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恐怖の物語  作者: 枯谷落葉
第3章 幽霊の物語
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08 通学路



 私は、信号が青になったのを見て、歩き出す。


 けれどいつも通る横断歩道を渡り終えて振り返った。


 あの薄茶色のわんちゃん、どうしてずっとあそこにいるんだろう。


 信号機の根元で、ずっと寂しそうにしてる。





 朝の時間、皆で固まって小学校に登校する時、いつもそんな事を考えてる。


 でも、みんなには見えていないようだから、誰かに理由を聞いたりする事はできないんだよね。


 もやもやした毎日を送っていたけど、ある時その理由を教えてもらう事ができた。


「あなたもあの可哀想なわんちゃんが見えるのね」


 小さな黒い犬を散歩させているおばさんだった。


 そのおばあさんは、犬の幽霊の話を教えてくれた。


 気に入った人間を見つけると、食べちゃうという話。


 私は恐ろしくなって、その日から横断歩道のあの犬を見つめられなくなった。





 おばさんの話では、一人であの犬の前を通らなければ大丈夫らしいけど。


 よりによって数日後、居残りがあって友達と帰れなくなってしまった。


 だから私は、ほかの道を通ろうとしたけど、そういう日に限って道が工事してるんだ。


 私は渋々、駆け足でその横断歩道を通り過ぎようとした。


 そしたら。


「グルルルル!」


 犬のうなり声がして、私の背中に飛びかかってきた。


 私は驚いてもがくけれど、犬はとても力が強くてその場から動けなかった。


 横断歩道の上から一歩も。


 信号機の色が変わって、そこに車がやってくる。


 このままだとひかれてしまう!


「誰か! 助けて!」


 叫んだとたん、体が軽くなって動けるようになった。


 私は慌てて横断歩道を渡りきる。


 そして後ろを振り返ると、こっちに走ってこようとする凶暴な表情の犬がいた。


 犬の幽霊のことを教えてくれた、親切なおばさんの飼い主だった。


「どうして………?」


 理解が追い付かないでいると、その黒い犬に飛びかかる薄茶色の犬が見えた。


 横断歩道の上で二匹の犬が争い合う。


 そこに車がやってきた。


 けれど二匹の犬はすっと半透明になって消えてしまう。


 二匹とも幽霊だったの?


 遠くから視線を感じて、そっちの方を見ると恨めしそうなおばさんの姿があった。


 黒い犬がそのおばさんの方へ向かっていく。


 駆け寄ってきた犬をなでるおばさん。その姿が血まみれの姿に変わっていく。


「しんでしまえばよかったのに」


 ぞっとするような冷たい声だった。


 おばさんと黒い犬はすぐに消えてしまった。


 私は、近くに来た薄茶色のわんちゃんに話しかける。


「ひょっとして、私を助けてくれたの?」

「わんっ、へっへっへ」


 嬉しそうに、誇らしそうに尻尾を振りながら、私を見上げてくる犬は悪い子には見えなかった。


「ありがとう」


 どういう理由があってこの横断歩道にいるのか分からないけど、これからは話しかけたりしてあげようかな。






 後で聞いた話だけど、あのおばさんと黒い犬の存在は有名だったらしい。


 横断歩道にいる「人を食べる犬」の話をして誰かを脅かし、信号無視した横断者を車にひかせる……なんて事を繰り返していたとか。


 あとは、愛犬の黒い犬が横断者に襲いかかって、動きを止めてるうちに車に引かせるとか。


 おばさんは生前、人をひいた事があるドライバーなんだけど、その後に自分も犬の散歩中にひかれちゃったらしい。


 自業自得なのに、他の人を同じ目に合わせようとしてるんだって。


 私、助かって良かったなぁ。

 


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