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  作者: 暇人(過去形)
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第三話

宿を探してさまようこと約一時間。空もだいぶ暗くなり始めたころに一つのよさげの宿を見つけた。


宿の名前は「幸せの宿」という自意識過剰だと思える名前で四階立てだった。


中に入って見てみるとそこには食堂と受付があった。食堂は想像していたよりもだいぶ人が多かったが、あまり騒がしくなくよい雰囲気だった。


受付に向かうと、俺と同年代ぐらいと思える少女無邪気な笑みをこちらに向けてきていた。

その少女しか受付にいなかったので仕方なく少し離れて声をかける。



「宿泊をしたいんだが」


「はい、いらっしゃいませ。お一人ですか?」


「ああ」


「では一泊あたり500ツェルです。ご飯は朝と夜で昼は用意いたしません。お風呂は大浴場が一階にありますのでそこにお入りください。一人がよいという場合には部屋にお湯とタオルをお持ちいたします」


「分かった。とりあえず10泊させてもらう。風呂は大浴場で大丈夫だ」



俺はそう言って銀貨を50枚渡す。

この世界での通貨は全て共通でツェルという単位のお金で行われている。

そのすべては硬貨で、銅貨一枚で一ツェル、銀貨一枚で百ツェル、金貨一枚で一万ツェル、白金貨で百万ツェルだ。大体一ツェルが10円ほどだろうか?



「分かりました。部屋は最上階の右端です」



その言葉に頷いて差し出された鍵を受け取り、食堂らしきとこに向かう。

座るところを探していると、一人の男がこちらに手を振っていた。もちろん無視だ。


空いてる席を見つけてたので、そこに座ろうと歩きだしたところで腕をつかまれた。振り向かなくてもわかるが、振り向いてみるとやはりさっきの男だった。

よく見るとその耳は細長く先が少しとがっていた。



「もしかしてエルフか?」



思わず尋ねると彼は頷いた。エルフという存在に少し放心していると手を引かれた。

一瞬抵抗しようと思ったが別に抵抗する理由もないので素直についていく。


先ほど彼が座っていた席に着くとジェスチャーで椅子を勧められたので遠慮せずに座る。彼も座ってから紙を目の前に差し出してきた。そこにはきれいな字でこう綴られていた。



『俺の名前はケイン・サルベルトと言う。怪我のせいで声は出せない。初めて会ったというのにいきなりですまないが、学園に興味はないか?』



俺はそれを読んでから彼を観察してみた。たしかに喉に傷がある。見たところ年齢は俺と同じだろう。

しかし、体の線は細いし、体力はあるように見えない。だというのに、どこか威圧感というか強者の気配がする。



「確かに興味はあるが、今ここでその話をしてどうするというのだ?」

『実はその学園の入学試験があるのだが、試験には二人一組で挑まなければならない。そこでお前にそのパートナーを頼もうと思ってな』

「なぜ俺なんだ?」

『お前実は強いだろ?俺よりもずっと』



彼、ケインの言う通り俺はケインよりもはるかに強い。少し考えてから答える。



「いいだろう。しかし条件が二つある」

『条件?』

「一つは学園生活に必要な金と物資の俺に対する全面給与。二つ目は俺と勝負しろ。そこでお前の力を認めたら協力しよう」

『分かった。決闘の場所はちょうどいいところを知っているから、明日でいいか?」



俺は頷き話が終わるとともに来た飯をいただきますを言ってから食べ始めた。それを食べて思ったのはさすが「幸せの宿」というだけはある、だった。

出てきたメニューは結構大きいステーキにコーンスープっぽいもの、ロールパンが三つに少量のサラダだった。


まずステーキは切った瞬間から滑らかに切れて口の中に入れると噛んでもいないのにでとろけるようだった。

肉汁はたっぷりなのに全然脂っこくなく、満腹感を感じるが後味があっさりしておりいくらでも食べれそうだった。

スープは少しドロッとしていて、パンにつけて食べた。そのパンだが、ふわふわもちもちでほんのり甘くとて美味しいものだった。

スープはコーンスープによく似た味だったがそれよりも甘く上品な味わいだった。それがパンと合わさってさらにおいしくなっていた。

サラダはいろんな新鮮野菜の上にドレッシングがかけてあった。野菜はシャキシャキでみずみずしく、少し酸味を感じさせるドレッシングがさらに食欲を掻き立てた。


ご馳走さまといって食べ終えるまであまりのおいしさに夢中になって周りのことが見えなくなっていた俺は、食べ終わり少し冷静になると目の前の存在を思い出して途端に恥ずかしくなった。


しかも彼が分かるよ~、といった生暖かい視線を向けてくるからそれが俺の羞恥心を大きくさせる。視線を感じて周りを見てみると、みんなケインと同様の視線を向けてきていた。


