十九星 馬車は揺れる物だろ
最近椰子木二太郎一らとカラオケに行きました。私的にはまた行きたいなと言う気持ちと友達と映画行きたいなと言う気持ちが混ざり合って金が無くなる。今年の夏は友達とBBQでもするか。
王城は好きでは無い。大体王城では嫌な事しか無かった気がする。気が付けば勝手に召喚されるし、腕もがれるし、牢屋にぶち込まれるし。散々だな。
入ってすぐに階段があるので登っている。…何処もかしこも中央ら辺に玉座の間置くのなんなんですかね?俺階段上がると結構息が上がるタイプ。陰キャなんで体力ないんですよ。ゲームとアニメばかりやってたのは今にしてみては少し惜しく感じる。
もう少し剣道とか武術系やったけば良かった。人生何が起こるか分からないものだな。いやほんと誰がこんな未来を予測出来ただろうか?……ヲタクだけだろうな、痛いタイプの。俺はそういうのは二次元と現実として分けてるタイプなんで。中学の時も普通の陰キャ。懐かしいなぁ、次の日学校行ったら友達が包帯ぐるぐる巻きにして登校して来た時の衝撃は。
そんな事はどうでも良くて、今は玉座の間の扉前に居る。開けるのは少し緊張する…訳ねぇよ。大体呼び出される理由が分からん。俺達なんもしてないし、ましてや王族がわざわざ呼んで頼み事をされるような人物でもない。ほんと訳が分からん。
はいはい失礼します。扉を開くと広い空間がそこにあった。まぁその空間に勇者達が居なかったら少しはこの空間に対して感想を待てただろうに。
「よく来てくれたな冒険者達よ」
俺達は勇者達と同じ地点まで進み勇者達と同じようなに膝をつく。さて……勇者にドロップをかますことが決定したな。覚悟しろ。
「さて揃ったようだな。話をしようか」
「君たちは儂の娘について知っているか?」
そういや一人娘の誕生日祭みたいな事してたな。名前知らないけど。そもの話、俺達呼ばれる必要無かったよね?
「儂の娘、アリアはある病気にかかったのだ」
「魔乱病にかかってしまったのだ」
「魔乱病は命に関わる病気なのだが、治療薬にとても貴重な材料が必要でな」
「つまりその材料を取ってきてほしいと?」
「そうじゃ、その材料はこの国の最南端にある洞窟にある。報酬は弾む、なんとしてもその材料を取ってきて欲しい…!」
「分かりました、人助けは勇者の基本。任して下さい」
イヤイヤ、勇者!何一人で判断してやるって決めてんだよ、こちらとら何も言ってないだろ。後パーティの奴らも同調するな!
「おお…!その心意気、誠に感謝する」
そっから俺達は玉座の間を出た。取り敢えず部屋を出た勇者に対して本気のドロップキックをかました。腹に直撃。悶え苦しむ勇者を見ながら鼻で笑ってやった。
「ちょっと一崎!なんで天野君にドロップキックかますのよ!」
「当たり前だろ!この馬鹿猪勇者が勝手に俺らを呼びつけて挙句許可も無しに依頼を引き受けるしよ」
「これでも優しい方だぜ?本当は顔面カルデラにしてやりたいぐらいなんだ」
悶えていた勇者は痛みがマシになったのか少しフラつきながら立ち上がった。
「一崎、それに関してはすまなかった。だが力を貸してくれ。それが人として美徳だろ?」
「美徳だと……?笑わせるな。美徳ばかりで生きてきた訳じゃない。美徳ばかりが人じゃないだろ」
「はは…君は人を信じきれていない様に見えるな」
「でも今だけでも良い、力を貸してくれ」
なんとも図太い野郎だ勇者め。こいつドロップキックかまして来た奴に助力を求めるとか正気じゃないだろ。
観念した俺は結局勇者達と魔乱病についての説明を受けた。概要はこうだ。魔乱病は本来一定に保たれている魔素のバランスが壊れ、特定の場所に溜まってしまい徐々に身体が崩壊していく病気だそうだ。原因としては身体の機能としてある魔素を放出する仕組みが上手く作動せずなるらしい。多くは若い人がなりやすく、特に冒険者が多い。
