死の理由が増えただけ
「ルシアン殿下とは、どこで会ったんだ?」
馬車に押し込まれたエレノアは、ギャレットと向かい合う形で座っていた。
大人しく従ったせいか剣を持った男は馬車の中に入らなかったが、恐らくは御者台にでもいるのだろう。
手足を縛られたりしていないので、不自由していないのが救いである。
「相談があって神殿に行ったら、たまたま対応してくれました」
ルークが第一王子かどうかはわからないが、少なくともギャレットはそれを信じている。
ここで論争をしても無駄なので、とりあえず質問に答えた。
「神殿は王家との繋がりが強いし、立場が弱い王子を匿うのはありえる。それに再三に渡って、ナサニエル殿下の問題行動に苦言を呈していた。エレノアが来たと知って、わざとルシアン殿下を出したのだろう。あちらにとって状況を一変させる切り札になり得るからな」
ギャレットはそう言うと、大きなため息と共に頭を掻きむしる。
「これは面倒なことになったぞ。早急にナサニエル殿下とエレノアを婚約……いや、結婚させないと」
その婚約には神殿の承認が必要だし、エレノアは既にルークと婚約してしまっている。
だがこれを言ったら確実に殺されそうなので、黙っておいた方がいいだろう。
「一体、どこに向かっているのですか?」
話を変えようと尋ねると、ギャレットがじろりと睨みつけてきた。
「知る必要はない。おまえは自分の役割を果たせばいい。邪魔をするなら殺してもいいんだぞ」
夜会会場に帯剣した男を連れ込んでいるのだから、エレノアの機嫌をとるのではなく、従わせる方向に舵を切ったのは間違いない。
「でも、叔父様は私を殺せませんよね。楔石の瞳が……」
「瞳がどうした。確かに珍しい色だし、ナサニエル殿下も気に入っていたようだが、それを言ったらジェシカの瞳も美しいぞ」
ふん、と鼻を鳴らして顔を背けるギャレットは不満そうで、偽りを口にしているとは思えない。
今までと違ってギャレットがエレノアを殺すルートかもしれないと思いつつ確認をしてみたのだが、これはどういうことだ。
この口ぶりでは、楔石の瞳の意味を知らないように聞こえる。
ギャレットはヘイズ公爵家の跡継ぎではないので、楔石の瞳の重要性を伝えられていなかったということだろうか。
確かにエレノアですら知らなかったのだから、それもあり得る。
では、それを知っていたルークは……やはり王族、なのだろうか。
『その瞳を持つエレノアを妻にするというのは、即ち王になることと同義。だから、第二王子が手放すはずがないのです』
あの言葉はつまり、ルークもそう思っていたということか。
死なせたくないというのも、エレノアを妻にして自身が王になるためと考えれば、辻褄が合う。
……結局、ルークも数あるエレノアの死の理由のひとつにすぎないのだ。
ルークにとってのエレノアは、楔石の瞳とそれに伴う王位に価値があるだけ。
婚約もナサニエルに奪われないための戦略であり、『好き』と言ったのも同様だろう。
あるいはエレノアのことを嫌ってはいないのかもしれないが、この状態でルークと結婚すればナサニエルだけでなくジェシカやギャレットの恨みも買う。
あとはお馴染みの死亡エンドだ。
――エレノアが何をしようと、しなかろうと、必ず殺される。
わかっていたはずなのに、胸がちくりと痛んだ。
連れてこられたのは、予想に反して王宮だった。
普段は立ち入ることのない奥まった一室に押し込められると、扉が閉ざされる。
今更あがいても仕方がないので部屋の中央に進んで行くと、そこには小さな祭壇と燭台、それから台座に乗せられた石があった。
台座は蝶があしらわれた繊細な作りで、その上に乗せられた石は黒っぽいくすんだ緑色だ。
ちょうどエレノアが両腕で囲めるほどの大きな石である。
もとは綺麗な球体だったのだろうが、真ん中に大きなひびが入っていて、もう少しで真っ二つに割れそうなほどだ。
「これ、何でしょうね」
王宮の奥に祭壇と共に置いてあるのだから、何か意味があるのだろう。
どうせ飾るのならば、割れていない石にすればいいのに。
「それは、王家の宝玉だ」
急に室内に声が響いたので驚いて振り返ると、そこにはちょうど扉を閉めるナサニエルの姿があった。
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鈍感神官とストーカー王太子のラブコメです。
詳しくは活動報告をどうぞ。
次話「宝玉と楔のループ」
エレノアの死のループの原因が……⁉
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