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恋って、何でしょうね


「……守りたい人がいました。その人の幸せのために俺ができるのは、身を引くことだったのです」


 それで一足飛びに神官になるというのも凄いが、きっかけからして清かった。

 これは終活を目標にするエレノアを放置できないわけだ。


 その気持ちを勘違いして好きだと思ったか、嘘を言ってでもエレノアを止めようとしているのだろう。

 どちらにしても、何だか申し訳ない。


「その時は、そう思っていました」

「今は違うのですか?」

 首を傾げるエレノアに、ルークは寂しそうな笑みを返す。



「良かれと思っていたことが、その人の幸せには繋がっていませんでした。それどころか、俺のせいでかえってつらい思いをさせてしまったかもしれない。……俺が、神官にさえならなければ」


 俯くルークの手を、ぎゅっと握りしめる。

 驚きの表情でエレノアに向けられた青玉(サファイア)の瞳を、まっすぐに見つめた。


「ルークは悪くありません。望んだ通りの結果ではなくても、その人のためを思っていたのですから。それに神官になったから、私はこうして出会えました。終活に付き合ってくれる心の広い神官なんて、なかなかいませんよ」


「……俺を、許すのですか」

「許すも何も。ルークにはとても感謝しています」


 終活の相談に乗ってくれて、こうして親身にしてくれる。

 裏切られて死に続けたエレノアにとっては、それだけでも十分すぎる癒しだ。


「うん。……ありがとうございます、エレノア」

 エレノアの手を包むように握ると、ルークは微笑む。


 泣いてしまうのではないかというその切ない表情に声をかけようとするより早く、周囲に大きな歓声が響いた。



 小さなレストランの前で、大勢の人に取り囲まれた男女が見える。

 装いはごく普通だが、女性の頭に花とベールが飾られているところを見ると、結婚式……いや、その披露パーティーだろうか。


「平民では貴族のような盛大な結婚式は稀です。神殿で誓いを立てた後、ああして近しい人達と祝いの食事を共にすることが多いようですよ」

「そうなのですか」


 エレノアの知っている結婚式とは比べるべくもない、質素な集まり。

 でも誰もが弾けるような笑顔で、心から祝福しているのが伝わってくる。


「とても幸せそうですね」

 ぽつりと呟くと、ルークはそっとエレノアの手を離す。


「エレノアは第二王子と幸せになりたかったですか」

「どうでしょう。もともと政治的な意味合いの婚約ですし、ナサニエル殿下の幸せは私ではありませんから」


 数多のループで何をしてもナサニエルはジェシカを選んだし、エレノアは死んだ。

 どうやっても二人で幸せになる結末など存在しないのだろう。



「では、エレノアの幸せは何ですか」

 あらためて尋ねられると、意外と難しい。


「色々あったと思うのですが、もう全部消え去りました。……今は悔いなく最期を迎えること、ですね」


 そして、この死で終わりにできたら。

 その時には、エレノアも幸せだと思えるのかもしれない。


「――わかりました」

 少し低い声に驚いている間に手を引かれ、ベンチに腰を下ろす。


「ここで、ちょっと待っていてください」

「え、あの」


 ルークはにこりと微笑むと、そのまま人混みの中に消えてしまう。

 このまま放置されるとも思わないし、別に待つのは構わない。

 だが、急にどうしたのだろう。


 とりあえず座ったまま行き交う人を見ていると、二人の男性がこちらに近付いてくる。

 見たことのない顔だし、服装からして平民だろうかと思っているうちに、二人はエレノアの前に立った。



「君、可愛いね。一人なの? 俺達と楽しいことしようよ」


 突然話しかけられたことも驚きだが、その内容も衝撃だ。

 楽しいこととなると、生きがいの参考になるかもしれない。

 通りすがりの見知らぬ人からでも情報を得られるとは、終活は奥深い。


「楽しいことって、何ですか?」

「そうだな。歌ったり踊ったりお酒を飲んだり」


 男性二人は興奮気味に説明を始めてくれたが、エレノアとしては同意しづらい。

 今までに夜会で踊ったりお酒を飲んだりはしているけれど、正直楽しい思い出はなかった。


「あとは、恋をするとか。どう?」


 顔を覗き込むように問われたが、これはまた縁のない言葉が出てきた。

 婚約者に浮気されて浮気相手に殺され続けたエレノアに、恋などわかるはずもない。


「恋って、何でしょうね……」

 ため息と共に呟くと、男性二人が顔を見合わせて何やら笑みを浮かべている。


「思い思われ、恋焦がれ。身体的にも精神的にも近付きたいってことじゃないかな。こんな風に……」


 男性の一人がそう言ってエレノアの手に触れようとした瞬間、風のように現れた何かが男性の手を払いのけた。



「――俺の連れに、何か用ですか」



次話「悔いを残してください」

「悔い、残してください。それでエレノアが生きてくれるのなら、俺は何でもします」

そしてルークが取った行動は……⁉


よろしければ、感想やブックマーク等いただけると大変励みになりますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 無自覚なエレノアが傷を広げているような。 通りすがりのナンパさんたちの未来に合掌。
[一言] しかし薄っぺらいチンピラのセリフから何かを見出すとは 無意味な言葉をランダムに並べたら偶然意味が通る並びだった、てだけなのにね。流石箱入り まあ元婚約者のセリフより含蓄に溢れてるのは間違いな…
[一言] 仕事しろ、ディラン。 お前は何のためにデートに同行してんだよ。
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