二十星 龍は嘆き、吼える
エルキアの一人称変えます。あたし→私に変更します。
寝た気がしない。外に出て朝食を探しに行く。ほんの少し歩いた所で香ばしいパンの匂いが漂ってくる。匂いに連れられ歩いて行く。そこには木の看板が掛けられたあまり目立たなさそうパン屋があった。ちゃんと金はほんの少し持ってきてある。
という訳でパン屋に入ってみることに。扉は鍵もされておらず、開けた瞬間外でもはっきりと分かる程だったパンの匂いがさらに強くなって鼻に来た。
「おっ、お客さんか…」
誰も居ない店内から聞こえた声は中年男性の声だった。絶対筋肉モリモリマッチョだ。俺には分かる。
「いらっしゃい、少し待っててくれ。後もう少しで焼けるんでな」
「まぁ適当に席に座っといてくれ」
店内は割りかし広く。喫茶店のような作りになっていた。なので適当な席に座り待つ事に。ほんの数分で筋肉は想像よりかは少ないがそれでもガッチリとした体格のスキンヘッド男がやってきた。
「待たせたな。注文はあるか?」
「オススメを頼む」
「あいよ」
まず最初に来たのはコーヒー。あまりコーヒーには詳しくもないし特別好きな訳でもないがミルクを入れているお陰で苦味が少なくとても飲みやすい。眠気がまだ残っていたのでありがたい所だ。
次にクロワッサン。丁寧に重ねられた生地の層は職人技を感じる。パンの甘味とバターの味が口の中に広がる。それからワッフルと来て終わった。おっさんに聞いてみて、此処は喫茶兼パン屋らしい。帰りにパンを何個か買って宿に戻った。
まだ寝てんのかこの勇者共は。俺のハイスピード脳内会議によりコイツらには睾丸起こしの刑に処す。ベットに登り振りかぶった足で睾丸を蹴る。宛らサッカーボールを蹴り飛ばす感じだな。
勇者と格闘家の絶叫が響き渡る。おおうるさい、うるさい。首を切られた鶏じゃあるまいし。宿の人に怒られるぞ(他人事)
「一崎!起こし方にもやって良い事と悪い事があるだろ!」
「知らねぇよ。いつまでもぐーたら寝てるお前らが悪いね」
「それに勇者パーティとして穢れがない純白なイメージの方が良いだろ?なんならその股間に付いてる邪魔なもん切り捨てたらどうだ?」
「幾ら何でも酷すぎる」
「はいはい、罵倒は後で聞いてやるから、ホラ、買ってきたパン食えよ」
「くっそぉー。後で覚えてろよ」
悔しそうに股間を抑えて苦しそうにしていてる勇者共はどうでも良くてだな。そろそろ新しい防具買わないとな。と言う訳でパンと財布片手にちょいと防具でも買いに行くとするか。
向かいの部屋が女子部屋なんでノックをしてからドアを開ける。エルキアだけ起きていて他は寝ている。あんな絶叫聴いて寝てられるって難聴かなんかか?