治療薬の材料として、魔素がとても薄い水とミントらしい。ここまで聞くと割りかし簡単な素材だろうが問題が魔素がとても薄い水だ。何が問題かと言われれば理由は自然界で生成される事が稀の稀であり、有ったとしても周りに魔素が溜まっていて並の人間では入っただけで即死する程で強力な魔物も住んでいる。それ勇者に頼む事か?下手したら勇者死ぬぞ、世界終わるよ。
という訳で俺達は最南端にある洞窟を目指し、この街を後にした。移動は馬車だ。王様が手配してくれたっぽい。流石に現代の車とかに比べれば明らかに振動とかは酷い。隣のエルキアは顔色悪そうにしてるし、俺達が乗っている馬車とは違う馬車に勇者達がいるのだがあっちもあっちで全員顔面蒼白になってる。
南の洞窟までは後二日程掛かるらしく、アイツらが耐えられるか心配な所だ。それと魔物の姿は此処に来るまで一匹たりとも見ていない。理由を聞こうにも顔面蒼白のエルキアに聞くのは可哀想なのでやめておいた。
此処の国は島国の様だ。地図を貰っていたので暇つぶしがてら見てみると分かった。次に訪れる国を決めておこうと吟味する。まぁ碌な情報も無いのでなんとなくで決めようと思う。北に進めばナハカラムと言う国に、南に進めばラナモナ、西に進めばタサカクア、東に進めばワタヤ、近さで言えばナハカラムだろうが何処で出発するのか分からない以上なんとも言えない。
そんな今はどうでもいい事を悩んでいたら休憩地点であろう街に着いた。王城があった街に比べて田んぼやらがチラホラ見られるがそれでもまだまだ都会の部類だろう。石レンガで造られた道路などは中世時代を想起させる。さて今回はオレンジの宿と言う宿に泊まる事になった。前に泊まった海鳥亭と違って飯屋が無い。その為適当な店で食事を取ることに。
なんだか現代に戻った様な気分で食事をした。高校のあの騒がしくも楽しげな空間を俺は感じた。別に戻りたいだなんて思っても無いし、楽しかった訳でもない。でもやっぱり少しは何か思っているのだろう。
食事を終えて宿に戻ると女子と男子で部屋が別れた。俺はさっさと風呂に入って就寝する事にしたが勇者どもがまぁ無邪気に談笑している。
「おい一崎、お前エルキアさんの事どう思ってんだよ」
ガキかテメェ。そう思った相手は佐藤哲三、格闘家だったけな?
「エルキア?あいつは唯の知り合いか友達ぐらいの関係だ」
「そんな事言って、本当は好きなんじゃねぇのかよ」
「んな訳ねぇよ」
聞くこと中坊かよ。アイツは唯の仲間だし、そう言った感情は小学生の頃には無くなっていた。
「早く寝ろよ、明日もあの馬車だぞ」
「ああ…日本に戻りたい」
「戻れる確証とかあるのかよ」
「王様がお前がどっかに飛ばされた後に教えてくれたよ」
何してるんだよあの王様。そう言うのは早く言えよ。まぁでも王様が言ってるだけだからな。召喚ってどうやってやってんだろな。召喚の逆バージョンみたいな感じで送り返されるんだったらまだハッピーな終わり方だが帰られない場合も可能性的にはあるんだよな。
部屋を明るくしていたランプを消してベットで眠る。日本製の眠り易さを再認識しながら沈みゆく意識は身体を癒してくれる。また明日、魔物との戦闘があるかもしれない。そんな時の為にできるだけ万全で居たい。勇者御一行がこの調子のままだったらまともに戦えるのは俺だけになってしまうからな。
もっとレベルを上げて、不安を取り除きたい。少しでも長く生きていたい。その欲求は自然な事なんだ、だから相手を殺して自分を強くする。善とは、悪とはなんなんだろうな。バラバラな事を考えて、気がつけば朝になっていた。