十八星 全部右腕の所為なんだ
「見た目違くない?」
「色々あったんだよ、色々と」
「その色々が気になるんだけど」
「端的に言えばダンジョンに飛ばされて魔物と戦いながら脱出を目指して彷徨い、エルフの都奪還するため全力で戦って、奪還して、都で捕まって、現在」
「待てなんで捕まったんだ?」
「この右腕の所為」
「その見た目になったのは?」
「右腕の所為」
「?」
そらその反応になるよな。俺だってよく分からないし。でも嘘は言ってない。俺悪くない。全部右腕の所為。
「……分かった。でなんで獣人の子供と居たんだ?あの叫び声は事件性のある声だったが」
「それに関してだが、この子が攫われそうになっていたからな」
「本当か?」
「疑うなって。この子に聞けばわかる事だろ?」
「それもそうだが…」
コイツまだ疑ってんのかよ。俺が誘拐しそうか?………しそうだな。見た目が完全に不審者だし。こりゃ疑われるのも分からんでも無い。
「そんじゃこの子の事は頼んだぞ勇者様御一家」
「待って!」
そう叫んだのは獣人の子だった。いやなんで?俺より適任じゃん。正直な話エルキア待たせてるから早く戻りたいんだが。でも呼び止められたしなぁ…。
「ごめんな、待たせてる人いるからお兄さんはちょっと居られないかな」
「駄目なの!」
すんげぇ我が儘。俺にどうしろと。俺の足を掴んで離さない獣人の子に俺は思考を巡らせる。
「俺からも頼む。それにクラスメイトとまた再会出来たんだし、お前もチームに入ってくれないか?」
「あのな、俺には待たせてる人が居るんだ。チームに入る云々はそいつと一回合流させてくれ」
「分かった」
「また後でな」
そう言って俺は勇者達と別れエルキアの元へ向かった。途中で何処で合流するのかを聞き忘れたことに気づきどうしたものかと考えたが、取り敢えずエルキアのとこに行く事を優先した。
エルキアを探して海鳥亭まで来た。もしかしたら先に宿の中にいるのではと思い宿に入って見ると、丁度受付しているエルキアが居た。
「2階の203号室だよ。ゆっくり今夜は休みな」
受付のおばちゃんから鍵を受け取ったエルキアは後ろを振り向く。
「エルキアすまん遅れた」
「……面倒事は起こして無いみたいね」
「それなんだが……」
「待って話は部屋で聞くから」
「分かった」
そう言って俺たちは階段を上り部屋へと向かった。どうやら部屋は一つしか取っていないらしい。部屋が一つしか無かったのだろうか?まぁ気にしないしいっか。
「それで、話って?」
「実は…」
それから俺はエルキアに先程の出来事を伝えた。誘拐された獣人の子を助けた事、それで勇者達に誘拐だと勘違いされた事、勇者達は俺と同郷だという事、チームに加われと言われた事。
「あんた、異世界から来たのね」
「流石に現代の知識は俺には無いから何も出来ないがな」
「あんた見るからにそういう事に興味無さそうだしね」
「うるせぇ」
「それであんたは勇者達に着いていきたいの?」
「……本音で言えば嫌かな」
「俺は旅をしてみたい。そんでこの右腕について知りたい」
「ならあたしは着いていくわ」
「なんでさ?」
「なんでもいいでしょ別に。それにあたしはあんたの監視を命じられているの!」
「だから着いていく、それでいいでしょ」
「ああそれでいい。エルキアがいると心強いよ」
牢屋の中で考えていたんだ。この右腕について。それを知るために俺は旅がしたい。色んな国を巡ってそこでこの右腕について調べる。別に右腕を外したい訳ではない。唯気になるだけだ。好奇心だ。
それから俺達は下の食堂で飯を食いに行った。時間帯も丁度いい頃合いなんでね。食堂は結構の混み具合だが満席と言う訳でない。仕事終わりのおっさんたちがビール片手にはしゃぎ回ってる姿を見てダル絡みされたくないなと感じた。
此処の名物は蟹の唐揚げらしい。殻ごと油で上げるなんとも口が痛そうな食べ物だが聞いた話じゃとてもサクサクしていて食べやすいとのこと。気になったので食べる事に。魚は苦手だが甲殻類はイケる。でもやっぱ生は無理。焼きか茹でが望ましい。他にも色々頼んだのだが大体居酒屋にあるような物ばっかりだったので割愛。
蟹の唐揚げは普通に美味かった。さっくりとした食感はなんとも心地良いし、蟹の身はぎっしりと詰まっていて酒に合いそうだなと酒を飲んだ事が無い癖に感じてしまった。
「そういえば何歳なのよ?」
「17」
「意外ね、もう少し幼いと思っていたけど成人してるじゃない」
「ここの世界じゃ成人年齢何歳なんだよ?」
「15よ」
「じゃあ俺は大の大人だな」
「それはない」
「俺が子供っぽいだと?」
「そらそうでしょ。気になったら人を置いてどっか行くし、面倒事を持ってくるわで子供以外の何があんなよ」
「誠に申し訳ありませんでした」
「素直で宜しい」
それからエルキアと雑談しながら食事をした。何かと味付けがしっかりしている物もあれば薄味の物もあったりと幅広い料理のレパートリーがあって飽きは来なさそうな店だった。
料理も粗方食べ終わった頃、また次の客が来たようだ。丁度俺たちの隣が空いているのでそこへ通された。隣はどうも市街地にしては余りにも無用とも思える程に着込んだ装備、周りに比べて背が低く黒髪で黒目。嘘だろ偶然。なんで勇者達が此処に来てんだよ。
「……あれ?一崎じゃん」
はいバレました。ああなんか面倒くさい予感しかしないよもう。特に子供関連とチームの件でよぉ。
「目の前にいる人がお前が待たせていた人か?」
「そうだ」
「初めまして勇者様達。わたしの名前はエルキアです」
「初めまして僕の名前は天野照之です」
さっと出された手をエルキアは握り返す。
「それでチームに関してなんだが…」
勇者が俺に向かって喋り始める。俺は勇者の話を遮って答える。
「その事なんだが、俺はお前達に着いていかない事にした」
「それは…なんでだい?」
「俺はこの右腕に関して調べてみたい。ただの好奇心だ」
「そうか…。なら何も言えないな」
「分かってくれ、また何処かで会ったらその時までにこの腕について分かったらチームに入るよ」
「ああ…待ってるよ」
俺達は席を立ち、会計をして部屋に戻った。お会計はなんと508キルト。日本円でどんだけなのか分からない。なんかそう感じると本当大金手に入ったんだな。そんな感じで一日が終わった。なんとも濃い時間だった気がする。ベットに横たわっている時間だけが安堵出来る。
それから翌日。俺は何故だか知らないがこの国の王様に呼ばれた。名前は確か…アルモンテ王だったけな。まぁお偉いさんに呼ばれた訳で俺達は城へと向かった。
王城は小さな島の上に立っている。その為か開閉式の橋が掛けられている。王城は都の城に比べてほんの少しだけ大きい。ただの勘違いかもしれないが。
王城に入ると俺達は中に通された。通る際には今朝届いたばかりの手紙を見せるとすんなりと中に入れてくれた。シャンデリアによって照らされる中はしつこいと感じる程煌びやかだ。
呼ばれた件はなんなんだろうか、もし勇者関連だったら勇者に向かってドロップキックかましてやる。それと金をそのまま持っておくのも忍びがないので銀行に預けようと思う。さっさと用事を済ませたい所だ。
獣人の子はしっかりと送り届けられました。何やってんだ一崎。お前が始めた物語だろ。