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会いたくて来ています

「葬儀はできるだけ質素にするよう指示を出しましたし、お墓は既にあるので問題なし。いざという時には私一人が死ぬようディランにも伝えました」


 これで騎士が巻き込まれるのは防いだと言いたいが、騎士は主を守る存在。

 うっかりエレノアを庇ってはいけないので、危険な時には遠ざけるように気を付けなければ。


「そうすると、あとは遺言でしょうか」


 どうしたものかと腕を組むと、扉を叩く音が聞こえる。

 返事を聞いて姿を現したのは、鉄紺の髪の美青年だった。


 白を基調とした神官の服が三割増しで爽やかに見えるのは、その容姿が整っているからだろう。

 何となくありがたみも増すのだから、美貌というものは素晴らしい。


 最近ではルークの訪問に使用人達も慣れて、エレノアのいる執務室にもこうして普通に通されていた。

 未婚の男女を同室にしていいのかと思う心がないわけではないが、マリッサをはじめとした使用人達の出入りも多いので問題視されていないようだった。


 それに相手は非婚の神官で、こちらは死ぬ気満々の終活中。

 気にする方がルークに失礼だろう。



「神殿に行く時間を節約できるから私としてはありがたいのですが、ルークも忙しいですよね?」


 詳しい序列までは知らないが、神殿での他の神官の接し方や神官服から察するに、かなりの高位であることは間違いない。

 神官の実務内容は不明とはいえ、毎日退屈ということはないはずだ。


「いいですよ。俺がエレノアに会いたくて来ていますから」

「そんなに心配ですか?」


「それはもちろん」

 ルークはソファーに腰かけると、大きくうなずく。


 まあ、終活とか言い出す令嬢はなかなかいないだろうし、気になる気持ちはわからないでもない。

 ちょうどマリッサが紅茶を運んできてくれたので、エレノアも机の前からソファーの方へと移動する。


 紅茶と共に用意されたのは、ドライフルーツがたっぷりのケーキだ。

 新鮮な果物もいいが、これも味わい深くて美味しい。

 こうして好きな食べ物を摂取するのも、悔いを残さない終活と言えよう。


「この間のクッキー、とても美味しかったです。またエレノアが作ったら貰えますか?」

「本当ですか? ちょうど昨日作ったナッツ入りのクッキーがありますから、包んでお渡ししますね」


 神官でなくても、手作りの食べ物を真正面から不味いと言う人はあまりいない。

 だがこうしてお代わりを要求するからには、お世辞を差し引いても悪くはない味ということだろう。

 笑顔のエレノアの指示を受けて、マリッサはそのまま執務室を出て行く。



「クッキー作りは楽しいですか?」

「そうですね。少しずつコツを掴んで上達するのは面白いです」


 もちろん材料の準備から色々と手伝ってもらっているが、それでも自分の意思で作るというのは嬉しい。

 ずっとエレノアの意志や行動で未来を変えられずにいたので、こういう小さなことでも満足感が大きかった。


「これからもっと色々なことを経験できます。楽しいこともいっぱいあるでしょう。だから、終活をしなくても大丈夫ではありませんか?」


「それとこれとは、話が別です。……もしかして、終活相談が大変なので終わらせたいということですか? 今まで十分お世話になりましたし、無理に付き合ってもらわなくても」


「そうではありません。ここには、俺自身の意思で来ています。エレノアに会いたい、エレノアを支えたいと思うから」


 まっすぐに青玉(サファイア)の瞳に見つめられ、エレノアは目を瞬かせる。

 何という、業務熱心。

 若くして高位の神官なだけはある、と感心してしまう。


「それでは、お言葉に甘えます。ちょうど遺言に取り掛かろうとしていたので、聞いてくださいますか」

「もちろん」


 穏やかな笑みと共にうなずくルークを見ると、何だか胸の奥が温かい。

 ずっとナサニエルに否定され無視され話を聞いてもらえなかったから、それだけでもありがたみを感じてしまうのだろう。



「財産関係は執事にお願いしてまとめ直しています。問題は公爵家の跡継ぎです。私に兄弟はいないので、父の弟であるギャレット叔父様……アシュトン子爵が最有力なのですが……その、信頼できないと言いますか。横領していましたし」


 ギャレットが継ぐとなるともめるのは確定だし、ヘイズ公爵家の未来のためにも他の人に継いでもらいたい。


「ただ、他に有力な候補がいないのが現状で」


 優秀な親族はいるが、彼らは継ぐべき家がある。

 家格で言えばヘイズの方が上だが、長年守ってきた家を捨てて来いというのも何だか違うだろう。


 しかも今は北部と南部の異常気象のせいで忙しいらしく、王都に顔を出すのも難しい状態。

 エレノアが頼まなくても継ぎたいと言う人はいるが、正直ヘイズを任せるには値しない者ばかりだった。


「それなら、正統な後継者を作ればいいのでは? エレノアの子供なら、何の問題もないでしょう」


 当然のようにさらっと告げられたその言葉に、エレノアは楔石(スフェーン)の瞳を瞬かせた。



次話「好きだから」

相手は誰でも変わらないのなら――俺でもいいですよね?


ランキング入りに感謝いたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 少数派……というか私だけだと思いますが、ルークがエレノアになんやかんや言う度に「終活の邪魔すんじゃねぇぇぇ!!!」と思ってしまいます。 個人的には、非の打ち所がないほどに鮮やかに終活をまっと…
[一言] 子供という未練を作る終活とは? 終活の定義が壊れるな
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