090.一千年★
帝国の端の山奥深くに、その古龍は住んでいた。
龍の素材目当ての人間が増えたことで人と関わるのを厭い、人が来ないところに移り宝を溜め込んでいるという噂だった。
そんな古龍は、人の言葉を解した。
古い歴史を研究していた青年は、酔狂にも古龍に話を聞きたいと、山奥までやってきた。
「ワシはな、この山で産まれて一千年になるんじゃ。
今じゃワシしか龍種はおらぬし、龍は珍しい素材がとれ、宝玉を溜め込んでいる存在としてしか見られぬ。
寂しいことじゃ。
昔は良かった。
同胞も大勢いて、我らの素材目当ての煩わしい人間が押し寄せてくることもなく。
若い頃は人間の浅ましいところなど知らなかったからの。
気まぐれにこの国の建国にも力を貸してやったものだ。
あれはワシがちょうど100歳の時だったな……」
「あの古龍殿、黄昏ていらっしゃるところ大変恐縮なのですが、この国は建国して899年です。
100歳の時に建国にご協力ということは、古龍殿はまだ999歳かと思うのですが」
「…………」
「…………」
「歳はとりたくないもんじゃのう……」
ぴゅうっと冷たい風がその場に吹いた。
「来年には一千年なら、誤差ということでよろしいかと!」
「いや、そもそもお主が突っ込んだんじゃろうて」