十四星 魔との融合
私は邪ンヌを当てたぞ…ようやく。
なんとか逃げ切れた様だ。もぎ取られた腕を俺の服で取り敢えずの応急処置をする。…助けは来なさそうだな。なんとも惨めだな俺。自ら戦っておいて力があるから逃げる選択肢を消していたなんてな…。未熟な俺を嗤えよ、クソ。
今は二階の端の誰かの部屋に立て籠って居る。机に誰かの手記だろうか何か置いてある。今はどうでもいいか。それより今廊下から何か物音が聴こえた気がする。何だ?………気のせいか。
そう警戒を解くと窓が勢いよく割れた。腕を伸ばし手のひらに目をつけて捜索していたか。これは少しばかり逃げるしか無いな。
俺は扉を体当たりで開け飛び出した。後ろから手が迫って来るが今は後ろを振り向く余裕は無い。どうやら先程の戦闘の時の様に肉塊を飛ばしては来ないらしい。だがいつまでも追って来るのがキツい。消耗した体力は直ぐには戻らない。このままでは俺は死んでしまう。隙を見て拘束出来れば良いんだが。
廊下を曲がり此方をまだ追っている手を角を曲がろうとした途端星制で一時的に拘束し逃げる。無理にこの手を潰した所でまた来るだけだ。なら逃げ優先であった方がMPも節約出来ていいだろう。にして此処は広いな今何処にいるかわからなくなってきた。
また何処かの部屋に入るとそこは保管室の様な場所だった。綺麗に並べられた宝物だろうか宝石やら何やらがこの部屋にはガラスケースの中に入っていた。今は余り意味のない物ばかりだ。その中に奇妙な右腕だろうか?取り敢えず腕が保管されていた。
明らかにこの部屋に似つかわしくない筈なのにこの部屋に保管されている。禍々しい見た目だ。紫色をしていて鱗の様な物がありその鱗は先端にいくにつれて黒くなっている。鱗は腕全体にびっしりと付いていて指先は人の指の様にまるくなっている。
何だろうか…興味はない筈なのに惹かれてしまう。何かが俺に呼びかけている様なそんな気がしてしまう。俺が近づく度腕は揺れ呼応する様にまた近づいていく。
自然と開かれたガラスケースの先にある腕に向かって失った右腕で差し伸べる。差し伸べた瞬間俺に右腕が引っ付いた。右腕は俺の右腕になったのか無理矢理結合されていく感覚と消えた筈の右腕を動かす感覚が戻っていく。だが痛い!見るに俺が応急処置として服で包んでいたのにその服は何処かへ消えていて、肩には紫色をした筋の様な物が脈の様に結合していた。
痛みは消えず、頭痛と吐き気さえ感じる。耐えられない…気絶して…しまう。クソ…こんな時に…!
……ようやく目を覚ませたか。呑気に寝ていたものだな。何も無くて良かったな。倒れ込んだ体を起こすとなんとも不思議な感覚になっていた。こう目が冴えている訳でも無いんだが感覚が冴えている?と言うべきなんだろう。痛みは右腕だけ無くなっていてその代わり肩が痛い。
にしても右腕が生えて来た様な感じだ。脈は無いし体温も感じないのに触覚だけが感じられる。生物の腕じゃ無い。無機物な冷たさなのに俺の右腕として感覚がある。
異世界とは不思議な物だな。俺がふらつきながら移動しようとすると俺から見て左側の壁が破られた。また追手か面倒くさい。今度はしっかりと俺を捕まえる気なのだろう直ぐに俺に手を伸ばしてきた。
今はなんだろうか奴の動きが少しゆっくりに見えた。俺は避ける訳でも無くただ捕まえてしまった。俺の右腕で反射的に握り締めてしまっていた。奴は驚いた様に腕をびくつかせる。このままどうしたら良いのだろうかと考える。
考えていると俺は強く握っていたのだろう、ミシミシと奴の腕が鳴らしていた。何だ…何かそこに有る。こう…核の様な紐状の何かが中心を通って有る。俺は気がついたら見えないその紐を握っていてついうっかり潰してしまった。…意外と脆かった様だ。
その紐が砕けると奴の腕は黒い塵となり消えてしまった。…これは勝てるのでは?だってこんなにもあっさりと追手を倒せるしMPも消費されてない。最強じゃないか。いいねぇ…いいじゃんか!
