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恐怖の物語  作者: 枯谷落葉
第3章 幽霊の物語
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05 遊園地



 その遊園地は、廃園になった場所だ。


 人里離れた場所で、壊される事なく放置されている。


『ここで動画配信したらよくね?』

『人がいないし、騒音の苦情も来ないしね。肝試し企画でもする?』

『ねぇ、なんかあっちに人影が見えない?』


 たまに廃墟マニアや、肝試し好きの人間がやってくるが、その数はささやか。


『なにあれ、マジで出るなんて聞いてないし!』

『やべっ、呪われてたりとかしてないよな?』

『そんなことどうだっていいじゃん。さっさと戻ろうよ!』


 賑わっていた頃とは比べるほどではなかった。







 そんな場所を、命の終わりに選んだものがいた。


 その者は、人生の中で様々な苦痛を受けて自殺した者だった。


『もう死ぬしかない。誰も助けてくれないんだから、死んで楽になろう』


 その人間は、会社で嫌がらせを受け、相談をした同僚にからかわれ、訴えた上司に見捨てられていた。


 頼れる存在がいないという孤独感によって、心が追い詰められていたのだった。


 そして会社をクビになった時、楽しい事などこの世時は何もないと思いこんで、絶望した。


 けれど死の結果は、すべてから解放されるわけではなかった。


『死んでも楽になれるわけじゃないなんて。これじゃ、ずっと辛いままじゃないか!』


 その男は、幽霊となってその場所に縛り付けられてしまったからだ。


 それから、長い年月が過ぎた。


 自殺した幽霊は、気が遠くなるほどの時間をその遊園地で過ごしてたが、成仏する事ができない。


『本当に幽霊が出るなんて!』

『逃げろ!』

『ここやばいぞ!』


 だから、時折やってくる者たちをおどかしては追い返す事を繰り返していた。


 春がやってきて、夏が、秋が過ぎ、冬になってもそれは変わらない。


 そんな季節が何度も巡っていくうちに男は、自分がどういう人間だったのか、なぜ死んだのかを忘れてしまっていた。







 そんな男の幽霊がいる遊園地に、老夫婦がやってきた。


 その老夫婦は見るからに高齢で、好奇心や遊びで訪れたようには見えなかった。


 当然、廃墟マニアでも、肝試し好きの人間もない。


「懐かしいわねおじいさん。よく息子とここでジェットコースターに乗っていたでしょう?」

「あそこの土産屋で、よくお土産をせがまれていななぁ」


 二人は穏やかな笑顔を浮かべながら、しかし時々悲しそうな表情を浮かべて、園内を見回っていく。


 寂れて草が生え、道は歩きづらいことこの上ない。


 それでもその老夫婦は、歩みをやめなかった。


「親より早く子供がなくなるなんて、あの頃は思いもしなかったわ」

「悩みがあったなら、なんで私達に相談してくれなかったんだ」


 その老夫婦は、自殺した子供との思い出に思いをはせるためにやってきたようだった。


 そんな二人が語る息子の特徴は、幽霊の男にあてはまるものばかりだった。


 その姿を見た幽霊は思い出した。


 辛い事ばかりあった人生の中の楽しい思い出を。


 その思い出で、男の心は暖かくなる。


 男が都会へ向かう時、男の両親は『何かあったら遠慮なく帰ってきてね』『困ったことがあったら相談するんだぞ』と優しく声をかけていた。


 その記憶を思い出した男は、自分は孤独ではなかったのだと思い出して涙した。




 だから、


「父さん、母さん、悲しまないで。小さい頃、この遊園地でたくさん遊んでくれてうれしかったよ」


 男の幽霊は最後に、老夫婦の前に姿を表してそう言った。


 この世をやっと去る事ができるようになったその男は、地上から消えて成仏できるようになった。



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