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天に二日無し  作者: OWL
序章 神亀雖寿 ~前編~
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第9話 キロの一座

 座長のキロはなんだかんだいっても一座の花として活躍してきた小猿を処分することに抵抗を感じていたのでドムンが逃したことに安堵を感じていた。

目的地の皇都まで地元人のオルスが案内してくれるし、補償がどうのこうのと揉めることもあるまいと考えた。とにかく金を稼ぎたい団員はこの際、むしれるだけむしりとってやろうと考えていた者もいたが、ブラヴァッキー伯爵夫人が彼らを止めてくれた。


「現実的に考えてこの村に現金があると思いますか?無理に強請れば彼らも抵抗します。わたくし達も関所を通らず国境を越えた身、彼らが行政について無知だからこそ通行証を貰えたものの下手に揉めれば厄介ごとを招きますよ」


一座は帝都の混乱にかこつけて、必要な手続きを取らずに関所を迂回していた為、脛に傷を持つ身であった。恐怖感に駆られて慌てて帝都を逃げ出したので、書類を用意する時間が無かった。


座長のキロも夫人に同意して皆を説得した。


「我々は運が良かった。ここの村の人々が稀な自治権を得ていて、行政手続きも委任されているおかげで通行証を発行して貰える。一方あの猿についてはどうだ?動植物の必要な持ち込み手続きを受けていない。そもそもアレの価値について証明出来るような書類は何処にもない。動物学者になら理解してもらえるかもしれないが、どこに伝手がある?」


もともと手に負えず処分するのが優勢だった為、座長と夫人の説得により一同が同意して騒ぎ立てない事になった。


 ウカミ村を出発した一同は道がうっすらとはいえ雪に覆われて地平線まで荒野が広がっている光景を見て、改めてオルス達が先導してくれている事に感謝した。

オルスとヴォーリャは道中でレナートを鍛えていたが、少々厳しすぎるのではないかと夫人は苦言を呈した。いくらなんでも幼児相手に厳しすぎる。

途中の温泉地まで一緒についてきているスリクとその父も幼児に対する厳しい訓練にやや引いている。


「ここが暮らすのに大変な土地だというのはわかりますが、そんなにお嬢さんに厳しく当たらなくても・・・」


レナートはしばしば泣きべそをかいて夫人のスカートの影に隠れていた。

お香の香りがする夫人がお気に入りらしい。


一座の中でもっとも年配なのがブラヴァッキー伯爵夫人と道化師のタッチストーンで、二人が見かねて止めに入るとオルスは呵々大笑し、レナートは憮然とした顔になった。


「何か?」

「こいつは男の子ですよ」

「ええっ?」

「意外ですか?」


一座の人間が妙に意外そうな顔をしているので逆にオルスの方が驚いた。


「ブラヴァッキー伯爵夫人は生まれたての雛の性別も当てる名人なんですよ。彼女が性別を外すなんて意外ですね」

「伯爵夫人?なんで貴族の方が一座に?」

「以前から我々に懇意にしてくださっていた方で帝都を脱出するよう勧めて下さったのも彼女なんです。もとは外国の貴族の方なのですが、未亡人で悠々自適の生活をしてらっしゃるのです」


ブラヴァッキー伯爵夫人は趣味と実益をかねて占い師をしており、一座に加わっていた。


「へえ、そりゃ凄い。必要以上に繁殖されると困るので動物の雌雄の見極めを出来る人はなかなか貴重なんですよ」


生まれたては勿論、放牧に連れ出す時、家畜小屋に連れ戻す時、雌雄の判別に失敗すると面倒な事になる。


「狩人達も時々対象外の雌を狩っちまう事があるんです。ご婦人は占いを辞めても生計を立てられるんじゃありませんか?貴族のご婦人に失礼かもしれませんが」

「いえいえ、構いませんよ。帝国ではなんの価値もない称号ですから。それに外してしまったばかりですからね」


自慢の特技を外してしまった夫人も苦笑いである。


「それにしても変ねえ、どう見ても女性の霊質を備えているのに。ごめんなさいねレン君。決して変な意味じゃないのよ。わたくしの目が悪いの。年のせいかしら」

「ううん、いいの。きっと精霊さんが心配してついてきてくれてるから勘違いしちゃうんだと思う」

「ああ、なるほど。守護霊のようなものね」


伯爵夫人はレナートの言葉に理解を示し、逆にレナートの方が面食らった。

そういう霊的な事をいうと今まで周囲の子供らには馬鹿にされてきたものだった。


「わかるんです?」

「ええ、もちろん。わたくしの専門はそちらですからね。多くの人には見えないかもしれないけれど誰しもこの世の肉体と別に重なりあう世界にもう一つの体、精神体を持っているの。わたくしはもう一つの目で貴方を見てしまったのね。この場合は肉眼で見るべきでした」

「かさなり合う世界?」

「ええ、そうよ。平民の方には見えないかもしれないけど、確かにもうひとつの世界が存在するの」

「そっかあ、やっぱり幻じゃないんだ」


レナートの夢見るような視線に夫人は微笑んだ。

それをみてオルスは顔をしかめた。


「ご婦人、そういうことは貴族や学者の先生だけが考えていればいいことです。この子には地に足をつけて貰いたい」

「ええ、もちろんそうね。この大地で生きていくにはまずはお父様のおっしゃる通りにすべきでしょう。占いや霊視の力があっても大地を耕し、その恵みを得ることは出来ませんから」


占いなど都市で生きる裕福な市民のお遊びに過ぎず、荒野で生きる部族にとって腹の足しにもならないと考えているオルスに逆らわず夫人は同意した。


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2022/2/1
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