私は悪くない
騎士。それは王族が抱える貴族達で構成された兵士たちの、名誉ある呼び名。だからこそ、占術師とはあまり関係がない。そう思っていたのだが、どうやらこの学園では違うらしい。
キョトンとした顔で私を見た二人は、なぜだか顔を見合わせて、なぜだか同時に溜息を吐いた。
そして、諦めたような表情で、メイリンが説明を始めてくれた。
「騎士ってのは、学園生の中で全く戦えない生徒がパートナーとして選ぶ、戦える生徒のことヨ」
「……どうして戦う必要が?」
そこが本当に分からないのだけど。
「先生も……戦えない者には護衛が必要と」
「そういう意味では言ってないと思うわ」
ウル君の言葉を遮るみたいになってしまったけど、仕方ない気がする。
だって、そのくらいには意味が分からない。護衛ってそんなに必要なものなのだろうか。
「セリーヌは知らないみたいだケド、騎士と主の関係はこの学園じゃ普通ヨ」
「……生活のほとんどの間、ほぼ四六時中一緒に居ることを許された関係」
「……それがどうして、私に?」
それが本当に必要なのかすらも分からないのだけど、この二人は一体私にどうしろというのだろうか。
「パートナーは必要」
「ダンスの授業とか、祝賀パーティとか、必要な場面色々あるヨ」
そういえば、一学期の中旬から、教養の授業でダンスが始まるとは先生が言っていた。しかし、たったそれだけのパートナーとして、騎士が必要とは思えないのだけど。
「……だからこそ騎士は男が基本だ」
「知ってるヨ! なにも問題無いネ!」
「……女が?」
「ふっふーん。むしろ、女の子であるボクのほうがセリーヌのコト四六時中守れるもんネ!」
「……影という選択肢もある」
「影だとパーティみたいな公式の場所じゃセリーヌを守れないジャン! ヤダヨ!」
二人が険悪に睨み合ったりしているが、それに挟まれた私は、本当にどうしたらいいか分からなかった。一体、どうしてこうなったのだろう。
「……あの、そもそもどうして私と?」
「セリーヌ、この学年で抜きん出てカワイイネ!」
「妙な輩に狙われない訳が無い」
「ウル君もメイリンも何言ってるの……?」
どうしてそんなことになったの?
「セリーヌは戦えないだろ?」
「……でも、そうなったら二人は誰が守るの?」
というか、私を守る必要自体を感じないのだけど。
「誰かを守れるくらいに強くなければ騎士になぞ立候補せん」
「ボクだって、セリーヌと自分の身くらいなら守れるヨ」
二人とも目がとても真剣だったから、それを本気で言っているということは理解出来た。出来たけど、意味は分からない。
どうしてそうなるのだろう。
「……そもそも、その騎士っていう制度はなんなの?」
その部分すらよく分からないのに、それが自分に必要だ、なんてまったく思えないし、なにより二人の時間を自分が奪ってしまうことに抵抗を感じる。
だからこそ、ちゃんとした説明が欲しかった。
「……ンー、どのくらい前かは調べてないから分かんないんだケド、先生が生徒を守り切れなかった時があったらしくテ、そこから代々パートナーやチームを組むようになったぽいヨ」
メイリンの説明は、確かにそれなりにちゃんとしていた。そういう背景があって、騎士とかそんな役割が生まれたのなら、納得は出来る。
だけど、やっぱり疑問は湧いた。
「……占術師が占術師を守るの?」
「本来なら、武芸科の生徒と組むのが通常ヨ。でもここは特別クラスだから、その辺はゆるゆるネ」
「元々、生徒を一人きりにしないためのものだ」
どうやら、学園側が生徒たちを護りやすくするために考えられたもの、という見解で良さそうだ。
「じゃあ、別にわたしにはいらないんじゃ……」
「セリーヌ、ダメだヨ。危機管理能力が足りて無さすぎるヨ」
なぜだかメイリンに怒られてしまった。それでも、なんとか食い下がる。
「……でも、二人が争うくらいならわたし、そんなの要らない」
「なーにそれ、『ワタシのタメに争わないでー!』っていう自慢?」
「感じ悪ぅい。なんかの物語のヒロイン?」
突然背後から、クスクス、と悪意の篭った嘲笑と共に、そんな言葉が投げかけられた。久しぶりの感覚になんだか少し懐かしい感じがする。
振り向くと、二人の女の子がこちらを見てバカにしたように笑っていた。
豊かな金髪をポニーテールにした緑色した瞳の、吊り目の女の子と、八重歯が特徴的な、丸くて大きな青い目をした茶髪の女の子。
前の時は、どうだっただろう。覚えていないから、きっと関わったことなんて無かったんだろう。
「……ホラ見てセリーヌ、こういうのが湧くんだヨ」
鬱陶しそうな顔でメイリンが呟く。そんな彼女には悪いけど、正直なところ、なんていうか、うん。
「わたしも、それ思ってた……」
「なんで思っちゃうのヨ、セリーヌ」
なんとも言えないしょんぼりした顔をされてしまったけど、仕方ないと思う。
「だって、相当酔ってないとあんな言葉出ないわ」
実を言うと、ちょっと恥ずかしかった。
どうしてもそう言う流れだったから頑張ったけど、酔っ払わずにあのセリフが言える人って居るんだろうか。
「あれ、セリーヌちゃん意外とアチシ達と話合いそう」
「たしかに」
キョトンとした顔でこちらを見る二人は、なんだかとても可愛らしく見える。
「ごめんなさい、わたしも今の、本当に感じ悪かったと思うわ」
自分でも相当鬱陶しい人間になってしまっていたと思う。だからこそ、本心からの謝罪をする。
そうしたら、彼女たちは互いに顔を合わせてから、肩を竦ませた。
「んーん、分かってるならいーや。アチシらも鬼じゃねーもん。ね、キャサリン」
「マチルダも甘いわね。すぐ許しちゃうんだから」
ぷひー、なんて不思議なため息を吐いた茶髪の子、マチルダに対して、吊り目の女の子、キャサリンは続けるみたいにため息を吐いた。
「ま、いいわ。実際に取り合われてる本人が迷惑してるみたいだったし、面白いもの見られたと思っとくわ」
「ありがとうございます」
なんだかよく分からないけど納得してくれたキャサリンにお礼を言う。ふと、そのキャサリンにじっと見つめられた。
「それで?」
「……はい?」
意味が分からなくて聞き返すと、キャサリンはニヤリとからかうみたいに笑って口を開いた。
「結局どっちを騎士にするの?」
……えっと。
「……自分で戦えるようになりたいから、辞退したいわ」
キッパリと答えたら、メイリンもウル君も目を見開いて驚いていたけれど、私には関係なかった。
「アハハハハ! 振られたわね二人とも」
「きゃははははは!」
明るく笑い飛ばす二人の女の子に、メイリンとウル君はというと、それぞれが困ったような顔で落ち込んだ。
「…………セリーヌぅ〜、ひどいヨ〜」
「……本人の希望なら仕方ない」
……私は悪くないと思うのだけど、なんだか悪い気がしてしまうのが不思議だった。
ここからはストックが無いため不定期更新となります。
書けたら載せていくスタンスなので、全然更新されない場合は他の作品を頑張ってるんだなと思っていただければ幸いです。
まったり参ります。




