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恐怖の物語  作者: 枯谷落葉
第2章 家の物語
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06 青い家



 その家に入った時、そんなわけはないのに海の中にでもいるみたいだと思った。


 だって。


 視界全部が青。


 私がいるこの家は、それくらい青一色で塗られていた。


 ドアノブをひねって扉を閉じる。


「変な家……」


 目の前の光景を見て、私はポツリと呟いた。






 変わった作品が多く展示されている、美術館にやってきたんだけど。


 そこでは、赤い色のお風呂とか、真っ黒な食器とか、変な色のものがたくさん展示してあった。


 身の回りのものに、色々な色をつけた作品が並んでるっていう展覧会が開催されてたから、そういうものがあるのは普通なんだろうけど。


 私にはちょっと、価値がよく分からない。


 それでも、せっかく来たんだから、途中でやめるのはもったいない。


 我慢して最後まで見る事にした。


 そんな感じ一番奥まで行った私が見たものが、青一色の家だった。


「うわっ、目が変になりそう」


 美術館の中に、まるごと一軒家が建てられていたのも驚きだったけど、


 その家が、外も中も真っ青な事でさらに驚いた。


 これを作った人は、一体何を考えていたんだろう。


 ここには一応、美術鑑賞が好きな友達と一緒にやってきてるんだけど、困惑するしかない。


 暇だったからつきあっただけで、私に特に美術に興味があるわけではないから。


「窓も、電灯も真っ青。うわっ、蛇口まで。本当に全部青一色なんだ」


 一応、魚の飾りや魚の絵画とかが所々ついてたりするけど、それも青色ばかり。


 一通り家の中を見回ると、なんだか目が疲れてきた。


 早く出よう。


 そう思って玄関に向かったけど、足元にあった床の感覚が急になくなった。


「えっ!」


 気がついたら、家の中に突然できたプールに落ちていた。


「なにこれっ、げほげほっ、何でっ!?」


 急な事で口の中に水が入ってしまった。


 塩素のにおいが鼻につく。


 さっき同じ道を通った時はなかったのに。


 一体、いつの間にこんなものが!?


 何か捕まる物を探そうとするけど、この廊下の壁にはでっぱりなんかない。


 幸いにも泳ぎは得意だからすぐにどうこうなるってわけじゃないけど。


 とにかく上にあがれる所を探さないと。


 私は泳ぎながら、青い家の中を移動していく。






 けれど、どこの廊下もプールみたいになっていてダメだった。


 なら家の外に出ようと思って玄関のところまで泳いでいったけど、ドアノブまで手が届かない。


 外にいるお客さんや美術館のスタッフに声が届けばと思い、「誰か! 助けて」」と叫んだけれど……。


 いつまで経っても扉が空く気配がない。


 そうこうしているうちに匂いが変わってきた。


「海のにおいだ」


 今までは塩素のにおいだったのに、急にしょっぱいにおいを感じ始めていた。


「どうして、あっ」


 水中の中に目を凝らすと魚たちの影が見えた。


 色とりどりの小魚が優雅に泳いでいるのも見えるし、大きなサメのようなものも泳いでいるように見える。


「ここから離れなくちゃ」


 玄関の近くにずっといたかったけれど、そうも言ってられなくなった。


 私は授業でも出さないようなスピードで泳ぎ、その場から離れていった。






 でも、どこに逃げればいいのか分からない。


 この家には、水中から上がれるところがないし。


 なんて思っていたら目の前を亀が通った。


 とても大きかったから、子供の自分くらいは背中に乗れそうだ。


 ちょっとかわいそうに思うけど、甲羅にお邪魔させてもらおう。


 だから、そっとその青い甲羅に手をかけたんだけど。


「ちょっと待ってよ!」


 亀は水中深くに沈んでいってしまった。


「嘘でしょ」


 もうそろそろ泳ぐのも疲れてきた。


 早く上がれる場所を探さないといけないのに。


 アテもなくのろのろと泳ぎ続けていると悪い想像ばかりが頭に浮かんできた。


 頭をぶんぶんと降って何度も追い払おうとしたけど、その度に湧いてくる。


 いつのまにか家の壁や天井は消えていて、だだっ広い海の真ん中に放り出されていた。


 どこへどう泳いでいけばいいのか、まるで分からない。


「このまま死んじゃうのかな」


 弱気になっていると、遠くに島のようなものが見えた。


「もしかして助かるかも!」


 つかれた体に活をいれて、精一杯泳いでいく。


 ひさしぶりに水から上がった時は、もうへとへとだった。


「植物が絡まってできた浮島、みたいなのかな」


 その島は人一人分くらいの広さしかなかったけど、それでも十分だった。


「疲れたから、なんだか眠くなっちゃったな」


 私は、訪れた睡魔の誘惑に勝てずに眠り込んでしまった。


 それにしても、波でよく揺れるなぁ。




 その浮島の下で何匹もの巨大なサメが泳いでいる事も、そのサメが浮島をひっくり返そうと体当たりして事も知らずに。






 美術館を訪れたとある女の子は、友達を探してうろうろしていた。


 その女の子は知らない。


 すぐ近くに探し人がいる事を。


「おかしいなぁ。係員の人は誰も出ていないって言ってたから、中にいるはずなんだけど………。あっ、青い家が赤い色になっていく。こんな仕掛けがあったんだ。変わってるな」



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