夜空の死に装束
ルークから届けられたのは、まるで夜空のようなドレスだった。
紺色の生地の上に深い青紫色が重ねられ、その上には金糸と銀糸で数多の星が刺繍されている。
様々な大きさの星が川のように流れる様は、シンプルな色使いでありながらとても華やかだ。
胸元と腰回りには白いレースがあしらわれ、星空の下に白い花が咲いたように可憐である。
スカート部分には透ける生地でできたフリルも一部重ねられていて、動く度に揺れる様も美しい。
首を飾るのは小さな青い石をふんだんに使ったネックレス。
緩く編んだ金の髪には透明の石があしらわれ、ところどころに青い石がきらめいていた。
人生最後の装いなので、気合いを入れて着飾った。
もともと容姿は悪くないと思うし、死に装束に負けない仕上がりになったので満足である。
「エレノア様、本当にお似合いです。舞踏会会場で一番の美しさです!」
マリッサは興奮しているが、会場の面子を見たわけでもないのに大げさだ。
とはいえ頑張った装いを褒められるのは悪くない。
この気持ちもまた終活に役立っているのだろうから、ありがたかった。
昨日ヘイズ邸に戻ったエレノアは、すぐに執事を呼び出した。
財産の管理はほぼ終了していたので、残りの指示を出すだけで大丈夫。
一番の懸念であった後継者だが、遺言書には二人の名を挙げた。
北部と南部に領地を持つ親族は優秀なのは間違いないし、二人で話し合って決めるよう書いたのでギャレットも口を出せないだろう。
完璧とは言えないが、これで終活も仕上げの段階だ。
長かったような、短かったような、不思議な気持ちである。
「本当にとても綺麗な……ルーク様のお色ですね」
マリッサの指摘にドレスを見てみれば、確かにルークの鉄紺の髪と青玉の瞳を思わせる色遣いだ。
なるほど、それでマリッサとディランがこちらを見てにこにこしていたのか。
二人からは婚約者がその色のドレスを贈ってきたという、愛溢れる行動にしか見えないのだろう。
エレノアを殺すのはそのドレスを贈ってきたルークの可能性が高いのだが……まあ、それはそれで死に装束として正しい気もするので問題ない。
薄く笑みを浮かべるエレノアに何か気付いたらしく、マリッサの表情は満面の笑みから少しずつ曇り始める。
「クズ王子と違って、エレノア様を大切にしてくださる方からの贈り物ですよ。もう少し嬉しそうになさっても」
「そうですね。そういう人がいたら、良かったのかもしれませんね」
今回のループで使用人達はエレノアに尽くしてくれたけれど、既に粉々に壊れた心を元に戻すことはできない。
――何をしても、しなくても殺される。
これだけが、エレノアに残された真理だ。
すると、マリッサが静かにため息をついた。
「エレノア様は美しくて優秀で優しい、我々の自慢のお嬢様です。ですが、基本的なことが見えていないことがあります。……クズ王子や悪趣味子爵のせいですが」
「そうですね。基本に忠実に終活しないといけません」
エレノアはうなずくと、マリッサの手をぎゅっと握りしめた。
「今までありがとうございます、マリッサ」
するとマリッサの瞳に、あっという間に涙が浮かび始める。
「何ですか。今生の別れみたいに言わないでください。クズ王子の呪いの手紙も燃やしますし、悪趣味駆逐祭りもいつでも開催しますよ。エレノア様が嫁入りする時にはついて行きますからね!」
「そうですね。もしもそんなことがあれば、その時にはよろしくお願いします」
エレノアはヘイズの跡取りなので、仮に生き残ったところで嫁入りすることはない。
それでも一緒にいたいというその心は嬉しくて、エレノアの胸の奥がふわりと温かくなった。
舞踏会の会場である王宮に到着すると、ディランにエスコートされる形で会場に入る。
ナサニエルと婚約解消して初めての公の場だけあってかなりの視線が注がれたが、今更気にすることもない。
たとえぞんざいに扱われていた上に従妹に婚約者の王子を奪われた形とはいえ、エレノアは名門公爵家の令嬢でありその後継者。
色々言いたいことはあるのだろうが、直接話しかけてくる無謀な者はいないようだ。
「それにしても、ルークは何故エスコートしないんですかね」
ディランの中ではルークは元貴族の高位神官だが、公の場で第一王子だと明かされてない以上、伝えるわけにもいかない。
「色々あるのでしょう。それよりもディランは会場の外で待っていてくれますか」
ここがエレノア終焉の地、今回のループの終わりだというのなら、巻き込むわけにはいかない。
「……ヘイズの御心のままに」
普段のディランならばもう少し粘ったかもしれないが、公の場で騎士が食って掛かるのはディラン以上にエレノアの評判に関わるので配慮してくれたのだろう。
「今まで、ありがとうございます」
ディランは一瞬眉を顰めたが、そのまま礼をして会場を出て行く。
すると会場にざわめきが起こり、姿を現したのはナサニエルとジェシカだった。
まだ婚約したという話は聞かないが、エレノアと婚約している間も二人一緒にいたので今更ではある。
それなりに距離があるのにエレノアに気付いたらしいナサニエルが、にやりと意味深な笑みを浮かべた。
「――今夜、発表したいことがある!」
ナサニエルが声を上げたことで、会場中の視線が集中する。
得意気に胸を張っているが、さて一体何を言うつもりだろう。
エレノアと婚約したと言いたくても、さすがに神殿も関わることで嘘をつく度胸はないはずだ。
ではジェシカと婚約して、エレノアを側妃にするとでも言うのか。
いや、ギャレットは王家がジェシカでは難色を示していると言っていたし、あの性格からして側妃がいること自体を認めない気がする。
あるいはとにかく第一王子を落とすことを考えて、エレノアを冤罪で処刑して消してしまうとか。
「……まあ、どれでも末路は同じですね」
今回は終活に勤しんだおかげで諸々を整理済みだし、死に装束まで用意して準備万端。
今までとは死への取り組みがまったく違うので、これで終われるかもしれない。
あと願うことがあるとすれば、最後の痛みが長引かないと嬉しいということくらいだ。
だがナサニエルが何かを言おうと口を開けた瞬間、「国王陛下入場」の声が会場中に響く。
そして間を開けず「第一王子殿下入場」と告げられ、会場は一気に騒然となった。
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鈍感神官とストーカー王太子のラブコメです。
詳しくは活動報告をどうぞ。
次話「真実の愛のお相手と末永くお幸せに」
二人の王子が対峙し、国王から告げられた言葉は……⁉
お話も終盤です。
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