「氷の言葉、強化の言葉、形の言葉」
手元に氷の剣が生成される。あーなんも考えたくねぇ。
「おいおい、俺をシナンサーの一員だと分からないのか?」
「知るかよ、シナモンパイとかどうでも良いわ」
「『星縮』」
「んっ!?」
手前の間抜けな声はとても良いな。薙ぎ払って槍を二つに折る。追撃の面!敵は気絶する。
地面に倒れ伏せた男を見下ろす。
「ありがとう、助けてくれて」
「ああ、気にすんな」
「ところでさ、金か飯ない?」
「えっ……」
「パン買えるだけの金でいいから、後で返すからさ」
「明日の正午、王宮前の噴水に来てね」
「ああ、分かった。お金ありがとうな」
まーじ感謝。俺は裏道を通り抜けて、飯屋に駆け込んだ。食える飯が美味かった。でもこの出来事が死ぬ程面倒くさい事になるなんて思いもしなかった。
「…………彼、巻き込んじゃった」
悲しそう、されど嬉しそうな表情。少女はその緑色の瞳で月を見ていた。それはこの先起こる事を夢見て、期待しているのだ。きっと彼はやってくれるのだと。