俺はその視線に耐えきれずに顔が赤くなっているのを自覚しながら自分の部屋へと駆け込んだ。

部屋の中は大きめのベットが一つにソファーにクローゼットがあった。ベットに倒れこむと予想以上に今日は疲れていたのか、すぐに眠気がやってきたのでとりあえず革鎧などの装備を脱いでベッドの横に置いて寝た。


朝は太陽が昇る前に眼が覚めた。体の調子は万全なのを確認してから一縷いちるの望みにかけて浴場へと行く。

風呂はいつでも入れるようにしてあった。風呂を楽しんでからポーチの中から新しい服を取りだして着替え、食堂へ行く。

まだ朝早いからか食堂には誰もいなかった。しかし、どこからともなくいい匂いがしてきた。


その匂いをたどっていくと調理場らしきところについた。そこにはすごく大きい体をしたおっさんが鍋を煮込んでいる姿があった。

脳の処理が追いつかず呆然と立ち尽くしていると、おっさんがこちらに気づいて近寄ってきた。


目の前に立たれるとやはりとても筋肉が付いており、立っているだけで威圧感がある。

おっさんは俺の顔を見ると厳つい顔を崩して男らしい笑みを浮かべて、鍋を指さして言った。



「ちっとばかし早いが、もう飯を食うか?」

「お、おう。頼んでもいいか?」



俺は混乱しながらもなんとか返事をした。おっさんは任せろ、と言って近くのテーブルに座っておくように言って料理に戻っていった。

少しそのまま呆然としていたが、目の前に料理が置かれたことによって正気に戻った。いただきます、と言ってから食事に手を付ける。


料理はポトフらしきスープとパンとサラダとスクランブルエッグらしきものだった。スープを飲んでみるとポトフの味がしたが、今まで食べた中で一番美味しかった。

スクランブルエッグらしきものを食べると、隠し味かチーズのとろりとした触感と甘い風味が口の中に広がった。

サラダは昨日と違うドレッシングがかけられていて、朝の寝起きにちょうど良いとてもさっぱりした味だった。

昨日と同じように夢中で食べていって、食事を終えてご馳走様、と言ってから目の前の男の存在を思い出して羞恥心がわいてきた。

昨日とまったく同じだ。とりあえずは彼に謝罪する。



「こんな朝早くにすまなかった。まだ準備中だったんだろ?」

「気にするこたぁないさ。料理は出来てたしな。ところで、俺の料理はどうだった?」

「とても美味しかったよ。ここのご飯はあんたが作ってるのか?」

「その通りだ。それにしてもやっぱ自分の飯を美味いと言ってもらえるのはいいもんだぜ」



そう言って彼は笑みを浮かべた。その笑みはこう言っては失礼だが子供のように無邪気な笑顔だった。そこで俺は彼の名前を聞いていないことに気づいた。


「ところで、あんたの名前は?俺はリオンだ」

「俺の名前はドルンだ。ここは俺の嫁と娘の3人だけでやってんだ」

「3人だけでか?建物にしては少なすぎないか?」

「ここの客が自分から手伝ってくれんだよ。掃除とかな」


ドルンがそう言いながら指を差した方向を見ると、一人の男が厨房の前の通路を雑巾で拭いていた。

こちらが自分のことを見てるのを感じたのか、顔を上げこちらに笑顔向けてきた。

とりあえず会釈を返しながら俺はとても驚いていた。彼はとても汗をかいていたのだ。慈善だけではあそこまではやらないだろう。


「なぜそこまでやる?明らかに慈善だけには見えないぞ」


思わずそう男に聞いてしまってから、しまったと口を抑えた。彼は少し驚いたように眼を見開いた後に微笑を浮かべて俺の質問に答えてくれた。



「ここに住んでいる人達はほとんどが冒険者だ。そして、そこにいるドルンさんもまた冒険者だったんだ」

「確かに料理人にしては過剰なほど鍛えている。自衛のためかと思っていたが、そういうことか」

「それで、ドルンさんが冒険者だった頃に新人だったやつもここにたくさん住んでいる。ドルンさんは新人だった俺達に戦い方や、たくさんのことを無償で教えてくれた。重症で死にそうだったやつを自分の全財産を使って救ったこともある。これは、その恩返しなんだ」


俺はその話に驚いてドルンの方を見ると、彼は照れくさそうに頬を掻きながらそっぽを向いていた。その姿に思わず笑ってしまった。その後は、俺も掃除を手伝って、宿を綺麗にしていった。途中で掃除してる人には挨拶をしていった。みんな笑顔で返事を返してくれた。


掃除が終わるころには太陽も出ていて、食堂も大分賑わっていた。その中にケインを見つけたので声をかける。


「今日の約束、どこで待っていたらいい?」

「町の門のところ準備を整えた状態で待っていてくれ。俺も準備したらすぐに向かう」


その言葉にうなずいて一度部屋に戻り、防具を身に着けて剣を腰に差し、逆側の腰にポーチを付けて外の出る。

途中で美味そうな串焼きがあったのでそれを買って頬張りながら門で待つ。串焼きを食べ終わると同時にケインが来た。


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