第四話
俺は手を上げてケインを呼ぶ。
「こっちだ、ケイン」
俺を見つけたケイン走って近寄ってきた。そのまま俺の手を掴んで門の方へ向かう。門番にはケインが何かカードを見せたら一つ頷いて通してくれた。
門を出てから5分くらい歩くと周りが殆ど草原が広がっている場所に着いた。そこでようやく足を止めたケインは紙を見せてき
『何も言わずにここまで付いてきてくれて助かったよ』
「いや、大丈夫だが、何かあったのか?」
『後で話すよ。それよりも早速だが勝負を始めよう』
そう書くや否や紙とペンを投げて腰から剣を抜いて戦闘態勢をとるケイン。俺も頷いて剣の柄に手をかける。
俺が準備できたと頷くと、彼は息を多く吸って俺に向けて駆け出す。中々の速さだ。俺は腰を落として相手が自分の剣の間合いに入ってくるのを待つ。
ケインは間合いに入ると同時に勢いのまま突きを放つ。それを居合いで弾き上げそのまま袈裟斬りするが、バックステップで躱されてしまう。
追撃に移ろうとするが、ケインがこちらに手を向けると、水球が飛んできたので追撃を諦め大きく横に躱す。
「今のは魔法か...」
俺が呟くとケインは頷いてまたこちらに手を向ける。今度は土の塊、火球と近づく暇もないほど、絶え間なく撃ってくる。
魔法を剣で切ろうとするが、土の塊は大丈夫ではあるが、火球、水球は意味がなかった。だから土の塊を叩き落しながら徐々に近づいていく。
ある程度近づいたところで一際大きな土の塊を放ってきた。放つ瞬間に若干できた隙を逃さずに、岩を体を回して避けて、その勢いをのせたままケインに斬りかかる。
バックステップで逃れようとしているが、魔法主体で戦うタイプなのか動きが鈍い。ギリギリで避けられたが、即座につきを放ち、首もとに突きつける。
ケインはため息をはいて降参と言うように手を上げた。俺は剣を下ろすと同時にあることを考えていた。
(ギルドの決闘の時も感じたが、やっぱり体の動きが少し変だ。これは何でだ?
身体能力が上がったせいか?いや、脂肪が減ったことで使う筋肉が少し変わっているせいか)
俺はそう結論付けてケインのスケッチブックを拾って渡してやる。ケインは直ぐ様手を動かして会話を始めた。
『驚いたよ、まさかここもでやるとはね。これでも魔法には自信があったんだけどね』
「確かに魔法は威力と早さ共によかったと思うけど、俺に土の弾だけが弾かれてる時点で土は打たない方が良かったんじゃないか?」
『確かに、実践経験が少なかった故の敗北か。まぁ、それはそれとして、私は君のパートナーとして合格かな?』
「あぁ、十分だ。よろしく頼む。それで、試験は何時なんだ?」
俺がケインに握手しながら聞くと、ケインは目をそらしてスケッチブックを見せてきた。そこには一言だけ書かれていた。すなわち『これから』と。
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俺とケインはほぼ全力で町中を中心部目掛けて走っていた。と言ってもケインに合わせてだから、俺にはまだ余裕があるが。その余裕を使って俺はケインに文句を言っていた。
「試験の日が今日とか、もっと先に教えといてくれよ!!知ってたら、実力を知るにももっと簡単な方法をとったのに!!」
そうこうしている間に学園に着いたので、外観を見ることさえ忘れてそのまま受験受付と思われる所に駆け寄る。
汗だくの俺たちを見て受付の男性はギョッとしていたが、受験を受けたいと言うと、戸惑いながらも登録用紙を差し出してきた。
「入学試験を受けるならこの用紙に2人の名前と年齢、今使ってる宿を記入してくれ。
基本的にパートナーは入学してからも一緒になるから、それが嫌という場合は名前の横にでも書いといてくれ」
そう言われて渡された紙に俺とケインはさっさと書いて受付に差し出した。
「リオンとケインね。年齢は共に15で宿も一緒で『幸せの宿』と。パートナーはこのままで良いか。よし、不備は無いな。じゃあ試験会場に案内するから付いてきてくれ」
俺たちの紙をざっと見た男はそう言って俺たちを置いてさっさと歩き出して行ったので慌てて付いていく。
息を整えながら歩くこと1時間後、俺達は学園内にある森を彷徨っていた。
俺とケインは前を歩いている冷汗をかいている男をじっと見ていた。
ジー
ダラダラ
ジー、ジー
ダラダラ、ダラダラ
ジーーーーーーーー
ダラダラダラダラダラダラ
「だー!!そうだよ!!迷ったよ!!悪かったよ!!だからそのジーっと見つめるのは止めろ!!」
じと目でひたすら見続けるのを止めて俺とケインはため息を深く吐いた。
「それで、ここはどこなんだ?」
「ああ、ここは学園内にある迷宮を内包した森で、魔物もいる森だ」
それって結構危ないじゃ無いのか?そんな所に子供を連れ込んだ上に迷うとはな」
俺がそう言うと彼は露骨に目を逸らした。それをまたじと目で見ていると、ドンッと地面が一度大きく揺れた。
その揺れでこけた男に手を貸そうとしたが、男は青い顔で震えていて、俺の手にも気づいていない様子だった。
その様子に異常な気配を感じ、男の肩を掴んで声をかけた。
「おい!!今の振動は何なんだ!?」
つく
そう聞くと、男は青ざめた顔でようやく俺の顔を見て若干震えながら答えた。
「い、今の振動は恐らく魔物が迷宮から吐き出されたんだ。この森に大量の魔物が放たれた。早く逃げないと喰われちまう!!」