よくも今まで高みの見物しやがって。今からそっち行ってやる。楽しみにしてろよ…レベル差などもう意味がないと言う事を。
そこから俺は部屋を出た。安心したのだろうホラーゲームで倒せないと思っていた敵を殺せる武器を手に入れた時の様に。ふらふらとあの時の、ダンジョンの時みたな足取りでただ向かう。何処から追手が来ようが見てから掴んで潰すまで欠伸が出てしまうぐらい余裕だ。
「あっはははははははは!!」
あっははははは!!笑いすら込み上げて来るよ。楽しいなぁ…こんなにも満たされていくような気持ちは久しぶりだァ。どれだけ来ようが、同時であろうがそんなの関係無く只々潰されて消えていく。
立場逆転だな。ジリジリと近づいてくる恐怖を味わい、後悔しろ。その恐怖が今の俺の幸福だ。いいだろ、恐怖って?今は何処にいるかもわからないがそんな事はどうでも良いさ、また追手が来たらそいつにわざと捕まってやっていけば良いんだしな。そんな事も忘れてたわ。
……来ないな。前の時に捕まったけば良かったな。少し後悔。階段があるなどうしようかな…上るか。コツコツと足音が響く。上り切ったら今度は左右を確認する。左に人型の肉塊が徘徊してる。先程の追手とは違い俺を追い回す気は無い。つまりだ奴は守りの態勢に入ったな。…でも意味は無いな。壊されて終わりなのにさぁ。馬鹿だなぁアイツ。
俺に背後を向けている人型に気付かれないようにそっと近づきある地点で振り向いた瞬間首を掴む。ハローそしてグッバイ。ジタバタと暴れながら首を掴んでいる右腕を掴んで踠いている。俺はそのまま核を壊し塵へと還す。
さっきの奴の核は追手に比べて核が大きく丸型だったな。本体はもっとデカいのかな?楽しみだなぁ…。
随分と近づいてきたな。目の前にある豪華な装飾をされた扉を眺めながら顔がニヤけてしまう。浮き足立つ俺は意気揚々と扉を開けた。
目の前には随分とスリムになった肉塊が居り、その目には怯えの目しかなく小刻みに震えている。いいねぇその表情。恩返しに来たぜ。
「おいおいどうしたァ?お前の望み通り来てやったぞ?」
「くるなぁ、くるなぁ!このばけものがぁ!」
「なんだよ、中々酷いなァ」
「折角の恩返ししに来てやったのにさぁ…」
ジリジリと近づいていく。スリムになったお陰で動きが素早くなってるじゃん。良いダイエットだろ?まぁもう直ぐ死ぬけどな!良かったな。
「ひぃいいいい、ゆるしてくれぇ…!」
「何を許せって言うのさ、さあさあ再会のハグでもしようぜ!」
「くるなぁああああああ!!」
お前さ恐怖で忘れているかも知れないけど俺星縮があるんだぜ?いつでもお前との距離なんざ一瞬で詰められるんだよ。でもそんな詰まらない事はしないさ。
もっと楽しもうぜ!
「あっはははははははは!!」
「なんなんだよもうぅ、まおうさまにいわれたとおりにしたのにぃ!」
「もうこんなのあんまりだよぉ!」
「情けねぇなぁ?もうちょっと笑えよ」
「…….飽きたな。もう良いや」
「いやだぁああああしにたくない!しにたくない!」
「もうその舌足らずな口は飽きた」
「『星縮』」
一瞬で詰められ肉体に触られた奴はなんとも自分を見ているみたいで気分が悪くなってきた。さっさと殺してしまおう。奴の核は人型と比べてやっぱりデカさが違うな。とても綺麗な丸型だ。そんな綺麗な核を握り潰すと奴は叫び声を上げながら塵になった。
奴が塵になるとその塵の中から光が出てきた。何だ?星殴のオーラと似てるような….?その光は俺の身体に吸い込まれる様に消えていった。頭痛がする。俺が感じていた全能感にも似た快楽は消えていった。でも感覚は鋭くなったままだ。そして俺は元に戻った。
要はオク◯ンの興奮剤みたいに視野角が広がって周りがスローに見えるし全能感さえ感じるなんかヤベェ物。