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死に戻りの花乙女は宣託を唄う  作者: 藤 都斗
入学編

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23/25

始まったのだった

 


「よーし、みんな席についてるな?」


 教室中に通るハキハキとした声が聞こえて、ふと前方、教室の中央を見た。この半円の教室に備え付けられたテーブルはそれぞれが横一列に繋がっていて、緩く曲がっている。その人の立っている場所はどの席よりも低かったけど、どの席からもよく見えるはずだ。きっと、特別なクラスだからこそ、なにか特別な設計してあるんだろう。

 だからこそ、視界の先に見覚えのある青髪の男性が居て、少し驚いた。あの人はたしか、あの時に私を介抱してくれた人、だった気がする。


「俺が今季の特別クラス担任、アルベルトだ。在校生からはアル先生と呼ばれてる。お前たちも気軽にそう呼んでくれ。得意なことは気功と体術。剣術もある程度。歌とダンスはまあまあってところかな。なんか質問があれば聞いていいぞー」


 言動はとても偉そうなのに、嫌味がない。多分この先生はどこかの国の貴族なんだろう。そのくらいには品がある。というか、雰囲気があった。


「はーい! せんせーは、剣術で剣舞が教えられるってことですか?」

「いい質問だな。剣術と剣舞は別物だから、俺が教えられるのは実戦での戦闘が主になる」


 少し意地が悪い質問だったが、先生は特に気にした様子もなく、さらりと答えを口にした。


「占術師は戦えない者が多いだろ? 護身術すら身に付けられない者も居る。そういう者を警護する為に俺が居るんだよ」

「えええ、占術師ってそんなに危険なんですか?」

「そりゃあそうだ。どっかの金持ちにさらわれて、一生そいつ専属の占術師にされることだってある」

「うへぇ」

「そうならねェ為にも、警護する者が必要なんだ。つっても、それには限度がある」


 先生の言葉はなんだかとても実感がこもっていた。もしかしたら過去にそんな生徒が居たのかもしれない。


「だからこそ、護身術を身に付けられるなら、少しでいいからやっておけよ。人体の急所を覚えておくだけでもいい」


 先生はそう言って、改めて教室を見渡した。


「ほかになんかあるかー?」

「はい! きこーってなんですか!?」


 ビシっと手を挙げたのは、さっき先生に意地の悪い質問をした男の子とは違う、金色の髪をした底抜けに明るい男子生徒だった。


「おー、気功な。体術の強化やなんやかんやに使われる技術のことだ。これに関しては授業でもっとちゃんとやるから安心しろー」


 ものすごくおおざっぱな答えに、質問した生徒が不満そうな顔をしている。だけど、今後の授業でやるのなら、今答えても意味がないのかもしれない。

 ふと、先生が紙の束をどこからか出した。


「で、今から紙を配る。自分の分を取ったら隣に渡していけよー。これには今後の方針と、授業の時間割があるからちゃんと確認しておくようになー」


 そう言った先生が教室の中央を通したみたいな通路を歩いて、テーブルに紙の束を置いていった。みんな思い思いの場所にばらばらで座っていたから、慌てて立ち上がって紙を取りに行く生徒も居たけれど、なんとかみんなに行き渡ったようだった。


「じゃ、他に質問は?」

「はーい!」

「よし、じゃあそこの席のお前」

「先生がこの授業のやつ全部やるんですか?」

「いや、俺が出来るのは基本知識と体術。本格的な占術の授業になったら専門の先生が来る」


 話をよく聞けば、教養やダンス、歴史や世界情勢などの基本はアルベルト先生が教えてくれるが、それ以上を知りたかったら専門の授業カリキュラムを組んで、学べばいい、とのこと。

 高学年になるほどそれが必要になるらしいので、低学年である今の内に自分の得意、不得意を見付けながら学んでいくのが正解なのかもしれない。


「最後に、このクラスのメンバーは、低学年の間は特に増えたり減ったりが激しい。それは才能があるからこそだと言うことを忘れるなよ」

「えー、でも減るって事は落第してるんじゃ?」

「発言するなら手を上げろよー? だがまぁいい。生徒数の増減は、その生徒が才能を開花させ、その生徒の能力に相応しいクラスへ移動することで起こる」


 気にせず答えた先生は、そのまま続けて説明してくれた。


「今ここに居る生徒は、何らかの才能をいち早く開花させた者たちばかりだということは理解してるな?」

「はい」

「占術師の才能を開花させた上で、更なる高みへ登る為に、飛び級したり、武芸の才能の方が高い生徒がそっちのクラスへ移動したり、そんな感じで人数は変動する」


 なるほど。つまり、このクラスに居るのは占術の才能があることが決定した生徒しかいないから、移動はあっても落第自体がありえない、ということのようだ。なんとも言いがたい理由だ。


「中には、家の事情で自主的に退学する者も居るが、それは滅多にあることじゃない」


 不意打ちみたいな先生の言葉で、過去の記憶がよみがえってしまいそうになったけど頑張って考えないようにした。思い出したって意味が無いのだから。


「ちなみに生徒が増える時は、他のクラスからこのクラスへ編入するべきだと思えるほどの好成績を打ち出した者が居た場合だ」

「はいはーい!」

「よーし、そこの赤毛。言ってみなさい」


 元気に手を挙げたのは、兄や父みたいな赤毛をした生徒だった。


「占術が出来ないのに、戦える生徒が来たりするってことですかー?」

「いや、このクラスに編入出来るのは占術の才能がある生徒だけだ」

「じゃあ先生も何か占術が出来るんですかー?」


 なぜだろう。この生徒の質問に悪意を感じる。あの人たちと同じ赤毛だから、そんな風に思ってしまうのだろうか。だとすると、偏見があるとして減点されてしまうかもしれない。気をつけないと。


「あー、まぁちょっとだけな。生徒たちに基礎が教えられるくらいにはちゃんと出来るから安心しろよー」


 先生はというと、慣れているのか、それとも気にしていないだけなのか、分からないけれど軽くそう答えた。


「この教室でやるのは、主に基礎的な知識や歴史、とにかく、基礎だ!」

「えぇー……」


 誰かが面倒くさそうに漏らした不満げな声に、先生がビシっと言い放つ。


「言っとくが基礎は大事だぞ? どんなに硬い素材の家だって柱が緩かったらすぐに倒壊するんだからな」


 至極真っ当な意見だったが、それでも異論は出てしまうらしい。生真面目そうな黒髪の女子生徒が手を挙げながら反論した。


「しかし先生、それをすでに理解してる生徒には面倒なのでは?」

「理解してるからって疎かにしてる時点で減点対象だな。みんな気を付けろよー」


 先生の言葉に納得した様子でメモを取る女子生徒に反して、赤毛の生徒はというと、どこか不満そうな表情を浮かべていた。


「という訳で、だ。ここからは自己紹介の時間だ。じゃあまずは、そっちの端の先頭の席から……」


 そのまま先生はそう言って、先生の促した通りに、自己紹介の時間が始まったのだった。



 

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