男はそう言ってどこかに走り去って行った。俺はスキルの気配感知を使ってみた。心の中で唱えるだけで発動できた。
気配感知で分かっただけでも敵の数は200程で、気配的に周りより突出して強いのは二体だけだった。心を落ち着けてケインに声をかけた。
「ケイン、俺との勝負のときくらいの魔法の連射どのくらい続けられる?」
『あの戦闘20回分は持つよ』
「なら、同時発射できる個数は?」
『あの戦闘と同じ魔法で時間をかけて良いなら、同じ属性なら150、違う属性も含めると50が限界かな』
「そうか、俺は今から魔物を倒しに行くがケインはどうする?」
『パートナーになるんだったら、連携の訓練もしないとね』
俺とケインは顔を見合わせて笑い、少しだけ作戦会議をして、気配感知に引っかかった敵の元へ走り出した。
少し走って最初に見つけた敵は狼だった。しかし普通の狼と違い、牙は異常に長く、目は赤く爛々(らんらん)と輝いている。
こちらに気付く前に強く踏み込み加速し、通り過ぎざまに剣を抜くのと同時に首を切り裂く。動脈まで切り裂いた感覚に、死を確信して、振り返らずに次に見えた敵へと突っ込んだ。
そんなことをしながら中心地に近づくと、強い敵の気配を感じ、立ち止まる。そして、その気配の方に視線をやると、そこにいたのはゴブリンと思われる緑色の小さい人形の生物だった。
少し警戒しながら近づくと、あちらも俺たちに気付いて、こちを向いたと思った瞬間に予想外の早さで胸元に入り込まれて、そのまま拳をくらって吹っ飛ばされた。
背中を木にぶつけられた衝撃と拳を食らった腹の痛みに耐えながらゴブリンを見ると、ゆっくりとこちらの恐怖を煽るように近づいて来ていた。
ゆっくり歩いているのを良いことに観察を使ってみると、予想外の情報を得た。
名前:
年齢:9
種族:ゴブリン・トゥルース(魔物化)
Lv:5
スキル:P格闘術、A筋力強化、A威圧
称号:真なる種族
ゴブリンではなく、その上位種っぽい奴でさらに魔物化しているせいで強化されているようなのだ。スキルも格闘術があることから近接戦闘が得意なのだろう。
俺はつい笑いをこぼしてしまう。いつの間にかこんなに強敵と戦うことが楽しくなってしまっている。折角だから俺も素手で行こうかと思い、構えを取る。
俺の無手術は、スキル名にある通り俺のオリジナルだ。昔からラノベから医学書までいろんな本を読んでいたから、その知識から自分に合った技を覚えたり、作ったのだ。
元は知識だけだったが、吹奏部に彼女がいたと言っていた男を殴った後から徹底的に自分を鍛え始めた。と言ってもその時の自分に合うものだったから痩せはしなかったが。
閑話休題、まずは動きやすいように呼吸のペースを上げて、運動に適した身体状況に整えていく。そして、奴が間合いに入った瞬間に今度はこちらから攻める。
初撃は、息を貯めてから左足で強く踏み込んで水月を狙ったややアッパー気味の右拳で、少し顔が下がった瞬間に顔を狙った右足でのハイキック。
顔の直ぐ横で手に止められるが、そこから肩への踵落としを食らわせて一旦距離を取る。息を大きく吐いて身体に酸素を巡らせる。大事なのは酸素が巡っていると意識すること。
奴は今の攻撃でダメージを食らったのは最初の右拳だけだろう。が、ダメージを食らったのが気に入らないらしく、凄い形相でこちらを睨みつけてくる。
ふとケインの方を見てみると周りの雑魚を俺達に近づけないように蹴散らしてくれていたので、目の前の敵に集中する。こいつには搦め手の方が効きやすそうだ。
奴が痺れを切らして怒りのままに突っ込んできて、右拳を振るってきたところを左手でそらすと同時に体を180度回転させながら懐に入り込み、奴の勢いごと背負い投げっぽいもので地面に叩きつける。
グギャと変な声とともに空気を吐き出した瞬間に足で心臓があると思われる場所の上を思いっきり踏みつけた。咄嗟に躱そうとしていたが、躱しきれずに肋骨を砕く感触が足に伝わった。
奴は立ち上がるが、ふらふらしており最早死に体であったが、手負いの敵にこそ注意しなければならない。そして、先に動いたのはやはり敵の方だった。
先程よりもずっと早い突進で、今度は体ごとぶつかってくるつもりらしい。が、今度は顔をつかんだ瞬間に大外刈りで態勢を崩し、地面に頭を叩きつける。
その一撃で頭蓋骨が壊れたか、少し痙攣して動かなくなった。少し警戒を解かずに見ていたが、一切動かなかったので死んだと確信して緊張を解く。
しかし、人型の生き物殺すのはこれが初めてだが、以外となんともないんだなと思いつつケインの方を見ると、どうやら最後の一体を倒すところらしかった。
相手はもう一つの強めの気配であった大きいスライム。観察スキルで見てみると復元というスキルがあって、いくら表面を削っても直ぐに復元して、弱点である核にまで攻撃が届かないようだ。
対してケインは土の魔法で足止めしながら背後に魔法を貯めている。見たところ30程だろうか。復元させる暇もなく核まで貫くつもりなのだろう。
そして、準備が完了したのか待機させていた魔法を全て解き放った。放たれるのは貫通に特化した槍の形をとった土の魔法。圧縮され本物とほぼ同じになった槍が次々と着弾し、穴を開けていく。
そして、その内の一発が核を貫きスライムは溶けていった。