十五星 神とは如何に
設定を考えて、プロットを考えて、物語を書く。そして気づけば考えていたプロットも設定もぶち壊して矛盾ばかりを生んでしまう。嫌気がさすね。
感じていた快楽は無くなり、自身が変わってしまった事に対しての違和感がただそこに有るだけになってしまった。やはりだ。この世界に来てから俺は少しずつよく分からないものになってきている。
受け止め難い真実は俺を苦しめるだけ。いっそのこと受け止めてしまえばそれだけの事だと納得する事も出来る。でもそんな事俺の短小なプライドが駄目だと叫んでいる。俺は俺のままでいたいと願ってしまう。
放心から我に返り城を後にする。魔物の姿は見えない。何となく察せられる。多分殲滅に成功したんだと思う。そんなに長く居ただろうか。俺が城にいた時間は大体一時間ぐらいしか経ってないのによく殲滅したな。
少し歩くと人混みが見えた。きっと今から城に入って加勢しに行こうとしていたのかな?まぁもう終わった事だが。そう言うば今上半身半裸だな。応急処置の為とはいえ恥ずかしいものだな。
今は走れないせいで歩く事しか出来ない。でもゆっくりと近づいていく。誰かが気づいてくれたらしい。何か話しているらしいがよく聞こえない。何だろうか。もう少し近づいて行こう。
俺がゆっくりと近づくと何か焦り出した。嫌な予感がする。そう感じていても歩みを止める事は出来ず近づいてしまう。ああ…そんな目で見ないでくれ。まるで化け物を見ている様な嫌そうで殺意が込められた目を向けないでくれ。
「止まれェ!貴様!」
「紫がかった髪色、その禍々しい腕、その目、貴様は怪物を蘇らせる気か!」
何の話だ?俺はただ…成り行きでこんな腕になっただけなんだ。…紫がかった髪色?俺の髪色は黒だ。純日本人がそんな紫色かがった髪色なんて…。
「捕えよ!この者を捕えよ!」
武器を持った男達が俺を捕える。腕を拘束され俺は連行されていってしまった。何でこんな俺はただこの都を取り戻したいが為に…。ギリギリで勝ったのに…。なんでさ…。
連行されてしまった俺は城の外にある牢屋にぶち込まれた。はっ、まるで囚人みたいだな。日に一回飯が配給されるがパン一個と水だけ。牢屋にはたった一つの鉄格子で塞がれた窓だけの簡素な部屋。寝床なんか地べただけ。
外では何やら活気のある声が聞こえて来る。とても楽しそうで嬉しそうな声だ。そしてパレードだろうか?とても騒がしいな。そんな外が羨ましい。
配給の時だけしか来ない看守に話しかけてみてもうんともすんとも言わない。俺はこのまま牢屋の中なのか…。ま、暇だしこの腕が出来る事でも探るか。
一日、二日…ぐらいこの腕で暇つぶししてみるとまぁなんとも凄い力があった。この腕、言葉無しで魔法使えるしなんなら属性は全部使えるみたいだ。凄くチート。でも身体強化とかは使えない。ただの属性が全部使えるだけ。
これで脱獄も出来るか考えたがなんか外に出たら殺されそうな気がしてならないんだよな。だってあんな目されてみろよ今度こそ殺されそうな気がする。なら俺の処遇が決まるまでちょっとばかし待つか。
ーーーーーーーーーーー
この世界に来てから二週間程経った。一崎君の死は未だ忘れられない。いや死んだと断言してはいけないわね。彼とは余り関わった事はないけれど覚えている限り彼はいつも悲しげな目をしていた。
悲しそうな人ぐらいしか私の印象はそれだけだった。でも人が目の前で消えてしまったあの日から決意を持たせてくれた彼を私は忘れない。
私達は人間族が住んでいる大陸、リーリント大陸で旅をしている。数少ない魔王軍によって潰されていない国を巡りながらその国々で魔王軍と戦っている。結局の所班で旅をしているのだがクラスの大半は旅に出ず国に居る。気持ちは分かるし批判しない。
でもみんな最初は好き勝手やっていたわね。勝手に買い物するし夜間に遊びに行くし困っている人は放っておけずに助けに行くし。ほんと色々あったわね。これで二周間てなかなか濃い旅してるわよほんと。
まぁそんな感じで今は大陸一の海軍を誇り、エルフの大陸に近い国、アルモンテと言う国に滞在している。どうやら彼方の都が魔王軍によって占拠されている様だから援軍として派遣されるみたい。
でも大陸行きの船は此処最近は無くて少しばかり待たなくちゃ駄目なせいで今はちょっとばかしの休みを堪能している。この国の料理は私好みでついつい食べ過ぎちゃうのよね。この世界に体重計があったら乗りたくないわね。
この世界はなんとも言えない異質さが感じられる。特段みんな変とかそういった訳では無いのだけれど物語…英雄譚とかが一番顕著ね。今まで読んできた全部の物語で神に対して何かしらの形で言及しているのよ。
まるで神について考えろと言わんばかりに彼方此方で神が出て来る。しかし神の名前は登場せず、本来神が祀られている神殿を巡っても同じ姿をしていない。
曖昧的すぎる。何故これ程までに神があやふやなのか。姿が違う事に関してはアッラーと言う前例がある。その点に関しては納得が出来るのだが地域によって神は違ってくる筈だ。
私がこの旅でずっと考えていた事。この何故をいつか解く為に旅を続ける理由にもなると私は思うの。夜には星が出ない。寂しい夜。二つの月だけが照らしているだけ。きっとこの夜空についての物語もあるわよね。
ーーーーーーーーーーー
「陛下!あの者は危険です!早急に死刑に処すべきです」
「だが下手に刺激してみろ!伝承の様に都は滅ぼされてしまうのでは…」
「何を言う!伝承よりも早い段階で捕まえられたのだ早く対処…」
響き渡る討論の声。長いテーブルの端の真ん中に座る男は眉を顰めた。男は何故あの少年が…ユウがあの右腕に取り憑かれたのかわからなかった。何も話さずただじっと牢にいるユウを知って何か訳があるのだろうと思う。
ユウは知らないかったのだろう。あれは男が生まれてくる遥か前のそれこそ何十代と時代を超えた時代から管理されてきた誰も触れぬ様管理してきたのだ。
いや伝承を知っている者はそれを見ただけだ逃げ帰る様な代物だ。誰も死にたくは無い筈だ。それを喜んで着ける様な大馬鹿野郎はこの大陸には居ない筈だ。
そう思っていたのだが…。ユウには気の毒だがもうすぐ死ぬのだろう。ああ嘆かわしい…一人の力ある若者が忌物によって散っていくのを助けることも出来ない自分が嘆かわしい。
もうかれこれ三日は経っている。ユウが力の使い方を覚えてしまってはもうこの都は終わりだ。早急に結論を出さねば。
「そのことなんですが…、人間族の方に送り返すと言うのはどうでしょうか?」
「何故、それを提案する?」
「彼方の国には勇者が居ます。もし伝承通りになってしまっても彼らがなんとかしてくれましょう」
「それは些か無責任過ぎるのだが?」
「いえ、これはまだ復興途中の我々には手が余るものですから復興するまでの間預かるだけですので大丈夫で御座います」
「彼方の方で起こった事は彼方の責任でしょう?」
「わかった。その案を可決しよう」
せめてユウが生まれた土地に、母国でその人生を終わらせてあげよう。無力な私からの最後の細やかな優しさだ。どうかユウ私を恨んでくれ。この無力な私を…。