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死に戻りの花乙女は宣託を唄う  作者: 藤 都斗
入学編

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15/25

私にはまだ分からなかった



 図書館に入れるようになるのは入学後だ。生徒にのみ開放されているのだから当たり前かもしれない。

 学園の敷地内にあるからこそ、学園に関係ない者を入れる訳にいかないのだろう。


 本当は今すぐ図書館に向かって母の手紙を探したかった。だけど、ちょうど春の長期休暇の真っ最中であるがゆえに、現在学園は閉鎖されている。


 この長期休暇が終わり次第、入学式が始まる。つまり、私の二度目の学園生活が始まるのだ。

 だから、図書館に行くのはそれからでも遅くは無い。


 ……遅くは無いんだけど、どうしても手持ち無沙汰だった。


 ふと、部屋の扉をノックする音が聞こえた。


『セリーヌ、いるかい? 荷物が届いたよ』


 そんなカティアさんの声で思い出す。そういえば、あの日からそろそろ三日は経っていた。


「はい、今開けます」


 扉を開けて、カティアさんから荷物を受け取る。


「ありがとうございます」

「いいや、これも仕事さね。あ、そうそう、今日の夕飯に何か食べたい物はあるかい?」

「え?」


 カティアさんの問い掛けに答えるために考えてみたけど、やっぱりなにも浮かばなかった。


「うーん……特には……」

「そうかい? あんまり遠慮しないようにね?」


 今は特に遠慮なんてしてないのだけど、なにも出て来ないのだからそう思われても仕方ない。だから礼だけでも伝えておくことにした。


「はい、ありがとうございます」

「あと、なんか困ったことあったらすぐに言うこと!」

「はい、そうします」

「じゃあ、また夕飯でね」

「はい」


 まだなにか言いたそうな様子で去って行くカティアさんを見送ってから、扉を閉める。

 そして、渡された荷物を見た。見覚えのある包装紙と、店名。

 学園の制服が届いたのだ。


「三日……あっという間ね……」


 じっと見つめながら、意味もなく呟いた。

 そのまま包装紙を破いてゴミ箱に捨て、制服を取り出す。合服と夏服、冬服と合わせて十着はあった。

 部屋に備え付けのクローゼットに一着ずつ掛け、それから確認のために一着だけ手に取って、制服に袖を通す。

 スカートの丈も、服のサイズもぴったりだけど、これは着た人に合わせて伸縮するように出来ているのだから当たり前だ。部屋着にしていたワンピースの上から着ていても無理がない。

 この技術が百年前には既に確立していたというのだから、なんとも不思議なものだ。とはいえ、まったく一般的じゃない高度な技術には変わりないのだけど。


 だがしかし、今一番重要な物は、制服とは別に用意された小箱の中にある、無色透明な宝石の付いたブローチの方だ。なお女子はブローチで、男子はタイピンである。

 学園の生徒は皆これを付けて学園へ通う。つまりこれは生徒を証明する学生証でもあるのだが、それだけではない。


 箱からブローチを取り出すと、その下から説明書が出て来る。だけど私はもう使い方を知っていた。


「確か、こう……」


 ブローチの宝石に触れながら魔力を流す。すると宝石の色が変わった。ちゃんと私の魔力の色。夕日の朱色だ。


「私の色……こんな色だったのね」


 ぽつりとそう呟いたのは、前の時にはほとんど見る事が出来なかったからだ。


 だけどこれで、このブローチの持ち主登録が終了した。


 もう一度魔力を流すと、ふわりと花開くように着ていた制服が変化して、占術用衣装として預けていた、母の形見の、あのドレスへと変わっていく。


 ちゃんと見ていなかったし、すぐに預けてしまったからどんなドレスなのか理解していなかったけど、とても綺麗な銀糸で編まれた、落ち着いた雰囲気のドレスだった。

 この技術の一番凄いところは、一緒に預けた装飾品も、ちゃんと着用した状態で変幻してくれる部分だ。

 どういう原理なのかは企業秘密らしく一切公開されていないけれど、ドレスや装飾品が無くなったわけではないそうだ。

 耳元でしゃらりとかすかな音を立てて揺れる銀色のイヤリングと、朱色の宝石が付いた腕輪が両手にひとつずつ。


 そして、胸元にはブローチに付いていた宝石が、ペンダントに変化したものがあった。


 今後はこうやって自分の魔力の色をしたこの宝石に魔力を通せば、この占術用衣装に制服を、またはその逆と、自由に変幻させることが出来るようになる。


 ちなみにこの占術用衣装というものは、どうしても授業の中で色々と使うので、学園に通う生徒にとっては必須だったりする。


 ……前回の時は、あの下女が見本だと言って勝手に魔力を通したせいで、宝石の色はあの下女の桃色に変わってしまった。


 その上、あの下女が選んだ下品な桃色のドレスが占術用衣装として登録されていただけならまだしも、あの下女に魔力を通して貰わなければ占術用衣装に変幻させることも、戻すことさえも出来なくされてしまったのだ。


 ……あれは今考えても本当に面倒だった。

 あの時ほど、全ての人間に魔力なんてものが存在しなければ良かったのに、なんて、世界の構造を恨んだことはない。


 何度も何度もあの下女のことを思い出してしまう。煩わしいからあまり思い出したくないのに、あんなに色々なことをされたからか、どうしても浮かんできてしまうらしい。

 もう、そうなることは無いはずなのに。


 だけど、あの頃の私の行動はきっと、今後の役に立つ。反面教師として、だけれど。


 きっと、きっと、なんて色々と考えているけど、私にとってなにが本当に必要で、なにが不必要なのかは、まだ完全には理解しきれていない。


 それに、今後の生活はともかく、私が学園の生徒としてやっていけるのか、疑問しかなかった。

 感情が麻痺したままでは絶対に無理なのだろうと、本能で、勘で、経験で理解は出来ている。


 だって、花が占術をする時に必要なのは、歌唱力と、技術力と、声質、そして、歌に込められる“思い”。つまりは、感情。

 それらがなければ、フローラは開けないのだから。


 どうすればいいのか、私にはまだ分からなかった。


 

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