「……あんたデリカシーの欠片も無いの?」
「そうかっかするなよ。ホラ、買ってきたパンでも食いな」
俺が投げたパンをエルキアが綺麗にキャッチ。
「他の子の分もあるのよね?」
「ちゃとあるよ。そこのテーブルの上にでも置いといてくれ」
俺がエルキアにパンの入った紙袋を渡す。
「で、要件はそれだけ?」
「おう、それだけだ。それとまだ馬車が出る時間じゃないよな?」
「まだまだ時間はあるけど、何か用事?」
「ん?ああ、唯防具買いに行くだけだ」
「じゃあ私もついて行って良いかしら……?」
「別に良いけど……エルキアも防具買いたいのか?」
「なんでもいいでしょ!ほら決まったんだったら行きましょ!」
エルキアに手を引かれて宿を出た。エルキアって頭の中に地図でも入ってるのかは知らないがエルキアに連れられる儘に行くと防具屋に着いた。
the防具屋みたいな店だな。店内は防具が掛けられていたりしている。店主の女はけったるそうに会計の場所に足を乗せながら新聞でも読んでいる。
まぁそんな事はどうでも。動き易くて尚且つある程度は防御力のあるが良いよな。高望みかそれは。
「ユウはどんな装備が好きなの?」
「動き易い装備だったらなんでも良いけどなぁ」
「もう……装備でもオシャレするのが冒険者でしょ」
「初めて聞いたはそんな話」
「私の装備は動き易さとデザイン重視のナララック装備にしてるのよ」
「ナララック?」
「大型の魔物よ。初心者が初めて倒す魔物だけど防御力もそこそこあって結構人気なのよ?」
「この世界の事は分からん。それって結局は自分で倒さなきゃならないだろ?それだったら安売りされてる防具でいいよ」
「ロマンもクソも無いわね」
「壊れたらまた買えば良い、そうゆうのでいいんだよ俺は」
適当に鉄で出来た胸プレートとアーム、レギンスだけ買った。サイズ調整とかはどうやらしないらしいがまぁピッタリなんで気にすることでも無い。
そっから時間は経って勇者達が支度出来たのか宿を出て馬車に乗り込んで行く。アイツらって結構良い装備してんだな。俺が持ってる装備で一番価値があるのは魂鎮だけだろう。
全く整えられていない道はまぁ酷い。エルキアも勇者共もみんなやっぱり顔色が悪い。でももうすぐ着く筈だ。ここで全て吐き出されたら臭いとかもう最悪だ。
漸く着いた。馬車から降りた勇者共とエルキアが岩の方にゲロを吐いた。汚ねぇし品もクソもない。にしても此処は些か植物が生えていなさ過ぎる。枯れた地面は踏みしめて俺たちは洞窟へと入って行った。
魔物が居ない。聞いていた話じゃ魔素が濃くなっている事自体は知っている。でも少なからずは魔物が出てきてもの良い筈だ。そんな状況が続いた。異常な物を感じている。
目的地は洞窟の最奥にある湧水が出る場所だ。そこまで行けば魔物も居ない。安全な訳だ。だがしかし此処に魔素を持たない生物がいたとしたら、そいつが敵意を出しているのならば俺達は闘わなくてはならないのだろうか?
湧水が湧くその場所に一匹の龍が座っていた。凛と何かを待っている様な凶暴性とは真逆の理性による行動の静止。魔物であれば自分達以外の者は殺すと言った殺意が感じられる。こいつは魔物ではないと本能が告げる。龍は茶色く赤みがかった鱗だ。顔はまんまゲームとかにいるドラゴンである。
ワイバーンの様な翼ではない。ワイバーンは腕が翼であったのに対して此方は背中に生えている。竜ではない龍だ。レベルが違う。勝てる気がしない。あの都にいた肉塊よりも強い。でも…なんだ親近感が湧いてくる。何故だ、なんの繋がりもない筈なのに。
「あれは……ドラゴンか?」
「どうする勇者。敵意は無さそうだが」
「水を汲みに行こう、今回はドラゴンの討伐じゃない」
「下手に刺激しないようにな」
ビクついてキレられるのも嫌なんで此処は胸を張って進んで行く。ドラゴンが此方の動きに対して首を動かす。ただじっと観察されている。いつ襲ってきてもおかしくはない。こっちには勇者がいるんだ、主人公補正ってやつでなんとかしてくれ。
水を瓶で汲んだ。その時龍は吼えた。その咆哮は威嚇ともとれるし、怒りともとれる。でも俺が感じたのは過去に対する悲しみの様な咆哮だった。咆哮が終わったのちその厳つい口で噛みついて来ようとする。
流石に戦闘経験を積んで来たので避けられはするが、ドラゴンではお馴染みのブレスによる攻撃は避けられるか分からない。イメージ通りなら火炎ブレスだろうが属性が違う場合もあるだろう。勝てる勝てないの前に逃げるの選択肢を置いとこう。逃げてもいい。取り敢えずは依頼完遂するのが優先だ。
「おい勇者、逃げるぞ。こいつを相手にするのは無理だ」
「そうだね、流石にレベルの差があるのは明白だしね」
噛みつきを避けられた龍は翼を大きく動かす。翼で滑空し俺達が来た道を塞いだのだ。これはどうやら戦う以外の選択肢は潰されたみたいだ。状況を察した俺達は各々の武器を構える。
章の終わりごとに本編外の話とか設定とか書く